かんせんしゃは何を考えているのか分からない

!~よたみてい書

【1話 じこ】

「いやぁぁぁっ!!!」


 長髪の真面目そうな女性は目を見開き、前方から迫る車体を見つめながら絶叫した。


 その場から動かない。


「何してるんだよ、止まれ!」


 車を運転していた聡明そうな男性も、車内で前方の女性を見つめながら声を荒げる。


 モトノヒという国の、シナマヤ市のとあるオフィス街にて、一人用の車が歩行中の女性に衝突していった。


 もちろん自動運転だけでなく、運転手も搭乗している。


 女性は斜め後方に軽く吹き飛ばされていき、コンクリートの地面に寝転がっていく。


 付近に居た他の歩行者も、歩みを止めて事故現場に視線を向けていたり、気にも留めずに歩き続ける者もいた。


 男性は慌てた様子で社外に出て、倒れている女性に駆け寄る。


「なんてこった……大丈夫ですか?」


「うぅ……」


 女性は辛そうな表情をしながらも、その場を立ち上がろうとした。


 男性は彼女の様子を見て、強張った笑顔を浮かべる。


「はっ、生きてた!? よかった……あの、お体は大丈夫ですか?」


「……大丈夫ですけど、あんた運転どうなってるの!?」


 女性は怒りをにじませた顔を男性に向けた。


 険しい表情だ。


 男性は安心して表情を緩める。


「無事だ……ブジダ……ブジダ……」


「それはたまたまでしょう!? もっとひどい状況になってたらどうするつもりだったんですか!?」


「ブジダァ!」


 男性は歓喜の雄たけびを上げ、強引に女性の口に自分の唇を重ね合わせていく。


 女性は驚きの表情を浮かべながら男性から離れようと試みる。


「んんっ……!」


【確率、80%。感染しました】


(え、確率? 感染? こんな時に私一体何を考えてるの! それよりこの人、危ない!)


 男子と女性の周囲には、野次馬がいつの間にか集まっていて、二人のいざこざを止めようと間に入ろうとする人もいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る