第3話 新たな大陸

 そこは『ルヴェン大陸』と呼ばれている。

 隣の大陸ともなると、入ってくる情報は少ししかない――ヴェーテがあまり気にしすぎないからかもしれないが、それはそれで構わない。

 どこに行っても、ヴェーテの知らないところばかりになるのだから。

 ヴェーテは港町に到着すると早速、町を出ることにした。

 そこに滞在してもよかったが、港町付近だとまだ『同じ大陸』の冒険者達や、商人の姿もちらほら見える。

 やはり、外との交流が多いからだろう。

 だから、ヴェーテは出来る限り早く立ち去ることにした。

 念のため、街道を避けて人通りのない森の中を進むことにする。

 どこか町か村でも見つかったら、そこから新しい生活でも始めるとしよう。

 森の中だとさすがに魔物の数もそれなりになるが――大陸は違うとやはり魔物の種類も異なってくる。ただ、根本的な種族が違ってくるわけではないようだ。

 先ほどから襲ってくるのは、『魔猪種』や『魔蟲種』と言ったよく見られる魔物ばかり。

 動きに目新しいものもなく、その全てをヴェーテは斬り伏せて進んでいた。

 さすがに場所が変わったからと言って、ヴェーテの実力は通じないということはないようだ。問題もなく歩みを進めていくと、


「……ん?」


 少し離れたところから、声が聞こえた。

 ヴェーテは足を止めて耳を澄ます。

 街道からは結構離れているから、人と出くわすことはほぼないと思っていたが――ガサガサと草木をかき分ける音が聞こえてきた。

 誰かが『何か』から逃げているのか――ヴェーテは跳躍して木の上へと移動すると、気配を消しながら音の下方向へと向かう。

 しばらく進むと、魔物に囲われた少女達の姿が見えた。


「くっ、やっぱり追いつかれたね」

「逃げられないのなら、もう戦うしかないわよ……っ」

「でも、勝てるか分からない」

「勝てなくたって戦うしかないでしょ! 負けたら死ぬしかないんだからっ」

「分かってる。アリシャはうるさい」

「何ですって!?」

「二人とも、喧嘩は後にしてよ。今はここを切り抜けないと……っ」

「……そうね、エルゥの言う通りだわ。リッタ、これが終わったら覚えてなさいよ」

「切り抜けられたらね」


 三人の少女は、それぞれ武器を構えて応戦しようとしている。

 そんな少女達を囲うのは、『魔狼種』の魔物達だ。

 漆黒の毛並みに赤い瞳――牙を剥き出しにしたその姿からは、高い殺意が感じられる。

 逃げていたところを見ると、『勝てない』と判断して逃げるつもりだったのだろうか。

 まだ三人の少女達の戦いを見ていないから何とも言えないが、森の中で武器を携えているということは、彼女達も冒険者なのかもしれない。

 魔物達は、少女達の様子を窺っている。

 すぐに襲い掛からないのは、少女達の実力を見定めているのか。

 この場合、助けに入るべきか、少し悩むところだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る