第16話 6月10日 水曜日②

 「テレホンカードが利用できるようになった公衆電話」

 ああ~なるほど。

 町に緑の公衆電話が多い理由がわかった。

 十円硬貨と百円硬貨とテレホンカードが使えるからだ。


 今のところオールマイティな電話があの緑色の電話ってことになる。

 僕はこのサイトで公衆電話の時代の移り変わりを見た。

 あっ、もう一種類公衆電話が存在している。

 それはグレーの公衆電話だった。

 

 括弧の中に「ディジタル公衆電話」と書いてあった。

 「ディジタル」ってそれはつまり「デジタル」のこと? 「ディジタル公衆電話」がふつうとどう違うのかが書いてある。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ・大型ディスプレイ

 通話先電話番号やテレホンカード残度数の他に、硬貨残枚数、通話可能時間(残り三分を切った場合)、操作説明、音量レベル等が表示されます。


 ・オンフックボタン

 このボタンを押せば、受話器を上げなくてもダイヤルすることができます。相手の方が出られたら受話器をとってお話し下さい。


 ・端末接続口

 アナログ端末・ディジタル端末(ISDN端末)を接続して通信が可能です。


 ・音量調節ボタン

 音量を5段階に調節することができます。


 ・データ通信ボタン

 公衆電話と接続端末の切替ボタンです。


 ・表示無しボタン

 このボタンを押せば、ディスプレイに電話番号は表示されません。


 ・表示切替ボタン

 日本語または英語に切り替える事ができます。


 ※フリーダイヤル等利用時に料金を即納しなくても良いサービス利用の場合や、113・119・110番通報の場合は、発信音を確認後ダイヤルするだけで通話がつながります。テレホンカードの挿入や硬貨の投入は不要です。

 ※「データ通信」または「切替」ボタン及び「機能」は公衆電話の機種によって異なります。


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(注)引用:NTT 西日本


 なんだかすごい近代的な公衆電話で僕に使いこなせる気がしない。

 「ディジタル端末(ISDN端末)」。

 アイエスディーエヌたんまつ? どういうことなんだろう? 見当もつかない。


 なんとなくスマホを大きくしたらこの「ディジタル公衆電話」のようなものになるんじゃないかと思う。

 ただ、それよりももっと僕が惹かれた文言がある。

 それが説明文の最後にある「113」だった。


 「11」につづく「3」。

 「113」の電話番号だ。

 僕はまた「113」をドラッグし右クリックして出た項目から『ウェブで113を検索』を選ぶ。

 ブラウザにまたタブが増えた。


 「113」は「電話サービスの故障等に関する相談」と書かれていた。

 電話機が壊れているときに「113」にかけると原因を調べてくれるらしい。

 ただ電話機が壊れている場合は使えない。

 それはそうだろう。


 でもそれって「113」にかけた時点で電話機が壊れてないっていう証明になるんじゃないのかな? あっ、そっか電話機が動いてる時点で壊れてないって判断もできるのか? なんだかメビウスの輪みたいになった。


 それに「110」と「119」が無料というのは理解できるけれど、まさか「113」も無料だなんて。

 僕はそれ以上「113」を深追いしなかった。

 

 代わりに同じページに付随されていた、ほかの番号を調べた。

 「114」は相手先の電話が話し中かどうかをコンピュータが自動で調べてくれるらしい。

 どういうことだろう? 着信拒否されてるかどうかがわかるのかな?


 「115」は電報の申し込みで、「116」は電話の新設、移転、各種相談だ。

 「117」は時報で「118」は 海上の事件、事故の急報。

 そういえば「118」は聞いたことがあるな。

 海上保安庁、海保かいほつまり海の上の警察への通報だ。


 あと「110、111、112、113、114、115、116、117、118、119」の十個の電話番号の中でわからないものは「111」と「112」だけになった。

 僕はそのふたつの番号を個別に調べることにした。

 すぐに「111」がなんなのか判明した。

 「112」も、だ。

 

 「112」は、いちおうは空き番号ではあるけれど携帯電話のキャリアによっては緊急電話になることもあるという。

 これはヨーロッパ圏では「112」が緊急の電話番号だからだそうだ。

 そのむかし日本では消防が「112」だったこともわかった。

 

 そこからまた消防のことを調べているとおもしろいトリビアを発見した。

 ふと、僕はどうしてこんなに必死で三桁の電話番号を調べているんだろうと我に返る。

 

 でも何かに没頭していると他に何も考えなくていいから助かる。

 僕が調べたいと思っていたことはすべて調べ終えた。

 パソコンの右下のタスクバーで今の時間を確認すると昼休みの時間はまだ余っていた。

 最近見てなかったS町のサイトを見ることにしよう。

 そのまま「S町」と検索して広告を抜いたS町の公式サイトをクリックした。

 

 いちおうアドレスバーでドメインの確認だけはする。

 町の名前のあとのスペルがきちんと「.jpドットジェーピー」になっているから正式なS町のサイトだとわかる。


 トップバナーは恐竜の骨と化石の画像、それに小学生たちが書いた化石の絵だ。

 三カラムのうちの右のサイドバーに載っている人口比をさらっと見てみる。

 今は六月だから五月末までの人口と世帯数の増減が掲載されていた。

 人口が若干増えている。

 といってもじっさいに住民票を移した人の数だから町にいる人はもっと多いかもしれないし少ないかもしれない。


 つぎに僕は大手ポータルサイトのニュース一覧をのぞいてみることにした。

 「総合」「芸能」「経済」ほかに「国内」などのラベルにジャンル分けされている。

 国内ニュースの項目では昨日「大納言」で見た不正アクセスのニュースがトップに出ていた。


 僕はまたタスクバーで時間を確認する。

 昼休みもあと六分か。

 僕はブラウザを閉じタスクバーの「Windows」の窓のマークをクリックした。

 電源のマークの中にまた三つの選択肢が出てきた。

 迷わずシャットダウンを選ぶ。


 数十秒ほどでパソコンから出ていたファンの音が消え――バシュンと本体の電源が落ちた。

 【コンピュータ室】の電気を消し部屋を出て【コンピュータ室】の鍵を閉める。


 僕は鍵本体と【コンピュータ室】と彫られたプレートとを繋いでいる金属の輪に人差し指を入れてトンボの目を回すようにクルクルと指先を回しながら職員室に向かった。

 ちょうど水木先生がいたから鍵を返却かえして午後の授業に臨む。

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