「テンプレ作品ばかりでオリジナリティもクソもねえな」

 この話をすると色々な意見が出てくるのは分かっているのだけれど、あえてマーケティング的視点において考えると、どんなことが言えるのかを書き留めておきたい。


「おいおいテンプレ作品ばっかり書いててオリジナリティもクソもねえな」


 そんな話がSNSで流れてきた。その後に「そんなの書いてて面白いのかね」とおまけが付いていたが、その部分はあまり興味を惹かれなかったので割愛する。


 その発言の根本の部分では、独自性のなさへの嫌悪であったり、うまくいかない自身の作品に対するストレスであったり、楽して上手くいってる自我を持たずにマーケティングの操り人形になって美味しい思いをしている(ように見える)人たちへの妬みだったりするのではないかと推察している。


 では、そのように見える現象をどう捉えたら良いのか、その話をマーケティング的視点から紐解いていく。


 この話は、2つの観点で分けて考えたい。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 1つ目は「テンプレ作品」はオリジナリティの喪失なのかという点である。


 確かに喪失しがちだとは感じるところはある。つまり、テンプレ作品ってこういうものでしょという決めつけで書いた作品が生まれやすい環境が出来上がるというのがオリジナリティの喪失に繋がりやすいのだ。


 同じようなテーマ、似たような展開、そうでなければ奇抜な出オチのネタ。


 そういったところに辟易している方がいてもおかしくはないとは思う。ただ、そのような傾向があったとしても、ランキングに入ってくるような人気作品については、オリジナリティが喪失することなどあり得ないと考えている。


 その理由は、多くの中から読まれているからである。読まれずに埋もれてしまった作品の中にオリジナリティが無く、既視感を感じたり、お決まりの展開だけがダラダラと続いて、元ネタの作品が透けて見えるみたいなものはあるかもしれない。


 だが、人気の作品というのは、少なからず人が見て面白い、応援したいと思って評価をした結果ランキングを上っていくのだ。その時点でランキングの奥深くに眠ってしまったものとの違いは多いにある。


 実際のところ「テンプレ作品を書いてください」と言われると、書けるかもしれないが、それこそ凡庸なものになってしまう。難しいのだ。


 テンプレやジャンルは、ある種のマーケットが存在するようなもので、博打をせずに求めている人がいるところに作品を放流することができるという利点がある。市場のないところに商品をリリースするな、売れずに失敗するぞと同じだ。


 プロダクトアウト・マーケットインを極論で話すのと同じで「俺が書きたいものを書くんだ人気ジャンルなんて知らねえ」がプロダクトアウトの最たる例とすると、「ウヘヘ、最近人気のタイトルちょっと変えてプロットも寄せて書いちゃお」がマーケットインの最たる例である。


 前者が、テンプレ作品に悪態をついた人の考える創作に対する姿勢の理想像で、後者がその人が揶揄する没個性な作品を書く作家さんに対するイメージだろう。


 まあ、どちらも失敗するというのがプロダクトアウト・マーケットインの教訓で、両輪なのでどちらも考えながら何を作るのか考えることが重要だ。


 だが、考えてみて欲しい。同じモチーフであっても作家が変わると自然に全然違ったものになるのは想像できるだろう。絵画の世界を見てみればマネとモネの「草上の昼食」なんて有名な例もある。そのマネの「草上の昼食」すら「田園の奏楽」という50年近く前の作品からインスピレーションを受けているというのだ。


 「個性なんて殺そうとしたって出てくるものだし、それこそ個性が出てなかったら人気になんてならないよ、それは自分でテンプレ作品を書いてみればわかることだよ」というのが私の意見だ。


 強いていうのであれば、アイデアの掛け算でテーマを決める時に、一方をマーケット性を考えたもの、もう一方を自身の得意な独自性にすると良いのではないだろうか。おすすめしたい。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 2つ目は「誰のために書くのか」という問題である。


 自己表現であり、自己表現をした結果に対して、どのような評価が付くのかは特に気にもしないという考え方の場合は「自分のため」に書いているということになる。


 この方法で良い結果を残すこともあるが、基本的にはどのようなものが今求められているのかを加味して書く人が多いかと思う。それは人に読んでもらおう、楽しんでもらおうという精神の表れである。つまり「読んでくれる人」のためだ。


 ここで踏み間違える人がとても多い。


 創作論を語るつもりはないが、マーケティングという分野において、ふんわりとした「お客さま」をイメージして作った商品や広告は反応が著しく悪い。「読んでくれる人」をどこまでイメージできているかが重要なのだ。


 そうなると、マーケティングを少し齧ったことのある人が「ペルソナ」と言い出すだろう。本当に存在するかどうかもわからない、理想像からペルソナを作って、だから自分達の考えは正しい、などと主張するケースをよく見る。


 ペルソナ自体が悪ということではないが、解像度の低い大勢の人をイメージした平均的な人物像とするのが間違いだ。


 ではどうするのかというと、ローヤルカスタマー(優良顧客)から理想的な顧客をいくつかピックアップし、具体的な人物を抽出して考えるのが最も適している。


 今、あなたの作品のファンがいるとしたらその人のことを思い浮かべれば良いし、そういった人がいなかったとしたら最も身近なファンは自分自身だ。自分自身が人気のジャンルを好きで読んでいて、自分が読みたいと思う作品を書き、同じ感覚を持つ人が、よくぞ書いてくれたと喜ぶというのが非常にわかりやすい流れだ。


 「おいおい、それだと自分の好きなもの書くのと同じじゃないか」という人が出てきそうなので言っておくと人気のジャンルで自分の好きなものを詰め込んで書くというところに意味があるのだ。それだけ、そのジャンルのことを知っていて、そのジャンルに対する愛着もあり、こういうものを盛り込みたいという想いがある。だからオリジナリティが出る。



 もう一歩深堀すると、この話はCVRの話になる。


 CVR(コンバージョン率)というものがある。例えば商品を販売しているページがあったとして、そのページに来てくれた人数に対して何割が購入してくれたのかという考え方だ。


 前回説明したのはCPA(顧客獲得単価)という考え方で1つの商品を売る際に、かかった費用がいくらで、広告費に対して利益がいくら残せるのかという考え方を説明した。


 このCPAを決める大きな要素がCVRだ。


 作品を読んだ人が作品を評価してくれることをコンバージョン(ゴール)だとすると、どのような数字や傾向が見えるのか「なろう」で公開している私の過去作品を事例にしながら考えてみよう。


作品A ----

累計ユニークユーザー23万人

ブックマーク2400人(対UU 1.04%)

評価300人(対UU0.13%)(対ブクマ 12.5%)


作品B ----

累計ユニークユーザー5万人

ブックマーク530人(対UU 1.06%)

評価70人(対UU 0.14%)(対ブクマ 13.2%)


 ユニークユーザーとは、ブラウザを閉じたりしても同じ人物であれば1とするカウント方式だ。


 この数字を見ると%は似たような数字に落ち着いていて、累計ユーザーの0.13%〜0.14%だ。「なろう」本体ではないノクターンノベルズでの数字なので、一般向けの層に作品をリリースすると、また違った数字が出るのかもしれない。参考程度にしてほしい。


 しかし、なろう本体側だろうと、カクヨムだろうと、結果を収集していくと同じような数字に収束するはずだ。


 この数字を見ていると「もし評価してくれるユーザーが0.13%ではなく、全体の1%だったら、どれだけのスピードでランキングを駆け上がっただろう」と妄想せずにはいられない。


 作品Aは日間2位になった作品である。評価率1%なんて数字が出ていたら、おそらく日間1位になっただろう。


 私のこの結果で言えば、1000人に2人評価してくれればいいと言い換えることができる。あなたの作品も計算してみてほしい。


 1000人の読者の中にいる、たった2人にブッ刺さる作品だったら、その他の評価してくれない読者が好みじゃなかろうが関係ないのだ。


 実態のない誰かの集合体である「みんな」に向けて書いた途端に陳腐化する。100人に1人に強烈に刺さったら大成功が見えるというなら99人は捨ててでも1人が大好きだと言って、人に勧めたくなったり、感想をどこかに吐き出したくなるような、強い作品であればいい。


 だからこそ、たった1人でも構わない、あなたの作品が好きだと言っている人の喜ぶ話や、そのテーマに対して自分自身の好きが目一杯詰まった作品にすることこそが、重要なのである。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 ここまで読んでくださった方は、「テンプレ作品ばかりでオリジナリティもクソもないな」という刺々しい言葉に対して、きっと「まあ、なあなあなテンプレ作品もあるけど、そんなものばっかりじゃないよな」と温和な気持ちで思えるのではないだろうか。


 99人が好きじゃないと言っても、たった1人にブッ刺されば大成功。


 その精神を忘れなければネガティブなコメントも「いよいよ尖った作品になってきたな」とニヒルな笑みを浮かべながら、良い気分で筆を取ることができるはずだ。

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「ラノベの打ち切りは3日で決まる」マーケティング思考で捉える辛辣コメント 那古野 賢之助 @kennsuke

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