第3話

 精霊の少女と知り合って、一週間が経った。

 

 まぁ、世にいう『奥手』で『草食系男子』で『モブキャラ』な僕にとって......。あの少女は、生まれて初めての『打ち解けて話せる女友だち』だった。


□ □ □ □


 時に学生生活には、とある『呪い』が付き纏うものだ。

 そう、一ヶ月おきに襲来する『試験』と言う名の呪いだった。




「――俺、生物が死んだぜ」終礼で成績表が返ってきた放課後、廊下ですれ違いざまにあの友人が話し掛けてきた。

「安心して、僕もだよ」

「......ついでに聞くが、お前何点だった?」

「生物? それなら誕生日の日にちと同じだった」

「あ、察☆し☆! 確実に31点以下だな?」

「まぁ僕は2月生まれだから、正確には28点以下だよ......?」

「もっと察し〜」

 僕たちの生物教師は、あらゆる意味で質が悪い。授業の解りやすさはソコソコだけれど、悪質なのはテスト問題の方。正確に言うと、困ったことに激ヤサ問題か激ムズ問題の両極端、そのどちらかしか作れないんだ。普段は激ヤサのオンパレードだから神だけど、たま〜に思い出したように純度100%激ムズ激辛地獄問題ばかりのテストを投げ付けてくる。そういったテストでは生物の平均が世界恐慌時並みに大暴落し、先生は決まって淋しそうな顔をする。

 そしてその顔真似が、僕らの学年で大流行する。


□ □ □ □


「――へ!? 14点!? ......あのさぁキミ、1つ聞いていい? 一体何やってたのよ?」

「僕は悪くないんだよ、多分。そう、僕じゃなくて先生が――」

「学生がそんなこと言って良い訳!?」少女がピシャリと言い。

「......良くないですね」僕はケチョンとして答えた。

 アイツには具体的な点数については誤魔化したが、帰り道の緑道で彼女に問い詰められた時には、思わず正直に言ってしまった。どうしてだろう? 彼女の緑色の瞳に覗き込まれると、僕は何故だか嘘が吐けなかった。それが僕の引っ込み思案によるものか、彼女が精霊であることに由来するのかどうかは分からない。彼女は催眠能力でも持っているんだろうか? 今度、聞いてみよう。

「私、学校になんて行ったこと無いけどさ? 流石にその点数はヒドイよね。何、テスト中に私のエッチな姿でも妄想してたの?」

「してない」

「信用出来ないケド?」彼女の視線は、氷柱のように鋭い。......いや、そもそも何でこんな話になった?

「僕の名誉に誓ってしてません!」

「噓嘘、冗談だって。ニヒヒッ! あっさりだまだれてやんの〜!」

「......」


 まぁ? 君に魅力を感じないと言えば、嘘になるけどね?


 僕は心のなかで、そうこっそりと付け加えた。

「で? キミって今さ、生物じゃ何を習ってる訳?」

「......まぁ植物の組織とか、さ。何か表皮系とか、通道組織とか柔組織とかそういう所。覚えることがいっぱいで、頭の中に一ミリも入ってこないんだよね? 全く、楽しくも何とも――」

「ふ〜ん?」

 彼女が、何故だか妙に嬉しそうな声で僕を遮った。

 僕の方も、遮られて急に冷静になった。......今のはまるで、彼女に文句をぶつけているだけみたいじゃなかったか? そう自覚したので、僕は彼女に対し急に申し訳なさを感じ始めた。

「......何か、ゴメン」

「なんで謝るのよ? まさに今ここに、その道の専門家がいるじゃない!」

 ――はい? えっと、どなたです?

「もう、分からないのっ!? よ」

 彼女はそう言うと、自慢げにドンと自分の胸を叩いた。その肩に掛かった黒髪が、片手でファサっと払われた。

「植物のことなら、私がなんでも知ってるわ。分からないなら教えてあげる。生命の営みってのはね、暗記するんじゃなくてなのよ――!」

 彼女はニッと笑い、そう高らかに言い放った。

 ......えっと、どういうことですかい?

 

 □ □ □ □


「――キミってさ、本当に鈍いよねぇ?」

「え? 何で僕、急にディスられてるの?」

 僕はさっきから彼女が何を言いたいのか、さっぱり分からない。おろおろする僕に向かって、彼女は小さくクイと手招きした。

「ホラ、こっち。お望みなら植物の神秘、その息吹をちょっとだけ聞かせてあげるわ。もしかしたら、ちょっとは生物の見方が変わるかもよ?」

 いやあの、その奇跡はこの前見せてもらったけど?

「違う違う、馬鹿ね。今度はに聞いてもらいたいの。それも、この樹の声をね」

 はぁ......? へぇ?

「じゃあ......お願いします?」気付いたら、そう頼んでいた。

「うん!」

 僕は正直言って、話の流れがよく分からなかった。

 だが彼女を見ていると、彼女は何だかとても楽しそうで。ならまぁ、それで良いかとも思った。彼女としても話し相手がいるのは嬉しいんだろう。彼女が楽しいなら、僕はそれで十分だった。

 ただ、僕は自分がただの『話し相手』でしかないことが、ほんの少しだけ寂しかっただけだ。



 




 *これ以上は諸事情あって、僕が大学受かるまで続きは書けません。まぁ大学合格もただの必要条件の一部ですが。僕の黒歴史にお付き合いいただき、ごめんなさい。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

オーク・ガール Slick @501212VAT

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ