第15話盗賊

 がたん! と馬車が傾き、馬が悲鳴を上げた音で俺は目を覚ました。

 その際に頭を壁に強打し、変に寝違えた。


「どわぁ! なんだぁ!?」


 痛みで一気に覚醒した目で辺りを見回すと、『太陽』の連中やその他の乗り合い客の表情が強張っていた。


「と、盗賊です! 盗賊が出ましたァ!」


「行くわよ!」


 御者がそう叫んだことで俺はようやく状況を理解した。

 護衛として雇われている立場の『太陽』の面々は、ホノンの言葉を合図に馬車の側面から飛び出す。

 ちらっと顔を出すと、盗賊は十名程度いるのに対してこちらは『太陽』と弱そうな二人パーティのみ。

 単純な数でも倍の差があり、実力的にもこちら側が不利だと思う。

 そんな感じに傍観していると、他の乗客が俺を叱責する。


「お、おい、お前『太陽』と仲良かっただろ!? ってことは冒険者じゃないのか! 見てないで前に出て戦えよ!」


 めんどくさいな、こいつ。

 わざわざ構ってやる意味もないので無視していると、肩を掴んで来やがった。


「聞いてんのか! 冒険者なら守れって言ってんだよ!」


 男の話を聞いていた他の客もその声に便乗して騒ぎ出した。


「そうだよ!」


「少しは役に立とうと思わないのっ!?」


「こういう時くらい役に立てよ!」


 イライライライラしてきたぁ!


「黙れや触んなボケ!  まず何かやって欲しいならそういうっつうもんがあるだろうが!? ぐちぐちぐちぐち偉そうにうるせえな! そもそも俺はタダの客なんだよ、お前らを守る義務なんて一ミリもねえんだよ! そもそも俺にそういうのを求めるなら対価を寄越せよ。それでもいい年こいた大人か!? 世の中の常識だろうが」


 なんの関係もない奴らをタダで守るのは百歩譲っていいが、尊大な態度だったり自分のことを棚にあげて俺を糾弾するような自己中を守る気にはならない。

 まあ、それ以外の理由としては、俺が全部やっちゃうと手柄の横取りだとか難癖つけられたり、また変に目立っちゃってややこしくしたくないからだ。

 八割はうるせえ客に意欲を削がれたことだけど。

 俺は口をあんぐりと開けて呆然とする客たちを無視して再び視線を戻すと、ナギの様子がおかしい。


「あ、あの人は……!」


 ヒーラーなので他の人より後ろは控えているナギだが、彼女の身体はここから見ても分かるくらいに震えている。

 そして彼女の視線は盗賊の中でも一番偉そうで大柄な男に向けられていた。


「……まずいかもな」


「にゃあにゃあにゃあ」


 精神的に不安定になると魔法が使いにくくなる。そして数的不利かつ戦力的な不利もあるため、前衛たちはある程度の怪我は覚悟で戦っている。

 そのときに回復できなければ全てのプランが狂うことになる。


「にゃあにゃあにゃあにゃあ」


「ちょ、どうしたんだよ」


 妙に主張してくる猫は盗賊の頭領ぽいやつに向けて腕を振っている。

 うーん、いまいち意図が汲み取れない。


「とりあえず倒してもいいか?」


「にゃ!」


 いいっぽい。

 対人に関しては得意じゃないんだけど、まあ猫がそう言ってるしやるかぁ……。


 馬車から降りると、戦闘は熾烈を極めていた。

 なまくらな武器だが人数は多く、多くの人を殺めているため殺し合いの技術が高い盗賊たちと、片や魔物討伐を生業とするような冒険者で、決して高ランクとも言えないメンバーが大小の怪我を負いながら打ち合っている。

 そんな彼女らをフォローするのが役割のヒーラーだが、今日のナギも調子が悪そうだった。

 この前のゴーレムの時より多少はマシだが、十分な回復ができていない。


「ナギ! ヒールお願い!」


「っ、ひ、ヒール!」


「……っ」


 期待した効果が見られなかったホノンは見切りをつけ、なるべく負傷しない戦い方に変化させる。

 だが、青髪のミリアは魔法使いなので圧倒的に前衛の枚数が足りていなかった。


水弾ウォーターバレット!」


 後ろからミリアが援護するも、ホノンは苦しい戦いを強いられている。

 それはもう一方のパーティも同様であり、このままではみんなまとめてこの世からさよならだった。

 正直こんな敵味方がごちゃごちゃした中で魔法使うの相当面倒くさいんだが、やるしかなさそうなのでやるわ。


「ーーー『再生を紡ぐ意志に集いしものよ、思うがままに捧ぐ。汝の力、雷を持って彼に鉄槌を。我は集う。汝の力による苦しみを』《雷電》」



 バリィ! と何かが破けるような音が複数回鳴り響く。

 耳を塞ぎたくなるような爆音に敵味方問わず身体を硬直させるが、その攻撃は音よりも疾い。

 紫電が音を置き去りにして敵へと到達し、一撃で肉を弾き体の内部を焼いて倒れてから炸裂音が響くシュールな光景を作り出した。


 雷くんは結構じゃじゃ馬なため、制御に一苦労する問題作な魔法である。


 そんなこんなでナギと関係ありそうな頭目以外を感電させて生死不明にしたところで、股から小便を垂れ流して尻餅をつく頭目に近寄る。


「おい、宝はどこにある?」


「ひぃぃ!?」


うるさっ。


「野郎の悲鳴なんか気持ち悪いだろ! さっさと溜め込んだ金の場所教えろっつってんの!」


「ひいぃいぃぃぃ!!?」


 ダメだ、話にならない。


「落ち着け、な? ゆっくりでいいから話そうな? じゃないとカッコいい柄付いて死ぬぞ?」


 なんか雷で死ぬと血管の跡みたいなのが皮膚に浮き出るんだよね。

 手に雷をバチバチさせて脅すと、本当に死ぬと感じたのか頭領は恐怖に錯乱しつつも息を整えようと呼吸を意識し、そして口を開く。


「ぴぃ……ひ、ひ、ふ、ぐ……ひっひっふぅ……。た、宝の在りかはこの西の大岩のところです! だから殺さないでぇ!」


 滂沱の涙を流しながら懇願する頭目に、俺はにこりと笑顔を向ける。


「よし、ほな手を前で組め」


「は、はぃーーーつめた!」


 犯罪者にやる慈悲ない。無駄な抵抗ができないように俺は組まれた両手を凍らせて拘束し、後ろの方で呆然としているナギに声をかける。


「ナギ、なんか用あるだろ」


「ぇ……は、はい!」


 そして頭目は駆け寄ってきたナギに思いっきり顔面を蹴りとばされたのだった。


「お父さんとお母さんの仇ッ!」


 ……え、そんな相手だったの?


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男嫌いのパーティに男として参加させられたんだけどどうすればいいの? ACSO @yukinkochan05

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