わらいかけるように

 愛らしい笑い声に目を覚ました。


 重い身体を持ち上げると、ぴたりと声は止む。

 不吉な予感に振り返ると――。


 彼女。


 きらめく瞳が私のことを、じっと見ている。


 私は


 戦慄した。


 あまりの愛おしさに。


 彼女が、来てくれた。


 私は嬉しくなって、悲鳴をあげた。


「そうだ」


 ひとつの良い考えが、水泡のように浮き上がる。


 そうだ、みんなにもこの子を見せてあげよう。


 私は目覚めたそのままの姿で彼女のことを抱きかかえると、靴をひっかけて家を出た。




 街は


 彼女を抱きかかえた人間で溢れていた。



   おわり

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たんぽぽ いちどめし @ichidomeshi

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