第44話 6月27日 土曜日

 昨日、家に帰ってきからずっと心に引っかかっていたものがある。

 それはやっぱり彼女のスマホで見た何か、だ。

 朝起きてもいまだにそれが何なのかわからない。

 でも、じっさいに彼女が持つスマホの画像を見ればわかるはず。


 感覚的だけど僕は間違い探しの間違いの部分を知っているのに元の絵を忘れてしまったようなかんじ……。

 部屋の中に音がほしくてテレビをつけた。

 テレビをつけたタイミングはちょうど番組の合間のCMだった。

 

 ――本日、出玉、大解放!! 土日はご家族お揃いでご来店くださーーーーい!!


 高いテンションがウリのお笑い芸人が大袈裟に走り回っていた。

 あっ!?

 僕は派手で賑やかな演出にあることを思い出した。

 そうだ!!

 僕は間違い探しの「元の絵」を持っている。


 それは僕のすぐ近くそうこの家の中にある。

 もう二度と触ることはないと思っていたスマホを机の引き出しの奥から取り出してきて充電器をコンセントに挿した。

 スマホの横にある電源ボタンを押す。

 ひび割れた液晶にすぐ光が宿った。


 画面をタップしていくつかの操作をする。

 見覚えがあったのはこれか。

 やっぱり潜在的に頭の中にあったんだ。

 僕は蜘蛛の巣状の液晶に目を凝らし目的の画像を探す。

 これって……。



 僕が電話ボックスに行くと彼女はもういた。

 彼女がくるより前に僕のほうが早く電話ボックスにいたいと思ってたのに彼女のほうが先にきていた。

 心が躍る。

 彼女が電話ボックスの中に先に入って僕は背中で電話ボックスのドアを押さえた。


 「拓海くん。はい、スマホ」

 

 「うん。ありがとう」

 

 彼女はもう僕に白い封筒を持ってこないし何かを隠してる素振りもない。

 スマホだって無防備に手渡してくれた。

 

 彼女は昨日から僕のことを「拓海くん」と呼んでくる。

 反対に僕はまだ今日、彼女のことを「山村さん」と呼んでいない。

 僕も「山村さん」と呼んでみようとするけれどやっぱり意識して呼べない。

 

 一日開くと呼べなくなってしまった。

 昨日はつい流れで呼べたってことなのかもしれない。


 僕は彼女に借りたスマホの画面をタップした。

 画像の入っているフォルダを教えてもらいさらにそこをタップしてフォルダの中身を見てみる。

 僕は連番になっている画像をつぎつぎにスライドさせた。

 

 「×月×日の日曜日ってきみのお父さん何してたか覚えてる?」

 

 彼女は一瞬だけ固まったけれどまたふつうに戻った。

 ここでまた僕にお父さんのことを訊かれるとは思ってなかったんだろう。

 

 「う~んと。でも日曜日でしょ。たぶんパチンコ屋さんかな?」

 

 「そっか」

 

 僕はスマホの中にあった名簿画像を見た。

 

 「うん、間違いない。そうだよ。あの日はお父さん朝からずっとパチンコ屋さんに行ってた。昼に私がコンビニで買ったパンを持って行って夕方もサンドイッチを持って行ったんだもん。お店が閉まるまで一日中パチンコ屋さんにいたよ」

 

 「新規オープンの日だもんね? ちなみにお父さんは勝った?」

 

 僕は画像の中に母さんに届いたはがきと似ている・・・・画像を見つけた。

 あのときは小さくてあまりよく見えなかったから今度はスマホの画面をピンチアウトで拡大してみる。

 レイアウトや文章、言い回しの文言は同じ……。

 僕はさらに画像をスライドさせた。


 違和感を覚えたのはこれか。

 僕はまたその画像をピンチアウトで大きくしてから画像の脇で見切れているものをさらに拡大した。

 

 「ううん。うちのお父さんはなんでも負けだよ」

 

 毒親でもきっと親なんだろうな。

 彼女はやっぱり心の底からは父親を憎めないって顔をしている。

 

 彼女と彼女のお父さんが一緒に写っているこの写真も誰かに撮ってもらったんだろう。

 僕の家は母子家庭で彼女の家は父子家庭。

 環境が似てる。


 「そっか。じゃあきみは勝たないとね?」

 

 「何に?」

 

 ”過去”にだよ。

 

 「なんだろうね。なんとなく言ってみた」

 

 「そういえばさ。111に電話するのってどうなったの?」

 

 やっぱりあれは約束だったんだ。

 けどきみが勝手に電話ボックスにこなくなったんだけど。

 

 「今度、都合のいいときにかけようよ」

 

 「わかったよ。ねえ、拓海くん明日、日曜日だからU町に行くのどう? 都合悪い?」

 

 「僕は土日アルバイト休みだからいいよ」 

 

 「そっか、じゃあ明日ね」

 

 そこから僕は彼女にスマホを返し何時ごろにU町に行くのかのを相談をした。

 

 「あの。前もって言っておくけど僕、明日きみに大事なことを言うつもり」

 

 「えっ?!」

 

 彼女はうしし。みたいに笑った。

 

 「心の準備をしておいてほしい」

 

 「それさきに言っちゃうかな~?」

 

 僕らは明日乗るバスの時間を確認するためふたりで道に駅に向かった。

 彼女は弾むように道を歩いている。

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