幕間劇 乱れた国で荒稼ぎ ~とある交易商のエルド国滞在記~

 へぇ、あっしはしがない商人で、生国しょうごくをタルカス共和国と発します。

 このたびエルドへは、商いのためやってきた次第でして。


 目的、ですかい?

 そりゃあ、一山当てようって訳ですよ。

 焼け太りに事故成金、災い転じて福となすってね。

 つまりは、いったん滅びかけた国が立ち直るときってのが、一番儲かるんでさ。


 雨露を凌ぐ建物を作るには、資材が要りやすね?

 今日のおまんまだって、買ってこなきゃいけない。

 飯の材料が国で手に入りゃあ苦労しませんが、そうなれば買い付け業者も必要になる。

 着るものだって必要だ。


 そこで重宝されやすのが、あっしら交易商こうえきしょうってなわけで。

 各国からよりどりみどり、なんでも手配してこちらで売りさばき、荒稼ぎしちまおうって算段な訳でして。

 もっとも、普通ならそう上手くはいかねぇ。

 これにはちょっとした訳が――いや、これは話せねぇな。


 え? もう一杯やれ、ですかい? ははぁ、有り難く頂戴いたします。

 くー! 甘露かんろ甘露!


 ……いえね、本来ならあっしらが踏み込む余地なんざねぇんですよ。

 国ってのは閉塞的ですし、ここらの諸国は歴史上戦争をやってきた、いわば仲の悪い連中です。

 国交はありやすが、健全なものじゃあない。

 人の出入は間者かんじゃや物騒なものに繋がるってんで厳しく制限されていましたしねぇ。

 エルド国ってのも、その例外じゃあない。


 ところがですよ、ある連中の働きかけで、そいつが全部取っ払われちまった!

 出入り自由、関税自由ときたもんだ!


 この国では有名なんじゃないですかい?

 巨大龍災害対策機関の仕業しわざですよ。


 外貨獲得、復興支援と偉い剣幕で王様に詰め寄ったそうじゃないですか。

 外国の商人達が交易にやってこない状態では国が潰れる。そう一席ぶって猛プッシュ。

 結果、商人達は喝采を上げることになりやした。

 いやぁ、名君仁君ここにありって感じだぁ。

 ええ、龍災対様々。あっしらが大手を振れるのは、彼らさんのお力ですからねぇ。


 へ? それが正解だったか、ですかい?


 あっしはただの交易商、現在あったことが後世でどう評価されるかまではうらなえやせんが。

 しかし、いまここに広がる景色を見れば、答えは両全でしょうや。


 活気を取り戻した町並み。

 子供らが泣いて喚いて、それでも笑ってその辺を歩いていられる。

 女だって人さらいにあっちゃいない。

 十分、十二分な治安でさ。

 商いに、これ以上適したもんはありやせん。


 つまりはこの国、早々に復興するやも知れない、そんな話でしてね。

 ええ、あっしもこの大波に乗り遅れねぇようにしてぇもんですよ。


 しかし、いやはやお兄さん、随分御馳走になっちまいましたか。

 勘定は全部持ってくれる?

 はぁ、至れり尽くせりだが……裏があったりしやせんか?

 いえ、疑ってなんか、とてもとても。


 ただ、因果な商売なもんですから、つい、。

 はぁ? 自分はこの辺りの復興支援を手伝っている民間団体の顔役だと?

 これから商売をするなら、いろいろと口を利いてやってもいい?


 こいつは渡りに船だ。

 それで、あんたさんは――ギルベルトさん? じゃあ、一つご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしやすよ。



 ……まったく、おっかないねぇ。

 あんな虫も殺せそうにない顔してるくせに、腹の内が一つも読めねぇ。

 前言撤回だ。

 こんなやつが潜んでるなら、この国、もう一波乱ありそうだ――

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