誰か

第1話

「というわけで、ボクの話はおしまい」

そう言って、ボクは百物語最後のロウソクを吹き消した。辺りは一瞬で真っ暗になった。わー、きゃー、という悲鳴が響いて、ボクは、その暗闇の中で、小さく笑ってしまった。

 悪趣味?だって面白いんだからしょうがないじゃないか。だって、そのためにやるんでしょ?百物語って。怖がらせる方も、怖がる方も、分っててやってる。だから、いいじゃない。


くすくすくす


「はい、おしまいー」

皆の声が収まらないうちに、担任の女の先生が電気のスイッチを入れた。真っ暗だった教室がぱっと明るくなった。

 夏休みの一夜、五年一組の皆と担任の先生で教室を借りて百物語をやったのだ。もちろん、クラスの人数は百人ではないから、三十語り、と、いったところだった。子供達だけでは夜に集まる事はできないから、先生も一緒にいたが、百物語には加わらなかった。だから、話の数は全部で三十。

 クラスの子供達皆がくるりと輪になってロウソクを置く。ロウソクは先生が用意した。人数分より多めに用意してくれて、それを段ボールの箱から子供たちが持って行って、置いた。それに先生が火をつけると、まあるく明かりが輪になった。ロウソクの明かりはそれほど強くはなく、遠くまでは照らさない。せいぜい顔が見えるくらいだが、それが却って不気味に映る。そんな中で、怖い話を一人一人が語り、話し終わったらロウソクを一つ消していく。

 一つ消すごとに暗闇が増し、最後の一つが消えた時、物語に出て来たお化けが暗闇の中に浮き上がる、という話なのだ。

「でも、お化け出なかったね」

「やっぱり迷信なんだよ」

「明るくなったらほっとしたね」

暗闇の緊張から一気に解放されて、誰もが明るい顔になっていた。先ほどまでの恐怖は既に微塵も感じられない。先生もすっかり安心した顔になっている。

「はいはーい。じゃあ、皆、自分が使ったロウソクを片付けましょう。火は消えてると思うけど、一応このバケツに入れてね」

先生はそう言ってアルミのバケツに少し水を入れたものを用意した。子供たちははーいと素直に返事をして、自分が吹き消したロウソクを持ち、行儀よく一列に並んで先生の持つバケツにロウソクを入れていった。

 何事も無く全てが終わりかけた時、誰かがふと、気づいた。

「ね、そのロウソク、誰の?」

皆が声の方を振り向くと、そこにはぽつんと忘れ去られたロウソクがあった。子供たちは何となくの流れで、既に片付けた子と、まだ手にもって並んでいる子に分かれていた。手に持っている子は、自分のロウソクを持っている。もう一つの子供の集団は既に片付けた子だ。ロウソクが床に残っているはずがない。

 子供の数と使ったロウソクの数は同じはずなのに、一本、ロウソクが多かった。最初は、誰かがズルをして、片付けなかったのだと思った。しかし、子供たちの目は、防犯カメラのように、誰が片付けたかをはっきり覚えていた。

 そうやって、確かめていくうちに、誰もが頭の片隅に可能性の種を感じていくが、誰も口にしない。子供たちの顔色が、あからさまに悪くなって言った。

 すると、それまで黙って空を見つめ、何かを数えていた委員長が、


ぽつり


「三十一話、あるけど……」


一瞬、教室が静かになった。


直後、皆の耳元に、同じようにささやく声が聞こえた。


「楽しかったよ」



くすくすくす……

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