第13話すれ違い
ギルドに帰ってきた俺たちは今日のことについて話し合っている。
なにやらあのゴーレムは亜種だったらしく、ギルドでも討伐依頼が出されていたようで、倒したことを報告する必要があるらしい。
そう説明してくれたナギ。
「倒したのはアークさんですので、報告お願いします」
「面倒なことはないん?」
「ないと思いますけど……討伐の報酬と、あともしかしたら領主から何か貰えるかもしれませんね」
領主かぁ。
ここって元実家の隣の街だからたぶん俺のこと知られてるんだよな。
万が一領主に注目されたりすると面倒なことになりそうだ。
「……そっちが倒したことにしてくんない?」
「え、なんでですか?」
「ちょ、私たちが苦しそうに見えたとかそういう同情ならいらないわよ!?」
俺の提案に困惑するナギと怒気を抱くホノン。
「いや、違くて。ちょっと昔にやらかしちゃって、貴族と関わりたくないんだよな」
「……本当でしょうね」
「マジだよ。そもそも俺だって金ないのに人に同情で金をやるわけねえだろ」
「それもそうね」
「そ、そういうことなら……」
申し訳なさそうにナギがこちらに視線を向けてくる。
こっちの事情で譲ってるんだからそんな表情する必要ないのにな。
さて、二人は報告に行ったし、俺も別の受付に行くことにするか。
「今日受注したゴブリンの耳です」
「はい、しっかり確認させていただきました」
森に行く名目で受けた依頼を提出し終え、また金になりそうな魔物の情報を聞く。
「他に金になりそうな依頼ってあります?」
すると、受付嬢は難しい表情を浮かべた。
「それがですねえ、今日討伐されたゴーレム亜種が森で猛威を振るったせいか、魔物が奥の方に逃げちゃったらしくてあんまり魔物がいないんですよね」
「えぇ……」
「ですので、落ち着くまでの間は討伐系の依頼はあまり出回らないと思っていただいた方が……」
じゃあ今日雑魚魔物とよく出会っていたのは運が良い方だったってことなのかよ。
しかし、割りのいい魔物がいないとなるとこの街にいる必要もないかもしれない。
でかい鳥の資金も少しはあるので、ちょっと休んでから他の街に行くのも一つの手段かもしれないな。
「別の街にも付いてくるか?」
「にゃむ」
「そうか」
俺は人の言葉がわかったかのように鳴く猫を撫でた。
そして俺たちは今日も宿探しをしていた。
金はあるのでちょっと高めの場所でもいいかなと思っていたのだが、あいにく今日もパンパンだった。
「マジでなんなん」
「に"ゃ」
俺たちは半ギレで野宿することになった。
同日の夜、フランカの街にティアとメイドが到着した。
「お嬢様、着きましたよ」
「お尻が限界だよ……」
取った宿はもちろん街の最上級の宿。
宿側はできる限り精一杯のもてなしをしようと、馬車が見える一時間は前から整列をしていた。
「そんなに張り切らなくてもいいのにね」
「お嬢様は公爵家の長女ということをお忘れないよう」
そんな雑談をする二人は宿にいらぬ気を遣わせないよう、さっさと部屋へと入っていくのだった。
「それでお嬢様、アーク様を見つけてどうするつもりなんですか?」
椅子に座ったメイドがティアに問いかける。
「え、それはもちろんウチで保護するの! 彼のやりたいことは好きにやらせてあげるつもりだけど、帰るべき家はココ、みたいな?」
「夫を自由にしてあげる良妻みたいな雰囲気出してますけど普通に自由奪ってますし束縛してますよ」
「え? なに?」
「なんでもありません」
本当に聞こえていないティアの様子にメイドは深いため息をつく。
「というか、お嬢様はアーク様と顔を合わせると緊張してマトモに会話できませんよね。それに自由な思想をお持ちのアーク様が素直に従ってくれるとは思えませんが……」
「そ、そんなことないもん! ボクとアークは心で通じ合ってるからお互いのことはなんでも分かるし、ボクの言うこと聞いてくれるはずさ!」
「都合良すぎませんかそれ……」
一度諦めた男をもう一度落とすチャンスが生まれたことで、断ち切ったはずの想いが倍増している主人の様子に頭を悩まし、彼女の被害に遭うであろうアークと公爵家当主の災難に密かに同情するメイドであった。
そして、彼女たちが宿を取ったせいで宿側が他の客をキャンセルしたことでアークが野宿になったことを知らない二人組のアーク捜索作戦が始まろうとしていた。
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