騎士様になったおじいちゃん
土蛇 尚
桜花
「じいちゃん騎士様になるの?鎧かっこいい!」
冬の農民の生活は厳しい。だけどその家には、たくさんの薪が運び込まれて、暖炉に山ほど放り込まれて燃えている。一家はいつも芋ばかり食べているのに、テーブルには、ご馳走がたくさん並んで蝋燭で照らされてる。
暖かくてキラキラの家に、ピカピカの鎧を着たおじいちゃん。その姿に男の子は真珠のような瞳で、憧れの眼差しを向ける。
だけどお父さんもお母さんも黙って何も言ってくれない。いつも男の子が綺麗って言ったら綺麗だねと言ってくれるし、男の子がかっこいいって言ったらかっこいいねと言ってくれるのに。おばあちゃんもずっと黙って縫い物をしてる。
「そうじゃよ。じいちゃんかっこいいか?」
「うん。じいちゃん、あの棒は何?」
男の子は部屋の隅にかけられた棒を指差す。
「あれをおじいちゃんが持つんだよ。今おばあちゃんが作ってくれてる旗をつけて完成じゃ」
「あなた、出来ましたよ。桜花です」
おじいちゃんは受け取った旗を男の子に見せる。
「これが桜花騎士団の旗じゃよ。この国には3つの騎士団があるんじゃ。桜花、薔薇、百合で3つ。おじいちゃんは桜花騎士団の旗を持つんだよ」
「じいちゃん、綺麗だね。でもこれ布のついた棒だよ。戦うなら剣とか槍をもった方が良いんじゃない?」
男の子の言葉におじいちゃんは何も言わずに微笑む。
胴体に鎧をきたおじいちゃん。次は腕が布でぐるぐると巻かれいてく。それにまた男の子が何で?と聞く。男の子は最近、どんな小さいことでも何で何で?と聞くようになった。
「おじいちゃんは寒がりだからのーこうやって布の巻くんじゃ」
そう嘘をついた。本当は、痩せて細い腕には鎧をつけれない。だから隙間を布で埋めるために巻いている。
腕にも防具をつけたおじいちゃんに男の子はまたも聞く。足にはつけないの?
腕につけた防具はグラグラと揺れていた。
「おじいちゃんはとても強いからな。いらないんだよ」
また嘘をつく。本当は足が重たくなって歩けなくなるから。
鎧をつけ終わって桜花騎士団の旗を持つ。おじいちゃんは外で待っていた馬に乗る。
「あなた……」
「征ってくるからの」
「うん。行ってらっしゃい。いつ帰ってくるの?」
その言葉に何も答えず、おじいちゃんは微笑むだけで行ってしまった。男の子は同じことをお父さんに聞く。おじいちゃんいつ帰って来るの?
「おじいちゃんは帰ってこないんだよ。騎士団の身代わりになったんだから。お父さんたちも逃げるんだよ。それがおじいちゃんの願いだからね」
「え?何で?おいていくの?おじいちゃんをおいていくの?」
おばあちゃんは泣いていた。
王都の目前まで帝国軍は迫っていた。王都の次に大きな街に政府を移し、隣国には援軍を求めた。しかし王都はもう間に合わない。だがまだ負けてない。
残存する戦力を温存し、援軍がくれば第二王都から反撃の可能性がある。そう三つの騎士団が生き残っていたら。だから本物の騎士たちは戦わない。
その身代わりに国中から老人達がかき集められた。
敵軍を前に、妻が縫った桜花の旗が、娘の縫った薔薇の旗が、孫の縫った百合の旗が集結していく。布のついた棒を握りしめた老人が集まる。
「ついてこい。我らの屍を越えて子孫達は、愛する人は生き延びる」
老人ばかりの騎士団の先頭に国王が立つ。実権は全部息子に譲った。老いた漁師、老いた農夫、老いた国王。
今まで全く別の人生を歩んできたけれど、この瞬間、その老人たちは平等だった。
戦う意志を自ら示さない小国を助けてくれる国はない。だからその老人たちは布のついた棒を握り締めて最後の突撃を敢行する。
軍勢とは人の塊。一人一人の兵士が放つ熱気の塊だ。帝国の若く強い兵士達の放つ熱は目見えそうだった。それに相対するにはあまりにも静かで冷たい軍勢、それがこの小国の老人達をかき集めた騎士団だった。
圧倒的な帝国の大軍めがけて弱々しい雄叫びと共に、グラグラと揺れる騎士団の旗がはためく。
桜花と薔薇と百合が散る。
おわり
騎士様になったおじいちゃん 土蛇 尚 @tutihebi_nao
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