第2話狂わされた人生

「柏原舟着くんだよね?」


心の中でやはり家に帰ろうかと 思っていたその時その女の人が目の前に現れ曖昧な口調で舟着の名前を呼ぶ。


「私のこと覚えてますか小学校の時一緒だった」


そう言われてなんとか思い出とそうとしてみるがなかなか思い出せない。


「って覚えているわけないですよね小学校の時なんてそんな昔のこと」


「別に同じクラスだったわけでもないですし」


「それで俺とただ小学校の時一緒の学校だったって言うあなたが何の用ですか?」



少し嫌な言い方だなと思われてしまったかもしれないが本当に久しぶりに人と喋ったので仕方がないと言えば仕方ない。


「実は今日はあなたに謝らなきゃいけないことがあって」


謝るとは一体なんのことだろう別に謝られるようなことをされた覚えはないのだが?


「舟着くんは覚えてるかどうかわかんないけど小学校の時私がいじめっ子にいじめられたところを助けてくれたのに、私あの時ちゃんとお礼言えなかったから今日はそのお礼を言おうと思って」


「あの時は助けてくれて本当にありがとうございました」


真っ直ぐ俺のほうを見て真剣な表情でそう謝ってくる。


「……あのその」



本当に久しぶりに人と話しているせいなのかなかなか言いたい言葉が出てこない。



「俺もうそのことについて全く気にしてないし大丈夫だよ」


「何だったら昨日まで忘れてたぐらいだし」


「本当に?」


確認するような口調でそう聞いてくる。


「ああ、本当だよ」


「よかった」


そんな安堵の言葉を口にしたと同時に身体の全身の力が抜けたかのように公園のベンチに横たわる。



「別に確認するほどのことじゃないのかもしれないけど一つ聞いていいか?」



「うん、いいよ」


「なんで俺があのいじめこっから守ろうとした時あんな顔をしてたんだ?」


そう尋ねるとなかなかピンときていなかったらしく舟着はこう言葉を付け加える。


「えーと俺が男子生徒に殴られてた時」



もちろん人が殴られているのを見て穏やかな表情ではいられないだろうが、あの時の表情はいじめっ子のことを怖がっているというよりかは俺のことを怖がっているようだった。



「あの時は私のせいで舟着くんが殴られているんだと思ったらそれに耐えられなくて逃げちゃったの」



「あのは時本当にごめんなさい」



「なるほどそういうことだったのか」



「俺を呼び出た理由は分かったよそれじゃあ俺はこれで」


もうおそらく会うことはないだろうと思いつつ座っていたベンチから立ち上がり公園の出口のほうへと向かおうとする。


「ちょっと待って!」


そう言って服の裾を掴まれてしまう。


疑問の表情を浮かべながら顔だけ向ける。


「せっかくこうして会えたんだからもっといっぱい話そうよ」


「そうだせっかくだから私の家に来ない?」


舟着はそのいきなりの提案に驚きつつも少し考えてみる。


「まぁ…別にいいけど」


どうせ家に帰ってもやることがないと思いそれだったら人の家にお呼ばれするのも家に帰ってゴロゴロするよりかはマシだと思った。


「でもいいのか…」


名前を呼ぼうと思ったが名前が出てこない。


よくよく思い返してみるとそもそもこの人の名前を小学校の頃から知らなかったんだから当たり前か。


雨宮空あまみやそら


「え?」


「私の名前は雨宮空」


船着が言葉に詰まっていることに気づいて察してくれたのか名前を教えてくれた。


「舟着くんには同じ小学校の時教えてなかったもんね」


「それじゃあ私の家に行こう」


舟着は言われるがままに雨宮についていく。



「ここが私の家」


思っていたよりも大きな家だったので思わず見上げてしまう。


「お邪魔します」


舟着はそう言いながら家の中へと入る。



靴を脱ぐために下に下げていた目線を元に戻そうとしたその瞬間!


何者かにスプレーのようなものを吹きかけられた。


「よう久しぶりだな」



舟着が目を覚ますとなぜか筋骨隆々きんこつりゅうりゅうといった感じの体型をした男が目の前にいた。



久しぶりだなと言われても舟着にこんなガタイのいい知り合いがいた覚えはないのだが。



辺りを見回してみるといつのまにか全く知らない場所に連れてこられていた。



どうやらさっき吹きかけられたスプレーの様な物で眠らされてしまったみたいだ。



いつのまにか椅子に座らされていて手と足は紐のようなもので拘束され口をガムテープで塞がれている。


刑事ドラマとかでしか見ない監禁状態だった。


「って、お前にこんなことを言っても覚えているはずないかだいぶ前の話だもんな」


「今でも思い出すと笑えてくるぜこの女をお前が守ろうとしてお前が俺にボコボコにやられたのを」



そう言ってその男は雨宮の方に顔を向けながら言う。


「うーーー」


声を出そうとしてガムテープで口が塞がれていることに気づく。


椅子に座っていた男はゆっくりと立ち上がり舟着に近づいてくる。


小学校の時の話なのでそれはそうかもしれないが、俺の記憶にあるいじめっ子のイメージからは想像できないくらい見た目が変わっている。


そのガタイのいい男は舟着の口を塞いでいたガムテープを取る。


「でもなんで俺が今監禁されてるんだよ」


「今俺こいつに金を貸してるんだがこいつが背負ってる借金を返すために今お前を監禁して借金を返そうとしてるっていうわけだ」


「借金!」


予想もしていなかったその言葉に思わず驚きの声を漏らしてしまう。



「あそうだ!こいつの親はなぁとある会社の社長だったんだがついこの前倒産して父親は自分の娘に借金を押し付けて海外に逃げたんだ」



「そんな時に俺がこいつと出会って借金を肩代わりしてやる代わりにこの仕事を紹介したってわけだ」


「こいつは何十万円とあった借金が百万円のところまで返し終わってもうすぐこの借金生活が終わるところまで来た」


「でもなんで借金を返したいんだったら俺を捕まえるよりももっとお金を持ってるやつを捕まえた方が効率がいいだろう」



「それはそうなんだけどなぁ、お金持ちは意外とこういうのに騙されなかったがするんだ」



「それはそうなのかもしれない



「どだとしても俺を狙うよりはいいだろう!」



「それはそうなんだがなぁ、本当の金持ちは意外とこういうのに騙されなかったりするんだよ」


「詐欺師がどうやって人を騙すのか知ってるか?」


「全く知らない奴からお金をふんだくるよりもある程度浅く広く関係を持ったやつの方が騙しやすかったりするんだよ」


「お互いがお互いのことをそんなによく知らないっていうのがもしかしたらポイントなのかもしれないな」


「俺と雨宮は浅く広くどころか名前を知ったのだってついさっきなんだぞ」


「だからさっきも言っただろう何もお互いに深い関係である必要はないんだよ」


「お互いが同じ学校だったっていう共通の話題があるだけで人は途端に騙されやすくなる」


「…」


普通なら元々同じ学校の生徒だったやつに騙されたとなれば怒りの感情や悲しみの感情が湧いてきてもおかしくないが、舟着はそういった感情が湧き出てくることはなかった。


「それにしてもあんなDMの文章一つでお前をこんな簡単に嵌められるとは思わなかったよ」


小さく笑いながら言う。

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