悪友
カイト
第1話一つのDM
令和4年とあるウイルスが流行っている影響で大々的にリモートワークが普及した。
そんな
舟着にとって直接会社に行かなくて良い子の職業は天職だった。
「リモートワークはとてもありがたい」
舟着は自分以外誰もいない1人暮らしの部屋の中つぶやくようにそう言った
極度の対人恐怖症の舟着にとってほとんど家で仕事が完結するこの環境は本当に転職だ。
対人恐怖症というよりかは人と話すのがそもそも苦手なので普段リモートの仕事をする時ですら自分の顔は出さずに代わりに別の映像を表示させている。
だがもともとこんなに人が怖かったわけではない。
数年前。
だいぶ前の小さい頃の話なのではっきりと記憶に残ってはいないが、学校の廊下を歩いていると誰かの話し声が聞こえてきた。
「お前今俺にぶつかっただろう!」
その大きな怒鳴り声を聞いて舟着は歩いていた足を一旦止めそっちの方に顔を向ける。
見てみると1人の女子生徒が1人の男子生徒に怒鳴られ怯え顔を曇らせて俯いているようだった。
思い返してみるとこの出来事があったのは小学校低学年ぐらいの時だっただろうか!
とにかくその時の舟着はわけがわからないままにその女の子を助けようと思った。
その女子生徒に男子生徒が手を出ようとしたその瞬間!
「ちょっと待った!」
舟着は何を言っていいか分からず必死に考えて出た言葉がそんなありきたりとも言える言葉だった。
舟着がそんな声を上げると女子生徒の女の子を殴ろうとしていた男子生徒の手が止まる。
「あのそのえーと…」
とりあえず殴るのを止めたのはいいものの次に何を言うか考えていなかった俺はとてもその時ビクついていた そのことだけは鮮明に記憶に残っている。
「なんなんだよお前、何かあるなら俺に言ってみろ!」
剥き出しの怒りの感情がこもった口調でそう言ってくる。
その圧倒的な怒りの表情を目の前にしてその時の舟着が何か言い返せる訳もなく。
今の自分でもきっとそんなことはできない。
似合わないことをしてしまった舟着はというと。
「ほらなんとか言ってみろよ!」
何も言葉を返さなかったことで男子生徒の怒りをさらに買ってしまったらしくボコボコに殴られ続けた。
「困ってる女の子を助けるヒーロー気取りかお前は!」
ヒーロー気取り、決してこの時の舟着は ヒーローを気取っているつもりなど全くなかったのだが、男子生徒からはそう見えても仕方がないのかもしれない。
何も言わずに瞳から涙一つこぼさず耐え続けた。
「こんだけ殴られてお前表情ひとつ変えないなんて気持わりいよ…」
今まで舟着の上に馬乗り状態になり殴っていた男子生徒が立ち上がり呟くようにそういった一言が舟着の心に大きな穴を開けた。
ふと女子生徒の方に顔を向けてみると、その女子生徒は舟着が殴られている光景を見て腰を抜かしてしまったらしく壁に横たわるように座り込んでいた。
その光景があまりにもショックだったのか瞳に涙を浮かべながら何か恐ろしいものを見るような目で舟着を見てくる。
そのいじめられてからの後の記憶はあまりよく覚えていない。
ただ一つ覚えていることがあるとすればそれからの学校生活で人と関わらないように人を避けて行った。
中学校ではもちろんのこと高校も同じようにクラスの生徒たちと休職中に何かしゃべるということもなかった。
舟着にとってそういう意味では今なお流行っているウイルスはありがたい。
少し疲れてきたので休憩も兼ねてつぶやき系SNSのアプリを開きネットサーフィンをしていると全く知らないアカウントから一つの通知が届いた。
「なんだこれ?」
何かの詐欺に使われているアカウントかもしれないと思いつつもそのアカウントのアイコンをタップしてしまう。
そのアカウントから届いた一つのDMにはこう書かれていた。
《明日の昼頃ここの公園で待ち合わせをしませんか!》
そのDMの文章とマークが付けられた地図の写真が送られてきていた。
普通の人だったらこんなDMを送られてきたら気味が悪いと思いすぐに削除するだろう。
だが自分でも奇妙だと思いつつもなぜか明日その場所に行こうと思った。
自分でもよく分かっていないがあえて理由をあげるとするならこの抜け殻のような人生に、終止符を打ってくれる人がいるならそれでいいと思ったのかもしれない。
平凡とも言い難い俺の人生の最後が猟奇的殺人者に殺されるというのはこれまで生きてきた人生の中で一番衝撃的だろう。
「そういえば人と会うなんて何年振りだろう」
仕事柄それが会話に入るかどうかはさておくとしてまともに会話してるのなんて朝ごはんと昼ごはんを買いに行く時ぐらいだしな。
久しぶりに人と会って対人恐怖症を発症しなければ良いのだが。
次の日。
DMの送り主と会うため顔を洗っていると目の下に大きなクマがあることに気づく。
「最近長時間働いててまともに寝てないしな」
そんなことをぼやきながら洗面所で顔を洗う。
一応それなりに髪を整え今の会社に入社したての頃に買った服を着る。
入社したての頃に買ったと言ってもスーツとかではなく普通の家でも外でも着られるような普段着だが。
その服を着て外に出る。
久しぶりに外に出たせいか太陽がとても眩しく感じる。
高校卒業後今の会社に入社した。
こうして今現在社会人1年目の生活を送っているわけだが特に代わり映えのない生活だ。
普通の生活ができているだけで感謝するべきなのかもしれない。
今更ながら舟着はどうしてDMで送られてきた 場所へとなっているんだろうと考えていた。
改めてその事について考えてみるがやはり理由らしい理由は出てこなかった。
「何かが変わるとでも思ってんのかな」
眩しく地面を照らす太陽を見ながらまるで他人ごとのようにそう言った。
何の確証もないのに何で呼ばれたのかもわかってないのに何かに胸を躍らせているのだろうか。
そんなことを考えていると目的の公園にたどり着いた。
舟着は適当に公園にあるベンチに腰を下ろしまつことにした。
だがしばらく待ってもDMを送ってきた相手がやってくる気配はない。
「はぁ…」
無意識にため息を漏らす。
「騙されたのかな?」
よくよく考えてみればDMで送られてきたのはこの公園に来るまでの場所の写真と一言だけだった。
ちゃんとここに来るまでの時間が書かれていたがやはり誰かのイタズラだったのだろう。
一瞬家に帰って仕事をしようと思ったがそもそも今日は仕事が休みなので帰ったところでやることがない。
もし相手が舟着が休みだと見越した上であんないたずらのDMを送ってきたんだとしたら嫌がらせもいいところだ。
おそらくあれが本当に嫌がらせのDMだと言うことはないだろうが。
これからどうしようかと考えていると左の方から誰かの足音が聞こえてきた。
反射的にそっちの方に顔を向ける。
するとそこには1人の女の人が立っていた。
その瞬間舟着の今日心にあいた大きな穴が僅かに塞がったような気がした。
だがこの時の舟着にはまったく予想できなかった、たった1人との出会いであんな事件に巻き込まれることになるとは。これからどうしようかと考えていると左の方から誰かの足音が聞こえてきた。
反射的にそっちの方に顔を向ける。
するとそこには1人の女の人が立っていた。
その瞬間舟着の今日心にあいた大きな穴が僅かに塞がったような気がした。
だがこの時の舟着にはまったく予想できなかった、たった1人との出会いであんな事件に巻き込まれることになるとは。
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