第18話 おまけの雑記

これは結婚相談所とは関係のないお話。

いろいろ書いているうちに思い出したことを綴ります。

興味があれば、どうぞ読んでやってください。




結婚が決まり、デート中の車内で、いきなり「黙っていたことがあるんだ」と言われた。

周囲はすっかり陽が落ちて、真っ暗になった車内での告白タイムである。


正直、めちゃくちゃ心臓に直撃するほどの衝撃が来た。

やっぱり来た! なんか騙してたのか!

とても重大な秘密があったのか、と急に心臓がバクバクした。


じつは……、と切り出された内容はこうだ。



就職してすぐに、街中で「結婚するときに喜ばれますよ!」と言われて。

なななんと!






あのキャッチセールス……引っかかったんかい……。マジか……。


「5年後買い戻し商法」っていうのがね、このころよりはちょっと前だったんだけど、悪徳商法でニュースになったのよ。


横浜本町から全国に展開して行った『ココ山岡』という宝飾店で、身につけていても傷がついていても五年後には同額で買い戻すっていう、ちょっと考えれば『おかしくない?』と思える商法でダイヤモンドを売り捌きまくっていた。


横浜駅の周辺にいくつも店舗があり、店の入り口ギリギリでスタッフが「お客さまお客さま」と手招きし、「アクセサリー、無料でクリーニングしますよ」「アンケートにご協力ください」なんて誘い文句でアクセサリーを預かり(人質ならぬ物質ものじち)、「五年後そのままの価格で買い取りますから、要らなくなったら全額返ってきますし、そのあいだ無料で楽しめるようなものです。お客さまに損はないですよ」などと洗脳のような売り言葉で1時間以上客を拘束して、契約書にサインしないとアクセサリーを返してもらえない、なんて悪質行為をやっていた店である。


ちなみに上記の内容は実体験で、クリーニングしてくれるならと、のこのこと店内に入ってしまい、物質ものじち取られて帰れなくなり、ショーケースを前に一時間も椅子に座って、売り口上を聞かされる羽目になった。


白いカットーソー姿の、年長で強気な女性販売員が、自分も購入したんですよ、と言いながら、きらびやかなダイヤのネックレスを見せつけてくる。

「高いものを身につけると、安い服装でも高く見えるんですよ〜!」なんて、垢抜けない田舎娘に言い聞かせるように上から目線でのたまうもんだから、いい加減しつこくて帰りたくなっていた私は「死んだ祖父に重々言い渡されたって、母から口うるさく言われてるんですけど」と切り出した。


「身のたけに合わないオシャレは、クソジャレって言うんですよ」


笑って、かなり強い調子で言い放ってやったら、相手の笑顔が凍って両目に明白な怒りが宿り、「預かった安いアクセサリー(銀製の指輪だった)返してやって」と言いやがりやがったんですけども。

本性見えるわー、と同時に、ザマァミロと内心で舌を出していた。


そのあと、無駄に人生の一時間を奪われて、アホくさ、と思ったのを覚えている。それから、もう二度と店の呼び込みには応じないと心に誓った。


ココ山岡は、返品による返金が行えなくなって1997年に破産している。

ちなみにね、泣きっ面に蜂状態なんだけど、ここの宝飾店はダイヤのグレードを独自に決めていて鑑定書があてにならず、品質がよろしくない(正規の鑑定を行った結果、洒落にならないほどグレードが低い)のが判明している。

しかも、買い取ったダイヤを使い回して別の客に売っていたととも言われている。


彼が保有していたダイヤモンドのルース(裸石)は120万だったらしいのだが、実際に見せてもらって、斜めにかざすとテーブル面(真上の切り出し面)に、裸眼でもあからさまに見える傷があってね……思わず天を仰ぎたくなった。うん……素人……知識がないからしかたないね……。


彼も、この店の顛末は知っていたらしい。

ただ、確実に120万の価値はないだろうことは黙っておいた。


私は石マニアで、宝石の原石、カット石、加工石、鉱石、隕石、化石などを販売するイベント、ミネラルフェアにも毎年通うくらいの石の知識やグレード、おおよその裸石の販売価格、貴金属のデザイン価格を学習している。

だから、悪質な意図で販売を勧める業者がいるのも知っていたし、興味のない人間が勧められるまま購入する危うさも知っている。


「まあ、キャッチセールスで売りつけてくるものには、手を出さないほうがいいよ」

「あと、ろくに知識もないのに、高価な商品は買わないように。カモネギだから」と忠告だけしておいた。


支払いは完了して何年も経ってたし、石には罪はないので、せっかくだからマリッジリングに仕立ててもらった。

ゼクシィの広告でみつけた高円寺の某リフォーム店でフルオーダーしたんだけど、これまたビックリなことが起こった。




リングが出来上がって、毎日身につけていた。

デザインの指定をして、ほぼ希望通りの仕上がりとなって、そりゃね、嬉しかったからね。


ところが。


着用中に、リングの立て爪が取れているのに気づいた。

心臓が止まるかと思った。


4本中3本の立て爪となっていて、ようやくルースが支えられている状態だった。

とても考えられないことだった。


もうすこしで、ダイヤそのものが外れそうになっている。


直前にトイレ入ってたので、マジで石を流さなくてよかったと心底思った。

慌てて店に持ち込んで、再度作り直しになった。


今思い返すと、作り手としてはあり得ない失態だと思うのよ。

立て爪を別パーツで作っておいて、差し込んだまま融着させるのを忘れて、客に渡してきたわけだからね。


後年、知識として知ったのだけど通常は指輪のデザイン型は、ロストワックスで作り、一度きりで消失してしまう。

再度、出来上がってきたものは爪の取れたリングから再度、型取りし直して作ったもののように見えた。


作り直さなくてはいけない理由はなんだったんだろうなぁ……?

素人判断では、立て爪を付け直せば良かっただけの話じゃないかとも考えたんだけど。プラチナを後から融着する方法が無かったのかな。

それとも細工の不手際で、他みっつの立て爪が何かの際にまた取れる可能性も出てきて責任が取れない、と思ったからだろうか。


出来上がってきたリングを一目見て、全体的にぼんやりした、やけにエッジがぼやけた、キレのない形状になってしまっているのに気づいた。


ダイヤが外れないように太くなり、立て爪がすごく目立つようになった。

なんとな〜くモッサリした印象の、一度目のデザインとは違うものが仕上がってきた。

がっかりしたのを覚えている。


フルオーダーの一点ものだったので、作ってもらった金額も相当だったことを考えると再度作り直ししてもらいたかった。

とても大切な記念の品だったし。


けれど、ただでさえ作り直しになったせいで、マリッジリングとして身につけられる期間がほとんどなくなっていたため、そのまま受け取るしかなかった……が、やはり気分が乗らなくて、いまもケースのなかで眠り続けている。


娘が結婚する時にあげる、と言ったが、いらないって言われた。

デザインそのものが若くないと合わないので、もうどうしようもないんだ……そもそも娘と私の指のサイズが違いすぎるわ……。

踏んだり蹴ったり。なんとも気の毒なジュエリーである。




そして、後年。

結婚して直後のことだったと思う。


ウキウキした感じで、夫が会社から帰ってきた。

なんかいいことがあったんだろうかと思っていると、突然の発表をしてきたのだった。


「携帯電話当たったから、きみのぶん契約してきちゃった!」


街中で福引やってたから参加したら、携帯電話が安く契約できるって言われたんだって。



お、おおおおまえ……だーかーらー!!!

『契約してきちゃった』じゃねえよ!!!!!!!!!!



キャッチじゃねーか!!! もーーーーーーー!!!!!


めっちゃ怒りましたよ。

ふたつ持っていてもしかたないので、当時使ってた自分の携帯は解約することに。

なぜこんな手に引っかかるんだ……普段はそんなに軽率でもないのになあ。


その後、契約会社を変えた時に電話番号も変えた。


とりあえず、懲りたのかそれ以降は契約で問題起こしたことはないので、いまは笑い話になっている。



そういえばネットの振り込み詐欺にも合いそうになったな……。


ちょうど娘の習い事の最中だった。

突然携帯に連絡してきて、「今から行くから」って言われて、付き添い先までやって来た。


悲壮な感じで経緯を報告してきた。

「10万払えって警告が出たんだよ」って。


えっと……それは、もしや……。


いかがわしいサイトを見てたわけですね、ええ、わかります。

ネット詐欺ですね、ソレ。

知ってますよ、その頃ずいぶん流行っていて、気をつけましょうね、っていろいろなところで注意勧告されてたから。


夫は仕事漬けだったこともあって、そういうことにうといのもわかるけど、また同じような手に引っかかっても困るので、


「とりあえず振り込む前に警察行ってあきれられといで。恥ずかしい思いをしてでも、自分でちゃんと確かめてきたらいいよ」


とアドバイスした。


うん、と頷いて、素直に警察行ってくるところが夫のいいところでもある。(笑)


後から聞いた話では、怪しいサイト見てたのを説明したとたん、即「よくあることですよ、無視してください」って言われたらしい。

そりゃそうなるよね。


それでも笑い話で済んだのは、ちゃんと報告してもらえたから。

焦って慌てて、自己判断で黙って支払っちゃわないだけ、よく出来ました!って思いました。

さすがに10万は勝手に支払ったらマズイと考えたらしい。


相談してもらえる関係になっていて、本当によかったなぁ……、としみじみ思いましたとさ。



  *  *  *



夫の失敗談ばかりでもあんまりにあんまりなので、別の話も書いておきたい。

じつはマリッジリングは製作してもらったんだけど、これとはべつに結婚指輪も作らなくちゃいけない。


どうしようかな、と思っていたら、先の占い師を紹介してくれた同僚が、もしよければ、と誘ってくれた場所がある。


彼女の友人がアクセサリーの工房をやっていて、自作する教室をやってるから、と連れて行ってくれたのだった。(職場がデザイン部門だけに、美大出身の人が多かった。つまり友人の友人や知人も美大出身)


自分でデザインを考えて、指輪のロストワックスを作成し、専門の金属加工の工場でプラチナに鋳込んでもらい、出来上がってきたものを自分たちで磨きをかけて完成させる、という工程。


彼(夫)はふだんから物づくりをするタイプでもなかったから、シンプルなリングを選んだ。

ところどころ先生や私が手伝ったりしつつロストワックスを完成させた。


私のは太めの輪状にしたロストワックスに鉄筆で紋様を掘り込み、ライターで炙って、エッジを丸くするというオリジナルのリングを作った。

本格的な一連の体験は新鮮で、すごく楽しかった。


そういえばこのころから、私が誘うと嫌がらずに着いてくる人だった。

最近でも、デザイン系のイベントに出展したい、と言えば、いやがらずに車出してくれて一緒に販売も手伝ってくれる、本当に稀有な人だ。


はっきり聞いたわけではないけど、自分では考えつかないことを私がやっていて、一緒に体験できるのが楽しいらしい。


自分のリングは指の太さが変わってしまって、仕舞い込んでしまったんだけど、夫は会社に行く時には必ず身につけている。





結婚式ではじめての共同作業、なんてセリフがあるけど、考えてみれば結婚前にたくさんの共同作業してるんだよね。あたりまえだけど。


このほかにリングピローやウエディングベア作ったり、披露宴で配布する印刷冊子とか、発送用の封筒やらハガキやらのデザインまで結婚式までのあいだにいろいろ自作、印刷したりしている。


結婚式で青いものを身につけると幸運がある、という話を聞いたので、参加してくれる方々にも差し上げたいな、と思った。

なので、いろいろ調べて、ビール工房でオリジナルビールを作りに行った。きれいな青い瓶にできあがったビールを詰めてもらい、花の枠のなかにふたりの名前を配置したラベルを私がデザインして作成、ビール工房のほうで貼ってもらった。


当日、披露宴のテーブルの席に、ビール瓶を一本ずつ配置して持ち帰ってもらった。(思い返せば、引き出物も重たくて申し訳なかった……)


最近になってクラフトビールが流行ってるけど。

いまでもあっちこっちで買い集めてきては、ふたりで飲んでる原点がここにあったなぁと思い返した。



結婚式の前々日まで作業してて、当日燃え尽き状態になり、お色直しの時点でもう帰りたい……って考えてた思い出。

とにかくやりたいことは最後までやり切らないと気がすまないんだけど、全力オーバーのやりすぎはイカンですね。


でも本当に思い残しがないくらいにやり尽くして『もう二度と結婚式はいいや』と思えた。

私がやりたいように夫がやらせてくれるからこそ、現在があるのは間違いないです。



ここまで読んでいただいてありがとうございました!

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陰キャでいじめられっ子だったコスプレバンギャオタク女が二十数年前に結婚相談所で婚活して破談になって結婚した話。 内田ユライ @yurai_uchida

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