第3話 運命の合コン
「俺、この日、夕飯作んねぇからな」
ソファーに座って、緩み切った顔でスマホを眺める姉に話しかける。
「え!?何でヨォ?あんた、最近外遊び多くない?」
ぶつくされた顔で、振り返られるが、予定を変更する気は無かった。
幼げなその顔が、呆れと微笑みを呼び覚ます。
「俺だって、健全な大学生なんだ。遊ぶぐらい普通だろ」
洗い物ですっかり荒れた手を見ながら、軽く溜息を漏らす。
普通の男子大学生の手とは思えない。苦労が皺に浮いている。
「あんたの片割れは、部屋に篭りっぱなしですけど?」
ほんの少しの慈愛に満ちた、姉らしい表情で穴だらけのドアを見た。
未だに離れられない片割れと同じ部屋。
俺がいないだけで、こんなに陰の空気が分かりやすく、滲むのか。
「あっちが異常なだけです」
片耳も俺の話を聞かずに、姉がそわ付いているのが、後ろを見ずともわかる。
「宴なんて開催したら…一生、遊べないようにする」
「はーい」
間延びした返事で、宴の開催は確実になった。
こっそりとキッチンに歩いた。姉が隠している酒を取り出す。
強制的な眠気覚ましで用意した千振茶を、たっぷり入れて笑った。
何でそんな、悪巧みすんのかって?
だって俺、健全な大学生だからさ?
学生時代はまぁ、特別なわけでもない人並みの恋愛をした。
彼女がいた時期はあったし、合コンなんて自分から進んできたことはない。
人数手段に使われるのは日常だったから、合コンスキルだけは高いのだが。
このスキルは残念ながら、面倒な人を躱すという、特殊なスキルなのである。
居酒屋に入ると嗅ぎ慣れた、鼻孔をつく臭いがした。
「あぁ?瀬見君?今回の幹事の手嶋です。よろしくぅ」
違和感を感じるチャラ男の青年が俺の肩を勢いよく叩いた。
顔立ちに対して、金髪が浮いている。無理にキャラを作っているのが見えた。
そもそも、チャラい奴はそんな、下げなれた頭は持ってねぇよ。
愛想笑いを浮かべながら彼をかわし、なるべく全体が見える席を陣取った。
「やる気ねぇ服。そんなんじゃあ、お好みの年上美人は掛かんねぇよ」
チャラさ全開の服で俺の隣に座ったはるかを見て、溜息を漏らした。
何度フラれても、懲りない男だ。本当に。
「俺の今回の目的は、彼女づくりじゃない。バイト探しだ」
「あ~わっけわかんね」
おそらく俺の話を聞く気も、理解する気もないであろうはるかは、目敏くタイプの女の子を見つけて、そうそうに席を立つ。
俺はちびちびとジュースを飲みながら、どの人がいいバイト先を知ってるのだろうかと思案していた。
モブ顔で目立たない俺にわざわざ話しかけるような人もいないため、ぼんやりを座っていると目の前で誰かが立ち止まった。
「え!?瀬見!?」
「え?誰…?」
明るい色の茶髪で俺の前にどっかりと腰掛けた青年は懐かしい顔で笑う。
「ひっでぇな…俺、中学ん時クラスメイトだった小林だよ」
記憶を辿り寄せると少ない地元の友人の中から、小林という名前の友人を見つけた。
でも、俺の記憶の中の小林は、眼鏡をかけた大人しい青年だった。その姿を思い出す。
「お前…変わりすぎじゃね?」
「いや、逆にお前は変わんなすぎ」
小林は爽やかに笑う。その姿に幼い頃から慣れ親しんだ土地の友人たちの顔を思い出した。
元気にしているだろうか。もう長年あの場所とも関わっていない。
昔話に花を咲かせていると、はるかが酒も飲んでいないのに酔ったような様子で俺にぶつかる。
「真輝が、合コンに来たのに男とばっか話してるー!色欲ないのかお前」
「確かに!瀬見って昔からモテるのに、自分から告白とかしないイメージだわ」
それに乗っかった小林が肘で俺の腹を突く。それにはるかは、ピクリと耳を動かした。
「マジかよ!?イメージねぇ」
「瀬見は結構モテてましたよ?面倒見いいし、優しいから」
「あ?冗談言ってんなよ」
「マジです、マジです」
やっと合コンらしい会話が始まり、周りでも仲良くなる男女が目立ち出した。
俺は、何占い師の言葉を信じて合コンにまで来たんだと馬鹿らしくなって席を立つ。
小林とだけ連絡先を交換して、俺は外に出た。
まだ酒に慣れていない俺は、際限を見誤ったようで頭がくらつく。
近くにあった電柱に寄りかかると、誰かが俺の体を支えた。
その瞬間に記憶が途絶えた。
頭いてぇ…。
そう思って俺は目を覚ました。自分で帰ってこれたのだろうか。
体は痛めていないし、ふかふかのベットで眠っている。ほのかに甘い匂いがした。
甘い匂い…?は!?
覚醒した俺は、飛び起きて周りを見渡す。どこからどうみても、俺の部屋ではない。
片割れがいないし、何よりこんなに甘い匂いはしない。
真っ白いベッドに可愛らしいキャラクターのカーペット。犬の抱き枕にピンクのカーテン。
ここは、どこからどうみても女性の部屋だ。
あの電柱に寄りかかった後、何が起きたんだ!?
どんな風の吹き回しで、俺は女性の部屋で眠ってるんだ?家主はどこだ!?
酒のせいもあり、混乱した頭にドアの開く音が聞こえた。
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