第34話 6月21日 日曜日③
結局あの娘から何ひとつ訊けずに……いや、訊かずに家に戻ってきてしまった。
あの娘はいじめに遭ってたんだ。
それが理由かどうかわからないけれどそれでこのS町にやってきた? あの三人組はいったいなんなんだろう? 不良?
あの娘がいつもあの電話ボックスでどこに電話をしていたのかが無性に気になった。
それでもひとつわかったことがある。
あの三人組は大納言で自分たちを高三と言っていた。
コインランドリーの裏では「山村澪」と同級生とも言っていた。
なら僕と彼女は高校三年生で同じ学年ということになる。
またひとつ彼女のことを知れた気がする。
便箋の中の日づけはまだ何日か残っているからまた別の日にあらためて行ってみようと思う。
家にいると気が滅入ってしまいそうで僕はまた外に出た。
いつもは学校に行くために左に曲がって一直線に進むけれど今日は右に曲がる。
すこし進むとそこはT字路で左右どちらに行くかの選択を迫られる。
右にずっと進んでガソリンスタンドのところを右折すればあの廃駅前にある電話ボックスに着く。
そう、いつもの学校の帰り道とは真逆のルートだ。
僕は右には行かずにT字路を左に進んだ。
そこをさらに左折して直進すれば地方銀行の支店があって対面はあのコインランドリーで、あっ、そのまま行けばコインランドリーに行ってしまう。
さっきの事件があってちょっと近づきにくいから僕は途中の脇道で左に曲がった。
当てもなくぽつぽつと歩いているといつもの通学路に戻っていた。
なんとなくそのままコンビニのある十字路を渡って教員住宅のある一画を横目に無人の居酒屋の跡を通りすぎていた。
左は新築のアパートの工事現場で足場の数が増えている。
相変わらず作業員は忙しそうだった。
釘を打つカンカンという音が辺りに木霊している。
日曜日なのに休まずに仕事か。
そこからすぐ先があの理髪店だ。
土日となればまさに稼ぎどきだろう。
店主の奥さんがジュース片手にまた店内に戻って行った。
僕はいつのまにか学校の前にまできてしまっていた。
あっ?!
見慣れた顔の人と出くわす。
「おう、西川どうした? もう夕方だぞ?」
それは担任の水木先生だった。
「あのコンピュータ室借りてもいいですか?」
とっさに何か言おうとして出た言葉がこれだ。
「ああ、と」
水木先生はそう答えてからすこしだけ首を捻って、そして――よし。と言って僕を手招きした。
「鍵持ってこないと」
「はい」
「あと【コンピュータ室】の使用届けは書いてくれよ」
「はい」
「特別だぞ」
「はい、すみません」
「いや。いいよ。俺は担任だし」
水木先生は顧問をしている吹奏楽の練習で学校にいたみたいだ。
他の部活の生徒たちもちらほら学校の敷地にいた。
母さんの見舞いのあとに寄った吹奏楽部の定期公演でつぎのコンクールへの抱負を語っていたからなんとなく今日も練習してるんじゃないかと思ってた。
僕は無意識に人が多くいる場所を求めて学校にきたのかもしれない。
「西川。なんかあったら遠慮せずに誰かに言うんだぞ?」
「はい」
水木先生の――特別だぞ。にはきっと僕の
僕は職員室に行ってその場で【コンピュータ室】を使うための使用届けを書く。
先生に借りた緑色のプレートの鍵を手に【コンピュータ室】へと向かう。
いつもよりさらに静かな校舎を歩く。
日曜日の夕方間際の校内は新鮮だった。
僕はまた窓側のいちばん前の席に座ってパソコンを起動させた。
「Chrome」をクリックしてネット検索をしようと思ったけれどこれといって調べたいことはないからS町の公式サイトいった。
いちおうドメインを確かめる。
「
よしS町の公式サイトに間違いない。
これからちょくちょくS町のWebは見るだろうからアドレスバーの右にある星のマークをクリックした。
星が一回ポワっと点滅するとアドレスバーの下に「S町公式ホームページ」が追加された。
サイトの右サイドバーで町の人口増加を見てみる。
人口はプラス三人となっていた。
単純にS町に三人の人が引っ越してきたともかぎらない。
十三人がS町に引っ越してきて十人が町から出て行ったとしても結局はプラス三人だ。
「X」が流入数で「Y」が流出数とした場合の「X-Y=+3」の公式に当てはまればいい。
あの女子三人組のうちのひとりが言ってた――だからS町で。という言葉。
あの娘はこの「X」に入ってるんだろうか? それともこれから入るんだろうか? 僕はしばらくネットサーフィンをして「コンピュータ室」の鍵を閉め職員室に鍵を
水木先生がいなかったから廊下でしばらく待つ。
でも家で鬱々としてるいよりはよっぽどマシだ。
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