第4話 大胆不敵

「あら、起きました?」

ドアを開けた先にいたのは、合コンでみた女性の顔だった。

飛びぬけた容姿でひっきりなしに男性陣に声を掛けられていた人だ。

問題はなぜその彼女の家に俺がいるかである。合コン中も話した覚えはない。

「やっぱり、覚えてないですよね。随分酔っていたみたいだったから」

意味深な言葉の運びに自分が何かしでかしてしまったのかと、身を引くと彼女は妖艶に笑った。

「私、合コン飽きちゃって。外に出たら、あなたが電柱にもたれかかって倒れかけているから。

 家まで連れてきたんですよ」

大胆不敵なヒーローのような笑みを携えて、

女性は俺の目の前にピカピカのグラスに入った水を差し出す。

「すいません。ありがとうございます」

「いえいえ、朝ごはんも作ってますから食べてください。今日大学休みでしょ?

 私バイトなので行ってきますね」

ガチャリとドアの開く音が聞こえて、俺は状況を飲み込むことにようやく成功する。

しかし、混乱はとどめなく流れてくるのだ。甘い匂いが何度も鼻を掠めて、その度に混沌としていた。

腹の虫が鳴いたので、取り敢えず部屋を出ると廊下の先に、ベランダが見える。恐らくそちら側がリビングだろうと進むと、

シンプルなテーブルの上に味噌汁とご飯が置かれていた。

椅子に座り、手を合わせて、そのご飯を口に運ぶ。

「うまい…」

人の作った飯を食べるのは久々な気がする。

田舎から大学のために上京してきた俺は動物園から解放されて、一人暮らしを夢見ていた。

しかし、ある日から入り浸るようになった2人の姉のせいで、

俺の夢の一人暮らしは二ヶ月足らずで終わる。

あまりにも生活スキルのない姉たちを見ていられず、少し大きめの家を借りて、2人と住むようになった。

すると母から電話が来た。片割れの秋紀が、勉強ばかりで死にかけているというのだ。

それを聞いた俺は、秋紀を保護し、社会人準備のある兄が入り浸るようになってから、大学1年は終わった。

その後、両親が突然旅行へ行きたいと言い出し、妹と弟も我が家で面倒を見るように。

そうして、あの動物園が出来上がった。

各々に都合があるため、幼い頃のように生活ペースも合わず、

ご飯は別々にとるが、基本生活に余裕のある俺が作っている。

人の飯って、こんなに美味うまかったっけ??

時計を見ると10時を指している。

どうやら、彼女の職場は遅めの出勤らしい。今のは昼飯?でも、朝飯って言ってたよな?

ブランチっていうんだっけ?洒落た言葉はわかんねぇや。

お茶を飲みたくなっておもむろに、冷蔵庫を開くとそこには、タッパーが入っており、

ご丁寧に綺麗な字で、お昼はこれを食べてください。と書いてあった。昼飯までよく気の利く女性だ。

その後、はるかから来ている迷惑なメールに適当にこたえながら、

言葉に甘えて昼飯をいただき、鍵のありかもわからないため、

借りられた猫のようにリビングの隅で彼女の帰宅を待っていた。

彼女は、リビングの隅にいる俺をみてフッと笑った後、キッチンに立ちご飯を作り始める。

慌てた俺は立ちあがり、帰ります!と言った。

すると彼女に、夕飯ご馳走するから頼まれてほしい。と言われて、またリビングの隅に埋まる。

鍋をご馳走になりながら、彼女が口を開くのを待った。

「実はウチのバイト、人手が足りていなくって。もし良ければ、働いてほしいんだけど」

鍋の具を冷ましながら、こちらをみた彼女の言葉に俺は、驚きを隠すことができなかった。

あの占い師が言った通りだ。

合コンに行ったから彼女に出会い、こうしてバイトにありつけた。末恐ろしい占い師だ。

「分かりました、取り敢えず詳細教えてもらっていいですか?」

彼女は満足げに、大輪の花のように美しく笑った。

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インチキだけど結果でオーライ!? Storie(Green back) @storiegreenback

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