第3話結論
「もういい……」
今まで黙って話を聞いていた雨宮が消えてしまうんじゃないかと言うほどの小さな声でそう言った…
「もういい」
今度はさっきよりはっきりとした口調で同じ言葉を繰り返す。
「もういいって何がもういいってんだよ」
「もう人を傷つけたくない!」
「は?なんだよそれ」
「今まで散々今のこいつと同じように動けない状態にして金を巻き上げてきたじゃないか、 今更何を怖がってんだよ」
「それとも何か今さら被害者面でもするつもりか?」
「そんなことをしたところでお前が犯した罪が消えることはない」
「どんなにいいつくろったところで罪は罪なんだよ」
「たとえお前がどんだけ論理立てて理由を説明したところでどんなにお前が己の正義を主張したところで世間から見たらお前がやったことは犯罪だ」
まくしたてるような口調で雨宮に容赦なく言葉をぶつける。
「そんなこと分かってるーーー!!!」
割れんばかりの声で一言だけそう叫んだ。
「こうして人を脅してお金を巻き上げていくにつれて人としての大事なものを失っていったような気がする」
「今更お前が何を言う、 失ったような気がするじゃなく失ったんだよお前は!」
「平和で平凡な人としての暮らしをお金の闇に飲み込まれてな」
「元々お金の闇を作り出したのはお前の親父だからなんとも可哀想ではあるけど」
「そうは言っても少なからずお前にも責任の一端はあると思うぜ」
「だからこうして…」
おそらく働いて返しているんだと言葉を続けようとしたのだろうがそれを男に遮られてしまう。
「俺が言ってんのはそういうことじゃない」
「お前があの時借金を返済する手立てを少しでも見つけようと努力していれば何か変わったかもしれねぇぜ」
「だが実際お前が取った行動はこいつを騙したあの公園で自殺をしようとした」
「そういう意味では俺に感謝して欲しいくらいだぜ」
「お前が自殺しようとしたところを俺が引き止めて借金を返すチャンスを与えてやったんだから」
「まぁ今更俺が言えたことじゃないか」
一息ついたあと付け加えるようにそう言った。
「随分と長話をしちまったな」
「さてもう死ぬ覚悟はできたか?」
いきなりそんなことを言われたにも関わらず舟着は意外にも冷静だった。
「ひとつだけ教えてくれ」
「なんでお前がこんなことをやってるんだ?」
舟着は男の方に目を向けて尋ねる。
少し考えるような表情をした後、 ズボンのポケットの中からタバコとライターを取り出しそのタバコを口にくわえて火をつける。
そしてその煙を吐き出したあとこう言った。
「いいだろうお前はどうせここで死ぬんだせめてもの冥土の土産に教えてやるよ」
「お前も俺も知っての通り今のウィルスが流行った状態で就職した」
「ウイルスが収束してきて少しの間リモートワークをやってたな」
「大体俺がその会社に入って一か月後くらいにやっと会社に行けるようになったんだ」
「だがいざその蓋を開けてみたらそこの会社は物凄いブラック企業だったよ」
「そんなある日上司に呼び出されてミスをした事をものすごい怒られてな」
「その上司が最後に俺に向かってなんて言ったと思う?」
「これだから今の世代はって言ったんだぜ」
「今になってもっと俺も馬鹿だったのそれを言わせてこらえてるの上司を殴っちゃうなんて」
「今になって思うと俺もあの時馬鹿だったたったそれだけの一言で我慢できずに上司を殴っちまうなんて」
「おかげで俺の人生は転落したよ」
「それからいくつか会社の面接に行ったけど全部落とされた」
「人間履歴書に黒が一つつくだけでこんなに対応が変わるんだって思い知らされた」
「全部自分が悪いんじゃないかと言われればそれまでだが、それでもあの上司を殴ったことは間違いじゃないと思ってる」
「随分長い世間話だったかもしれないが冥土の土産には丁度いいだろう」
「さてどうするこの女の代わりに100万円払うかそれともここで死ぬか」
そう言いながら引き金に指を伸ばす。
「お前の貯金がもうとっくに100万円あることは調べが付いてるんだ」
「考えてみたらそれもそうだよな」
「労働時間は圧倒的にオーバーしてる物の人並み以上の給料をもらってるんだもんな」
「かといってどこに行くでも打ち込める趣味があるわけでもなく」
「ただ生活に必要なお金を払ってるだけ」
「その余ったお金は全部貯金してる」
「お金があってもお金を使うことができないなんて何とも言えないよな」
「さあ俺が世間話の続きをしてる間に考えはまとまったか?」
そう言って男は俺の額に向かってその銃口を向けてくる。
「もう一度だけを前に選択肢をやる」
「今ここで死ぬかお金を払って逃れるか選べ」
「今ここで死ぬか お金を払って逃れるか選べ」
「やめてその人を殺さないで!」
長いこと黙っていた雨宮がそう叫び声を上げる。
「女は遠回しにお前に借金を返済してもらおうとしてるぞ」
するとなぜか男は顔に不敵な笑みを浮かべる。
「お前には特別に三つ目の選択肢を与えてやる」
そう言ってゆっくりと男は自分が持っていた拳銃を舟着に握らせ銃口を自分の方へと向ける。
男は自分の額を重工の穴を塞ぐようにくっつける。
「お前が俺をこのすば少なくともお前たち2人は一時的ではあるが助かる」
「俺を200万と言う借金地獄から掬い上げてくれ!」
「…」
「分かった借金を払う」
「ただし俺が選ぶのは四つ目の選択肢だ」
「まず一つ目は雨宮とお前がおとなしく俺に借金を返済されることだ」
「2人組の借金何てお前自分が何言ってんのかわかってんのか?」
「普段家で仕事してるだけの社畜の金額をなめるなよ、300万なんてそんな金額屁でもねぇよ」
「最後のもうひとつの条件は、俺と友達になってくれ」
「お前と友達になる?馬鹿言ってんじゃねえよそんなことしたらお前も同罪みたいなもんだぞ」
「いいじゃねえかそれはそれで、人は誰しも誰にも言えない秘密を一つや二つ持ってるもんだろう」
そんなわけで今回の落としどころ。
後から聞いた話だがどうして200万の借金を背負わされたのか理由を聞いたところ、 もちろん自分で殴ってしまったというのもあるが裁判になり他の誰かがやったミスを被せられて借金が上乗せしてしまったらしい。
雨宮の借金を舟着が払い無事に借金を完済した。
俺が払った借金は利子なしでふたりから少しずつ返してもらうことで話がついた。
それから一か月後。
「まったくお前の頭はいかれてやがるよ」
「普通のやつなら元ヤクザのやつと友達になろうなんて考えもしねーだろう」
「それならそれでいいよ」
「たとえその選択が社会的に許されない関係だったとしてもそれを続けるかどうかは俺が決める」
「と言うか俺も社会から はみ出したやつだからそういう意味では俺たちは似た者同士なのかもしれないな」
「そうなのかもな」
こうして振り返ってみると俺だけがただ2人の借金を払い損した気もするがそんなことはない。
社会人1年目にしてやっと本当の友達いや悪友と知り合えたんだから。
こうしてこの出来事にこの物語に終止符を打つことができた。
悪友 カイト @478859335956288968258582555888
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます