【2話 目覚ましいらず】

 ウオジハツと呼ばれる地区の西方面には山がそびえたっていて、自然を感じられる光景があった。


 そして、ウオジハツの西地域にある住宅街に一軒いっけんの小さめの家がある。


 二階建ての家の二階には四平方メートルの部屋があり、そこに一人の女性が寝ていた。


 女性は十八歳前後に見える容姿をしていて、水玉模様が描かれた寝巻をまとっている。


 一方、硝子がらす窓の外は騒々そうぞうしい音を響かせていた。

 騒音は寝ている黒髪の女性の部屋も刺激していく。


 黒髪の女性はゆっくりとまぶたを開けた。


(うーん、うるさいなぁ)


 近くに置いてあったペンダント型端末フォックレスを取って表面を押していくと、正面の宙に数字の映像が映し出される。


(いま何時だぁ? ……え? 朝の四時三十分? あれ、早起きし過ぎた!?)


 眉をひそめながら窓の外を眺めて、目を見開いた。


(いやいや、すでに太陽が昇っちゃってるよ! 徹夜てつやの影響おそろべし)


 苦笑いを浮かべながらフォックレスを首にぶらさげていく。


 それから、部屋の扉に近づいていき、廊下に出る。


 扉の外側には『春奈はるな』と太い文字で書かれた名札が掛けられていて、横に揺れていた。






 春奈は台所に向かって移動しながら大きく叫ぶ。


「アンジェ! リンゴジュース!」


 家の中に春奈の可愛らしい声が響き渡る。


(あれ、反応が無いな?)


 小首をかしげながらもう一度叫ぶ。


「アンジェ! リンゴジュースが飲みたい、持ってきて!」


 しかし、静寂せいじゃくという返事がくるだけだった。 


(ん、お父さんもお母さんもアンジェ連れて遠出してないよね? って、いやいや、昨日まで一緒に過ごしてたのに、ないない! まさか、故障でもした? アンドロイドのさだめが訪れた!?)


 それから、眉尻を下げながら窓の外を見つめる。


(それにしても、今日はずっと外が賑やかだなぁ。お祭りなんか今の時期やってるわけないよね? ちょっと外の様子でも見てみようかな)


 春奈は首をかしげながら玄関へ向かっていく。

 そして、足に靴を装備し終えたら扉をゆっくりと押していった。

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