第9話 ゲームオーバー

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 10年。20年。……30年。


 魔法が無くなった世界で生き残れたのは、魔法とステータスが無くなった後に備えた国、あるいは領地だけだった。ジャンメール領がかろうじてその名を残せたのは、まだ若かった私とシュウが考えた、拙い法律草案があってこそだっただろう。


 あれは余りにも細部がお粗末すぎて、実際に運用することは叶わなかった。だけどあれこそが、私の精神を支える唯一の支柱だった。あの彼との遺作とも呼べる文書を読み直す時間が無かったら、きっと私の心はとっくの昔に破壊されていたことだろう。


 だけど、やっぱり私にも限界はある。ううん、彼を失ったあの日から、とっくに限界は来ていたに違いない。まだ50歳にも満たない身でありながら、私の天命は尽きつつあった。


「お嬢様……」


「もう……その呼び方は止めなさいよ、侍女長」


「いいえ。私にとって、貴方は領主様である以上に、お嬢様でした」


「……そっか。ねえ、セルジュはどうしてるかしら」


「彼は今、席を外しております。何かと忙しい男ですから」


 セルジュもまた、私と同じく床に臥せていたはずだった。その彼が忙しそうに席を外しているというのなら……忙しい理由は、一つしかなかった。


「そう……彼にもよく休むように言ってあげて。ずいぶん老骨に鞭打ってくれていたから」


「はい、お嬢様」


「ええ……私も、疲れたわ。ずっと頑張っていたもの。……ねえ……私、またシュウに……会えるかなぁ……?」


「……はい……お嬢様……っ!きっと、お会いになられます……っ!必ず……必ずっ!!」


「ありがとう……貴方と……仕事が、出来て……よかっ……」


 息を深く吸えなくなってきた。意識が朦朧とする。痛みも、苦しさも無い中で、私の胸にあるものは……寂しさと、かつて失ったはずの切なさだった。




『す、好きな女の子と、ずっと一緒に暮らせたらいいかなって……変かな……?』




 ……シュウ。私ね、ずっと言ってなかったことがあるのよ。




 私もね、ずっと昔から、貴方と一緒に――





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