第一話 レジェンドドラゴンとシルバーフェンリル②
お
馬は一頭しかいないし、
「聖女様だ!」
「聖女様のおかげで国が救われた!」
「伝説にある救国の聖女様だ!」
──騎士団は救国の聖女の登場に
なにかの動物が
ちなみに話題の聖女様は私のことではない。私がザイラードさんと騎士団についたときにはすでにフロアは最高潮だったので……。
「……救国の聖女はここにいる」
盛り上がる面々に、ザイラードさんが低い声で、けれどしっかりと通るように告げた。
その言葉に熱狂していた空気が一瞬で静まり返る。そして、私へと視線が集まり──
「なんだそいつは」
──聞こえたのは、バカにしたような声だった。
「ザイラード、
「レジェンドドラゴンの
「わぁ美人な女子高生」
──とてもかわいいセーラー服の女子高生。そして、女子高生は私を
「私が聖女よ!」
そうか。
「あちらが聖女様みたいです」
どうやら。よくわからないが、本人が言うからそうなのだろう。
あっさり納得すると、ザイラードさんはなんとも言えない顔で私を見た。
「俺はあなただと思うが……」
「私は私だと思わないですね……」
認識の
すると、きらびやかな衣装の男性が話を始めた。
「第七騎士団からレジェンドドラゴン襲来の知らせを受け、私たち王宮軍はすぐに飛んだ。半信半疑で転移魔法陣を使ったが、ここに到着して、その知らせが真実であるとわかった。
「最初、レジェンドドラゴンの姿は
「ああ。ザイラードが戦っているとは聞いていた。私たちもすぐに
なるほど。理解。時系列で言うと、
・レジェンドドラゴンが現れる
・ザイラードさんが気づく
・(たぶんここあたりで私が森に迷い込む)
・ザイラードさんが部下を
・ザイラードさんとレジェンドドラゴンが戦う
・(たぶんここあたりで私が森をうろうろする)
・王宮軍が騎士団の
・王宮軍がレジェンドドラゴンの姿を確認する
・光に包まれた美人な女子高生が騎士団の前に現れる
こうだろう。私が迷子になっている間に、いろいろとことが進んでいる。
「聖女様はな! ドラゴンを見つけた
「祈る……」
それはすごい。私はドラゴンを見つけた瞬間、「うわぁドラゴンだぁ」って
「その瞬間、ドラゴンは消えた! 聖女の力で
「はい。私にはそういう力があると思います」
きらびやかな衣装の男性の隣で、美人な女子高生は自信たっぷりに
私は
「だってさ。君、浄化されたみたいだよ?」
「浄化サレテナイ! チイサクナッタダケダ!」
「まあ、これでどうして小さくなったかわかってよかったね」
美人な女子高生に祈られたからだ。
私が「うんうん」と頷くと、ドラゴンは
「風強い、風強い」
適当にかわしていると、ザイラードさんが私の手を
そして、女子高生のほうへと向かっていく。
「……あなたは、あの小さなものをどう思いますか?」
「あの女性の肩にいるのよね? なにも思わないわ」
「……浄化とはどういうものですか?」
「それは……その、うまくは言えないわ。説明してもわかってもらえる感覚ではないから」
女子高生は後半、言葉を
「ザイラード、
「……そんなつもりはないが」
「お前は常に人を
きらびやかな衣装の男性は、女子高生を守るようにザイラードさんの前へと立った。
「私はこの女性を救国の聖女として王宮へと連れて行く」
「……それならば、彼女も一緒に」
ザイラードさんが私を示す。
「俺は彼女こそが国を救ったと思っている。この目で見たからだ」
「お前はドラゴンと戦っていたから、よくわからないうちにドラゴンがいなくなって、
男性はザイラードさんの言葉をハッと鼻で笑った。そして、私へと視線を移す。……が、いやな感じだ。
「そうだな、たしかにそこにいるのも、この国の服ではないものを着ているな」
しげしげと私を観察した男性はいやそうに顔を
「まあ、一緒に連れて行ってもかまわないが」
その目から
救国の聖女様を見つけた! と盛り上がっているところだったしね。そんなときに私が来てしまったのがよくなかったのかもしれない。最高潮だったフロアがちょっと
本当は捨て置きたいが、ザイラードさんの言葉を無視できない。しかたなく、
正直、初手からこんなに
立場のある
すると、きらびやかな男性は私を見下しながら、指差した。
「おい、お前。ザイラードにうまく取り入ったな。連れて行ってやってもいいぞ。『ついで』にな」
うーん、行きたくない……。
が、異世界に迷い込んでしまった私はなにももっていない。屋根のある
となれば、だれかに世話になる以外に生きていく道はない。わざわざ『ついで』を強調する人間とともに行くのはいやだが、しかたがない。ザイラードさんも、この人に私を連れて行くように
「そのかわり、もう二度と『救国の聖女』だなどと、
男性はそう言って、いやそうに顔を歪めた。
……欺くもなにも、私だって自分がそうだとは思っていない。美人な女子高生と平凡な会社員。聖女がどちらかと聞かれたら、それは女子高生だ。私もそう思っている。
のに、私の話も聞かず、一方的に私が聖女を
思わず表情に出そうになる。その瞬間──
「うるさい」
──バキッとなにかが当たる音が鳴った。
「俺は彼女を『救国の聖女』として連れて行ってほしいと言ったんだ。彼女を敬うつもりもなく、勝手に話を進めて、彼女を
「な……な……っ、ザイラード、
「用が済んだなら帰れ」
きらびやかな衣装を着た男性が地面に
ザイラードさんはその前に立ち、低く
私には背を向ける形なので、ザイラードさんの表情は見えない。が、すごく
私も
え、というか、
「申し訳ない。いやな話を耳に入れてしまった」
ザイラードさんは地面に座り込んでいる男性から離れて、私の
「疲れていると言っていただろう? こちらへ。まずは休める場所へ案内する」
そう言って、左手を差し出してくれる。また手を取って案内してくれるつもりのようだ。
自然に私も手を乗せると、温かな体温が伝わる。……この手で殴ったのだろうか。
私の疑問が顔に出ていたようで──
「大丈夫だ。殴ったのは反対の手だ」
──ザイラードさんはいい顔で笑った。
わぁ、いい笑顔。イケメン。だが、よかったのか……?
「あなたが王宮へ行けるよう、
ザイラードさんが私の手を引きながら、優しく話してくれる。
殴り飛ばされたきらびやかな衣装の男性。彼についていかなくても、違う
「あ、それなんですけど、王宮って行かなきゃいけない場所なんでしょうか?」
そもそも論。必ず行かねばならないのだろうか。正直、行きたいと思えないのだが……。
「必ずというわけではない。が、救国の聖女としての
「なるほど……」
「俺が団長をしている第七
ザイラードさんの話を
つまり、ザイラードさんは私を追い出すために、王宮の話をしているわけではない。むしろ、私のために王宮のほうがいいのではないかと考えてくれたようだ。それならば──
「しばらくは、このままでお願いできませんか?」
エメラルドグリーンの
「私は華やかな暮らしより、気を張らない暮らしをして、少し休みたい気分で……」
自分が聖女であると主張した美人な女子高生。若さに
が、私にはそれはない。
──ハッピーライフ希望。
「魔物のいた森は木の実が
「採れる。キイチゴがうまいな」
「あーそれ食べたいです」
キイチゴを
「川があったりして、魚が
「川はある。あまり人間が来ないから、釣り
「あーそれも食べたいです」
釣りはしたことがないが、ザイラードさんの話だと、
「王宮に行くより、そういうことがしたいな、と。ご
「いや、救国の聖女を働かせるなど……。しかし、本当に、そんなことでいいのか?」
見上げたエメラルドグリーンの瞳が
なので、私はへへっと笑った。
「とても
疲れすぎて、脳が活動をやめているせいかもしれないが、元の世界に戻ってどうこうよりも、ここでそうやって生きていくのもいいのかもしれない、と思う。
とにかく、王宮に行くよりは絶対にこちらにいたい。
すると、ザイラードさんはふっと息を
「そうか。それならば、ここにいてくれるとありがたいな」
──はははっと
金色の
「──っザイラード!!」
そんな私たちへと
「お前は
……うん。この場合、騙しているのは私であろう。が、私には人を騙す活力がない。休みたいだけなので。
「……もう一発」
ザイラードさんはぼそりとそう
……もういっぱつ? もう一発。あ、それ、あ、それ……。
「ザイラードさん、私は気にしてないので……」
すでに歩き始めてしまった背中に一応、声をかける。
が、ザイラードさんはいい顔で笑うだけだ。
「心配ない」
いや、心配というか……。
すると、その途端、森のほうにズンッとなにか重いものが着地したような音がした。そして、ゴウゴウと音を立て、地面が
「シルバーフェンリルだ!!」
魔物をペット化する能力が目覚めました うちの子、可愛いけれど最強です!? しっぽタヌキ/角川ビーンズ文庫 @beans
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