幕間劇 旅芸人の一座
ええ、ええ。わたくしたちは国々町々村々までをも渡り歩いて、劇を演じて回るのが生業の旅芸人でございまして。
この数年、どこへ行っても巨大龍巨大龍と、辛気くさいにもほどがありましたが、ようやくこの一年ほどは皆活気を取り戻し、一座の収入も安定して参りました。
と言いますのも、このエルドの地で龍が倒れたからに相違ありません。
唯一の連絡橋を龍に薙ぎ払われ、互いの村を行き来するのにひと月もかかっていた場所も。
一夜にして瓦礫の山となってしまった大都市も。
蒸発した湖も、干上がった川も。
龍の歩みに恐怖を覚えたモンスター達が殺到し、滅びかけた森林近くの町並みも。
今では皆、復興に向かっているのでございます。
そんなとき、わたくしどもの提供致します楽劇と言いますものは、覿面に効果を発揮するのです。
誰もが辛いときは、楽しいことを求めるもの。
そうですね、国ごとに受けのよい演目というのは違うものですが……それでも、鉄板のネタもございます。
一つは古い時代の悲喜劇。誰もが寝物語に聞くような、巨大龍と白き巨人が七日七晩戦った話ですとか。そう言った類い。
そしてもうひとつが、商売敵の吟遊詩人達が謡うような、英雄英傑の物語。
龍禍賢人の武勇伝など、この国、エルドでは殊更受けがよい手触りでして。
万夫不当の色男、ルドガー卿のラブロマンス?
シュネーヴァイス家の大献身と、救われた民?
もちろんそれらも人気ですが、やはり一番は龍禍賢人とその懐刀のお話で。
龍によって滅ぼされた都。
必死で瓦礫を押しのけて、生存者を探すは我らが龍禍賢人の若かりし姿。
燃えさかる炎、降りしきる雨。
死屍累々の中、しかし彼の手は一つの命を拾い上げる。
それが後に、彼を支える少女だった――というお話は、大層実入りがよく……げほん。とても人気の高い脚本でございます。
少女と龍禍賢人には結ばれて欲しいという願いも多く……え?
なんですって?
ご本人は助けたことすら自覚されていない?
これは、珍しい解釈をされるかただ……。
しかし、ええ、これだけ売り上げがありますと。
何より肌で活気を感じていますと、この国は間もなく復興するのだなぁと感慨深くなりますもので。
ええ、ええ。誰の顔にも笑顔があります。
周辺諸国が緊張状態にありながら暢気なものだ……などとは思いませんよ。それだけ、国政を担う方々への信頼が大きいのでしょうからね。
ただ……あの方々は、一体何者なんですかねぇ?
赤黒い衣装を着て、龍の紋章が入った旗を掲げて練り歩くあの一団ですよ。
いや、だってねぇ、気になりますよ。
彼らさん、どこの国にもいるんです。
それで、今全員が此処に集まってきている。
おまけに揃って街の外へ向かうわけですが……その方向にあるものと言ったら、〝あれ〟でございましょう?
巨大龍の遺骸。
近いうちに血抜きをされて、解体されるという話ですが……なんだか、嫌な予感がしますねぇ。
いやはや、取り越し苦労ならいいんですが。
お嬢さんは、何かお知りで?
え? 極秘任務だから言えない?
またまた、旅芸人を揶揄っちゃいけませんよ!
では是非、次の公演も観に来てくださいまし。
特別によい席を、ご案内致しますね、紫髪のお嬢さん!
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