アジアカップ 日本対イラク戦 感想 その2

「ではここで、ちょっと趣向を変えて、ゲストのお二方をお呼びしたいと思います。


 八王子SCチーフアナライザー兼ユース監督の北里司さんと、


 八王子SCアシスタントアナライザー兼ジュニアユースコーチの鳴瀬神児さんです」


「どうも初めまして、八王子SCチーフアナライザー兼ユース監督の北里司です」


「初めまして、八王子SCアシスタントアナライザー兼ジュニアユースコーチの鳴瀬神児です」


「ようこそいらっしゃいました、北里さん、鳴瀬さん、早速であれなのですが、イラク戦の感想いかがでしたか?」(相沢)


「アジア恐るべしと言った感じですね」(鳴瀬)


「イラクの完璧に丸裸にされてましたね」(北里)


「……なるほど」(相沢)


「ところですいませんが、日本のフォーメーション見させていただきますか?」(北里)


「はい」


日本のフォーメーション


https://kakuyomu.jp/users/t-aizawa1971/news/16818023212320432176

「えーっと……これは?」(相沢)


「まぁ、あえて言うのならば、変形の3-4-1-2と言った感じですかね。


 それというのも、伊藤洋輝選手はほぼビルトアップ時にはDFラインには収まっておりませんし、菅原選手が上がった際には伊藤選手よりも、守田選手が下がってDFラインを形成してました。


 ネットでは左南野が機能してなかったという意見を散見するのですが、左南野と言っても、試合を見る限りにおいて南野選手が取っていたポジションはツートップの左という今までとは明らかに違ったポジショニングでした。


 まあ、それがたまたまなのか、それとも狙っていたのかは分かりませんが、皆さんが言っていた左ウイングの左南野というわけではないという事です。どちらかと言ったら左も伊藤って感じですかね。もしくは左右のイトウです」


「……はぁ」


「実際、左のウイング的な役割をしていたのは試合を通じて伊藤洋輝選手でしたし、南野選手はそれに合わせて、イラクのDFライン上でFWの役割を担ってました」


「なるほど」


「というわけで、私のその考えを前提において、日本対イラク戦の分析をしていきたいと思います」(北里)


「よろしくお願いします」(相沢)


「お願いします」(鳴瀬)


「まず、反省しなければならないのは、私達を含め、全ての日本人がイラクの事を過小評価していたという事です」(北里)


「はい、おっしゃる通りで返す言葉がございません」(相沢)


「しかも、負けて尚というところが救いがたい」(北里)


「負けて……尚ですか?」(相沢)


「はい、そうです。私達は世界ランキングが67位という事に気を取られ、イラクが直近のガルフカップでオマーン、カタール、イエメン、サウジアラビアにしっかりと勝ち切っている、今中東で最も勢いのあるチームであるという事を軽視していたのです。我々日本人が常日頃から日本の17位が妥当ではないと言っているのにもかかわらず……」


「……はい、返す言葉もございません」


「それにもかかわらず、いまだにメディアは、菅原選手の出来が悪かったとか、左の南野がまた機能しなかったとかそういう意見が溢れかえっております。その上、当の菅原選手でさえも調子が悪かったなどと言っているのですから……救いがたい」


「えーっとそれって」


「ですから、そもそも、南野選手はツートップの左ですし、菅原選手はいつもと変りないクオリティーでプレーしてましたよ」


「でも、メディアでは最低点ですよ?」


「私はそうは思いません。運動量も豊富でしたし、判断もそれほど間違ってなかった。まあ、間違っているというのは、イラクに負けたこの状況においても自分たちの出来が悪かったと勘違いしている所ですかね?」


「……はぁ」


「例えば、菅原選手がリバプールのアンドリュー・ロバートソンやブラジル代表のミリトンと戦ってうまくいかなかったと言って、菅原選手の調子が悪かったと言えますか?」


「いえ、流石に……相手が悪かったと言わざるを得ません……よね」


「そういう事です」


「……はい?」


「つまり、1月19日のイラクの25番、アハメド・ヤヒヤ・アル・ハッジャージはそういうレベルのプレーをしていただけです。」


「……そこまで言いますか?」


「はい、現在リーガで旋風を巻き起こしている右ウイングの久保建英を止めて、パリサンジェルマンでも止められなかった伊東純也を止めて、堂安選手を止めて、菅原選手も止めているのです。しかも、同じ試合の中でですよ」


「……たしかに」


「しかも、唯一と言っていいミスである、前半26分のプレー、スリップして転んでしまい伊東選手をフリーにしてしまった時は、菅原選手のパスミスによって消失してしまいましたからね。その後も、16番のアミル選手との連携で試合を通じて、ほとんど完璧に日本の右サイドを封じてしまった。


 そうなってしまっては、ツートップの右として出場した浅野選手も仕事のしようがありません。


 後半37分に右サイドに流れた南野選手が唯一、デュエルに勝ってクロスを入れるまで、右サイドはほぼ攻略できませんでした」


「……おっしゃるとおりで」


「結局は、我々は皆、イラクの事を下に見ていたのです。我々がその気になればアジアでは突破できない選手などいないと」


「……はい」


「そう言う謙虚さがもう少しあれば、日本は右サイドの攻撃を捨てて、左サイドで徹底的に攻め込んでいたはずなのです。現に日本の2失点は右サイドを攻めた後のカウンターを喰らって失点しているのですから」


「……たしかに」


「右サイドの防御力に比べ明らかにイラクの左サイドはクオリティーは劣っていた。だったら、徹底的に左サイドを突けばよかったのです。イラクが高さで勝る18番の頭に合わせ続けたように」


「……はい」


「しかし、運が悪いと言うか、なんというか、前半で左サイドを攻めて決定的なチャンスが生まれそうになると、相手のファールや納得のいかない判定で止められました。


 まるで何かの思惑があるかのように……です。


 しかし私達はその引き換えに、前半14分までにイエロー二枚を相手に与えました。


 だったら、もっと徹底的に左サイドを攻め続ければよかったのです。


 なのに、そこから、意固地になって右サイドを攻め続けた。相手がミリトンやアルフォンソ・デイビスだったら、どうしましたかね?意見を聞いてみたいものです。


 そして、イラクの左サイドバックである3番のフセイン・アリは明らかにスピードが劣っていた。もっと徹底的に攻め続けるべきたっだのです」


「おっしゃる通りだと思います」


「そのような前提の上でイラン戦について話していきたいと思います」


「えっ、これで終わりじゃないの?」(鳴瀬)


「これは最初の前提の話だ(ギロリ)」(北里)


「……また、長くなりそうだな」(鳴瀬)


「なんだって!!」(北里)


「いや、何でもないです。引き続きどうぞ」(相沢)


「では、言わさせていただきますが、その、南野選手と浅野選手について、まず、フォワードとしての連係が全く取れてない」


「えーっと、たしか、『左南野がまったく機能してなかったという訳ではない』という話では?」


「話ちゃんと聞いてますか?日本の左サイドは、伊藤洋輝選手がバイタルエリアまで何度も侵入しており、その点から見て右サイドに比べて明らかに機能していました。ただし……」


「ただし?」


「南野選手も、浅野選手も、フォワードとして基本的な動きがこの試合で一度も見られなかった!!」


「……といいますと?」


「どっちも、ニアでつぶれてない。ただの一度もです」


「……ニア……ですか?」


「はい、試合を通じて、何度かニアで潰れていたら決定的なチャンスを迎えるシチュエーションは何度かありました。そしてその局面において、南野選手も、浅野選手もゴール前に顔を出して二人して点を取ろうと躍起になってましたね。明らかに自分よりもガタイのでっかいイラクのDF陣に対して……果たして、南野選手も浅野選手もまともにぶつかって勝機があると思ったのでしょうか?


 私が言いたいのは、左の南野(フォワード)は後もうちょっとの所まで機能してた……が、最後の詰めの段階で基本的な約束事が出来ていなかったために結果を残せなかったという事です。なぁ、神児、おまえ、そう言うの得意だろ?」


「はい、私の仕事は、ご主人様に点を取っていただけるよう、一人でも多くのディフェンダーを道連れにしてニアで潰れることです」(鳴瀬)


「よくできたな。その通りだ」(北里)


「わんっ!」


「…………」(相沢)


「では、それ以外にも気になったプレーをいくつか言っておきたい」


「はい、よろしくお願いします」


「まず、前半の1分22秒のプレイ。鈴木選手……あれ、取れたろ」


「次」(神児)


「ビルドアップ時、谷口選手が、早めにボールを出すので、イラクの選手に嵌められがち。そこはもう少し自分で持ち出して、マークを引っ張るくらい川崎でもできただろう」


「次」


「26分46秒、久保選手、あれ、トラップしないで浅野選手に出していたら決定的なチャンスを演出できたはずだ……というか、この試合全般にわたって久保選手らしくないプレーが散見された。単純なトラップミスや今まで見たこともないようなドリブルのミス……もっとも、それがイラクの25番のプレッシャーというのならしょうがないのだが……」


「次」


「28分40秒の菅原選手の上りは素晴らしかった。そこで南野選手がニアで潰れてくれたら決定的なチャンスだった。南野選手と浅野選手のコンビプレーがあってない。浅野選手を上田選手や細谷選手との組み合わせを見てみたい」


「次」


「後半に入って18番のアイマンを止めるためにフィード力のある谷口を下げて冨安を入れたが、その肝心のアイマンがケガの為に前半で下がってた。急いでハーフタイムで交代する必要なかったろ!森保、相手の動き見てからカード切れ!!」


「次」


「後半2分10秒、守田選手のパスミス。前半からことごとくパスミス。一体どうした!?」


「次」


「5分10秒、久保君のらしくないミス。だから一体なにがあった?」


「次」


「7分2秒、だからタキ、ニアで潰れろ!!」


「次」


「8分32秒、PK取られなくて運が良かったけど直後の10分のPK取り消しで、結局行って来いだな。まぁ、菅原選手が足止めないでスライディングした後10番のシュートを止めたのはアッパレ」


「次」


「後半24分、ついにイラクが5バックに変更。日本が5バックで引いた相手に三笘選手、久保選手抜きで崩せたところ見たこと無いぞ!!」


「次」


「26分32秒、堂安選手とイラクの25番とのデュエル、ヤバすぎだろ!!」


「次」


「36分、伊藤選手の折り返し、堂安選手が邪魔しなかったらタキがドフリーだった!タキ運が無い」


「次」


「37分、この試合初めてイラクの25番にデュエルで勝ったタキ。反発ステップからのピンポイントクロス……だから前田選手。それは決めてくれ!!この2本のうち1本でも入っていれば……タキ運が無い」


「次」


「後半40分、さすがに25番の足が止まって来た。……が、時すでに遅し」


「次」


「後半48分……ナイッシュー……だが既に時遅し」


「次」


「まぁ、負けるべくして負けたってことか。大体負ける時ってこういう感じだな。では、今からインドネシア戦の展望を言う」


「えええー」(鳴瀬)


「今からですかー!!」(相沢)


「なんか文句あるのか(ギロリ)」(北里)


「何でもないです、どうぞよろしくお願いします」(相沢)


「イラクに負けて『今のうちに負けといてよかった』だの、『早めに負けといてよかった』だのふざけた意見を耳にするのだが……言っとくけど、インドネシアはヤバいぞ」


「……まっ、まさか、流石に146位の国には負けないでしょ」(鳴瀬)


「え、ええ、どのコメンテーターも流石にここには……って言ってますよ」(相沢)


「たった今、FIFAランクは当てにならないと言ったばかりだが、ここには学習ができない人間しかいないのか?」


「…………」

「…………」


「では、改めて問う。インドネシアは今大会ベトナムに勝って、イラクに1-3で負けたチームだ。俺達と何が違う?」


「……えーっと」(相沢)


「勝ち点は一緒だけど、得失点差で2違いまーす(死んだ目)」


「まあ、何はともあれ、ベトナム戦の前半だけでも見とけ。ダゾーンっていいな、アジアカップ全試合見れて」(北里)


 ……45分後、


「……これが……146位!?」(相沢)


「5レーン完璧に使いこなしてやがる」(鳴瀬)


「言っとくけど、イラク戦での敗戦、致命傷になってるかも知れねーからな?それから、インドネシアの監督はキム・テヨン……もとい、シン・テヨンだ。心当たりは?」(北里)


「えーっと……韓国の前ナショナルチームの監督ですよね」(相沢)


「っていうか、小説のモデルになったあの監督か?」(鳴瀬)


「そうだ。2018年ロシアワールドカップで当時世界ランク1位のドイツを破ったあの韓国代表の監督だ。11位に落ちぶれたドイツじゃねーぞ。当時W杯で世界ランク一位のチームに勝った監督だ」(北里)


「…………」(相沢)


「…………」(鳴瀬)


「ついでに本人の話はACL U-23 2016の決勝での過ちはもう二度としないと言ってたぞ」(北里)


「前半2-0からひっくり返されたあの試合か?」(鳴瀬)


「ああ、本人は真剣に決勝の舞台で5-0で勝つつもりだったらしい。まあ、実際前半の勢いのままだったらそうなってもおかしくなかったろう」(北里)


「そりゃ、流石に、調子に乗り過ぎですわ。いくら何でもあんなインテンシティーで90分戦えるわけがな」(鳴瀬)


「だから、本人はもう、二度とあんな過ちはしないと……日本戦が決まった半年前から言ってるぞ」


「……半年前……ですか?」(相沢)


「ああ、間違いなく、シン・テヨンは8年前の復讐を果たそうと牙を研いでいる。アジアカップという格好の舞台でな。この試合負けた方がおそらくアジアカップの舞台から姿を消すんだ。3位抜けの可能性があるだなんて思ってたら取り返しのつかないことになるぞ」(北里)


「負けたら終わりってことか……」(鳴瀬)


「ああ、それに間違いなく対戦が決まったその日から、日本の事は隅から隅まで調べつくしているだろうし、下手をしたら日本戦の為の秘密兵器や飛び道具の一つや二つ平気で隠し持っているかもしれない。そんな『今のうちに負けてよかった』なんて寝言ほざいていると、首、かっ切られるぞ。マジで……そうなってからじゃ手遅れだからな」(北里)


「じゃあ、どうすればいいんだよ」(鳴瀬)


「それ考えるのが、代表の監督の仕事だろ。高い給料もらってんだからさ」(北里)


「……ですよねー」(鳴瀬)


「まあ、受けて立とうなんて思ってたら、ホント足元救われかねない」


「ってことは」(相沢)


「ああ、キックオフ直後からフルスロットル。幸い高さでは勝ってるんだから恥も外聞もなくパワープレーで押しまくるのが間違いない。綺麗につないでサイドから崩して……なんて考えてたら手痛い目にあうかもな……まあ、誰が出るかで話は変わってくるが……」(北里)


「ってことは?」(鳴瀬)


「三笘選手が間に合えば圧倒的なスピードでぶっちぎればいい。イラク戦だって、三笘選手が出るか出ないかで結果は大きく変わっていたはずだ」(北里)


「「……ですよねー」」(鳴瀬・相沢)


「まあ、今行ったことが全て杞憂で終わってくれるのならそれに越したことはない」(北里)


「「ですよねー」」(鳴瀬・相沢)


「というわけで、『フットボールの戯言、アジアカップ 日本対イラク戦 感想 その2』これにて終了」(北里)


「「バーイ、センキュ」」(鳴瀬・相沢)

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フットボールの戯言~フットボールのギフト番外編~ 相沢孝 @t-aizawa1971

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