第14話馬車

 翌日、ギルドで依頼を確認しても実りのあるようなものはなかった。


「しょっぱすぎるな……」


「にゃうーん」


 Fランクで受けられる依頼は言わずもがな、もう少し上のランクの魔物をこっそり倒そうにも昨日のゴーレムのせいでいなくなってしまったらしい。

 本格的に拠点変更を考えていると、受付嬢に声を掛けられた。


「アークさん、おはようございます」


「おはようございます」


「少しお話がありまして、最近の目覚ましい功績の結果、Dランクに昇格することが決まりました。おめでとうございます」


「……え?」


 なんで?

 脳内がハテナで埋め尽くされている様子を見て、受付嬢が補足を加える。


「一日に多くの依頼をこなしていること、ナイフバードの単独討伐、ゴーレム亜種の討伐と冒険者パーティ『太陽』の救助。これだけの貢献があれば、飛び級も納得ですね」


 たしかになかなか忙しい生活を送った実感はあったなあ。


「あぁ〜……ん?」


 ゴーレム?


「ゴーレムってあの女パーティが倒したんじゃないん?」


 手柄は押し付けたはずだ。

 疑問符を浮かべる俺を見て、受付嬢が笑う。


「うふふ、嘘が下手ですね。聞きましたよ、アークさんに助けてもらったって。死にかけたところをすごい魔法で一撃で倒して、そのせいでゴーレムの部位が使えなくなって泣いてたって」


「な、な、なんだと……!」


 あいつら……いや、白パン! 俺が嫌がってるのを知ってやりやがったな!!

 わなわなと震える俺を受付嬢は嗜める。


「善行は隠していたら伝わらないですよ」


 違う違う、そうじゃない。

 とりあえずここにいたらいらない事ばかりされそうなので拠点を変えることを決意した。

 その前にあいつらに一言言ってやろう。


「……『太陽』はどこに?」


「さぁ、今日はまだ来てませんね」


「……もう関わらんとこ」


 俺はその足で元親の領地から遠ざかる街へ行く馬車に乗る事にした。


 そして適当に捕まえた馬車に乗り込み、空いている席を探す。


「こっから十時間えぐいな」


「にゃ〜……」


「え」


「っ……!」


「アークさん!」


「え、なんでここに……?」


 そこにいたのはここ数日よく顔を合わせていた冒険者パーティ『太陽』の面々だった。


「てか待て、ゴーレムの件どうなってんだ!」


 確実に主導者であろう白パンホノンを睨むと、彼女は下手な口笛を吹いて目を逸らす。


「あー……ひゅー、ひゅ〜」


「……おい、誤魔化すにしても口笛下手すぎだろ」


「……」


「オイコラァ待てや! 無言で下車しようとすんな!」


「い、痛い痛いっ! 分かった、分かったから手を離しなさいよ!」


 荷物を抱えて逃げようとするホノンの肩を掴み、ギリギリと力を込め、それに耐えかねたホノンは大人しく席に戻った。


「で、なんで俺の名前を出したんだよ」


「それは……手柄を奪うことは御法度だし、いくらあんたがそう言ったとはいえ後ろめたいというか、なんというか……」


 ホノンがそういう感情を持ち合わせているとは到底思えないんだが。


「ナギが言いそうなセリフだな」


「ちょ! 失礼じゃない!?」


「ホノンは、カッコつけてる感じがムカつくから言ってやろうとか言ってましたよね」


「ちょ、ナギ!?」


 本当にそうなのか……。


「人間性ゴミじゃんおまえ」


「はあ〜!? 覗き魔のあんたが言えたことじゃないでしょうが!」


「んだと!」


 バチバチと俺とホノンの視線の先で火花が散る。

 ガタゴトと揺れる馬車の中、険悪な空気が周りに広がった。

 そんな緊張感の中、俺たちを諌めたのは青髪の少女だった。


「……うるさい、喧嘩なら外でやりなよ」


「う……ごめんミリア」


 心底迷惑そうな顔で俺とホノンを見つめている少女にホノンは珍しく素直に引き下がった。

 悪いのは相手だし、喧嘩を打ってきたのも向こうなので文句の一つでも言ってやりたかったが、ホノンが引き下がって俺が下がらないのは負けた感じがするので俺も渋々矛を収めた。


「……へい」


 そして俺とホノンの口喧嘩が終わると、次はナギが話しかけてくる。


「アークさんはどうしてこの馬車に?」


「あんたらが俺のこと言ったせいで貴族にバレそうになってるからだよ!」


「あっごめんなさい……」


 強めの口調で告げると、ナギは本当にショックを受けたように眉を下げる。

 そんな反応されるとこっちが申し訳なくなってくるんだけど……。


 ナギへの対処に困っていると、ホノンが口を挟む。


「なんで貴族に知られたくないの?」


「まあいろいろあるんだよ」


 ゴミ親父とか、ちょっと拗らせてる令嬢の知り合いとかにバレたくない。

 など言いたくないし人に言えばそのうち情報は回るものだ。

 本人は言うつもりがなくても、素振りだったり酒の席でうっかり、なんてことは良くある話だ。


 そう濁す俺に、青髪の少女が鋭い視線を向けている。

 ……こういう時は気づかないフリをするに限るな。


「ま、まぁいいだろなんだって。別に犯罪をしたわけでもないじゃん」


「私のは見たけどね」


「いつまでいうんだよしつけえな」


「一生!」


「なんだと!」


 また喧嘩が始まりそうになった時、御者が声をかけた。


「そういえば、近頃盗賊がよく出てるらしいから、警戒を頼むよ」


「はい」


 ナギがそう返す。

 こいつら依頼で馬車に乗ってるの?

 俺は金払って移動してるのにこいつらは金貰って移動できるのずるくね?


「…………しらね」


 格差を見せつけられた気持ちになった俺は不貞寝をすることにしたのだった。


 なんとなく、ナギの表情が固いような気がしたが俺が触れることでもないだろう。

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