第65話 10-7.


 5月月初の大型連休は、主な取引先である民間企業各社が10日から2週間に及ぶ長期休暇に突入し、アマンダ達調達現場も比較的暇になる時期だ。

 もちろん、生産活動は停まっても物流まで止まる訳ではないし、それ以前に宇宙の彼方の戦争は、連休なんて関係なくいつだって実戦中だ、だから仕事を休む訳には行かないが、普段のウィークデーと比較して、余程の事がない限り、然程ガムシャラに残業をせずとも済むこの時期は、YSICの面々にとって貴重な『息抜きウィーク』なのである。

 そんな中、UNDASN同様カレンダー通りの勤務を強いられている公務員であるところの横浜市港湾局の会議で遅くなる、と陽介に告げられたアマンダは、部下に「公務外出、直帰すっから」と告げてオフィスを出て、東京へ向かった。

「けっ……。なんか、辛気臭いビルだなあ、おい」

 駐日武官事務所の借り上げている築20年は経過しているだろう、渋谷駅前、宮益坂通りに面している、立地だけは良い古びた『元』雑居ビルを見上げ、アマンダはひとりごちる~古びた雑居ビル、ではあるが、YSIC同様、そこは軍事施設なので最低限必要な設備改修はされているのだが~。

 実は、ここを訪ねるのは初めてだった。

 訪問目的は勿論、四季に逢うためで、事前にアポは取ってある。

 数日前、『捜査状況』の中間報告をしようと携帯端末に通信を入れたら、『情報漏洩スロッパーの疑いがあるから、直接報告して』と言われたのだ。

「失礼ですが、IDを」

 アサルトライフルM1600を握った警衛の一曹がアマンダの前に立ち、行く手を遮った。

 腕のインシグニアを見ると701師団から派遣されている普通科隊員だ。

 YSICの警衛と同じ原部隊だが、装備している小銃もAK4700の後継M1600だし、ボディアーマーも新型の50式、全く違う部隊に見えた。

「このカッコ見て判んねえか? 」

 ワーキングカーキ姿を一瞥し、彼はあくまで慇懃である。

「申し訳ありません、一尉。決まりでして……」

 短く吐息を吐いてアマンダは素直にIDを見せる。

「YSIC、沢村。お前らのボスの澄ましたツラ、拝みに来てやったぜ? 」

「武官……、でしょうか? 失礼ですが一尉……」

 アマンダは酸っぱそうな表情を浮かべて両手を挙げて見せた。

「上官侮辱罪と看做し施設警衛としては拘束し、警務担当へ送致せざるを得ません……、だろ? 判った判った、アタシが悪ぅござんした」

 思わず銃把を握る指が白くなったのを見て、アマンダは普段通りの無表情に戻り、面白くもなさそうな口調でボソリと呟いた。

「流石、武官事務所の派遣隊員、挑発にも乗らず優秀なもんだ。や、すまねえ、悪かった。つい調子に乗ってからかっちまった」

 謝罪の言葉で肩の力を抜いた一曹に、アマンダは押し被せるように言葉を継いだ。

「武官にお逢いしたい。アポ済だ」

「イエス、マム」

 そう言って堂に入った敬礼をする一曹が妙に眩しく見えた。


「ご苦労様です」

 2階のオフィスへ入ると、入り口近くの列に座っていた日本人らしい女性二曹が立ち上がってアマンダに駆け寄り、敬礼しながら言った。

「あの、失礼ですが? 」

 小首を傾げる、ショートカットの跳ね毛が可愛らしい彼女は、くりくりとよく動く大きな黒い瞳を真っ直ぐにアマンダに向けてきた。

「あー……」

 妙に照れてしまい、思わず視線を外してしまう。

 何故か、彼女が羨ましく思えた。

 そう言えば、四季を初めて見た時も、同じような眩しさを感じたな。

 そんなことを思い出しつつオフィス内を見回すと、見慣れた自分の職場と違い、妙に落ち着いた景色に見える。

「そうか……」

 服が違うんだ、と思い当たった。

 今日のアマンダの出で立ちがそうである如く、YSICではほぼ全員、所内で執務中はワーキングカーキを着用している。

 取引先への訪問時は、その都度ドレスブルーに着替えるのだが、来客などがあった時は、ワーキングカーキのままで接客する事も多い。

 今日のアマンダなどは、外出だと言うのに制帽はおろか略帽ライナーすらかぶっていない。

 YSIC内で常にドレスブルーを着用しているのは、陽介と総務班長の志保くらいだろう。

 志保にしたって、真夏には真っ白なシャツが眩しい第二種軍装~ドレスホワイト、と呼ばれる防暑標準軍装だ~に衣替えだ。

 だが、ここ武官事務所では全員が全員、士官はもちろん下士官兵まで、ドレスブルー着用なのだ。

 よくよく考えてみれば、確かに入居しているビルは中古でも、ここはUNDASNの駐日代表部、UNが日本に置いた表看板なのである。

 ここに勤めている将兵は皆、外交官同様に扱われている訳で、同じ日本国内で業務を行っているアマンダ達のような現場に比べたら、威容は必要だろう、そう考えると警衛の兵士ですらエリートが派遣されているのも当然だ。

「あの、一尉? 」

 別に逃避するつもりはなかったのだが、なんとなく無言でそんな感慨に耽っていたアマンダは、不思議そうな声に現実に引き戻された。

「あ、ああ」

 これじゃ唯のコスプレした不審者だ、と慌てて官姓名を名乗ろうと口を開きかけた途端、背後で歌うような、のんびりとした英語が響いた。

「どうしたの、二曹? お客様? 」

「あ、補佐官」

 ほっとしたようにアマンダの肩越しに飛ばした二曹の視線に誘われて振り向くと、匂うようなブロンドのショートヘアの美人が、それこそ春の陽射しのように柔らかく温かく微笑んでいた。

「あら」

 どこぞのお嬢様のように口に手を当てて驚いて見せる表情が、まことに絵になっている。

 UNからの出向組かとドレスブルーの右胸を見て、今度はアマンダが驚く番だった。

 金色に輝くウイングマーク、その上には対地上目標撃破スプラッシュ2500ポイント以上のエースボンバーだけに授与される、ゴールドボム徽章が燦然と輝いている。

 なにより、左胸の略綬が三等空佐ながら4段に届かんとしているのは、少なくとも8年以上最前線にいた証拠といえた。

 おっとり、上品そうなお嬢様は、意外なことにパイロット、しかもファイター、ボンバー、ストライカーと言った空中戦闘勤務職種中、損耗率ダントツ一位と言われる、急降下爆撃機乗りだった。

 人は見かけに因らないってのは本当だなと感心していると、目の前のエースボンバーは、ニコッと花が綻ぶような明るい笑みを浮かべて、本当にその嫋やかな指でスティックを握れるのかと疑いたくなるほどに白い右手をアマンダに差し出した。

「武官から聞いてるわ。YSICのサワムラ一尉ね? 私は武官補佐官のレヴェッカ・マイヤーストン。よろしくね? 」

「ん……、ん」

 ゴシゴシとスカートの尻で拭ってから、おずおずと差し出した右手をレヴェッカは柔らかく握り返して、二曹に向き直った。

「ありがとうね、二曹。サワムラ一尉のアポは私が受け付けていたの」

「了解しました」

 二曹が脱帽敬礼して席に戻る姿から視線をアマンダに戻し、レヴェッカは微笑みながら手をオフィスの奥に向けて伸ばした。

「案内するわ、武官はつい先程、お戻りになられたところだから」

「あ、……う」

 レヴェッカの後ろについて歩きながら、アマンダは先程から突き刺さりまくっている視線が気になって、何気ない風を装いながら、サラリとオフィスを一瞥する。

「……ああ」

 それだけで、アマンダは視線の意味に気付いた。

 半分は初見のアマンダを誰何する視線、そしてもう半分は。

”姐、相変わらずモテてんなあ”

 美しい四季のことだ、ミハラン時代は、男性から常に羨望の眼差しを向けられていたのは当然として、不思議と女性兵士達からも圧倒的な支持を受けていたのを思い出した。

 コンコンコン、と軽やかにドアを叩く音が、彼女を現実に引き戻した。

「マイヤーストン、参りました」

「入れ」

 四季の声が響き、レヴェッカが振り向いてアマンダに微かに頷いて見せ、ゆっくりとドアを開いた。

「YSICのサワムラ一尉、参られました」

 敬礼して告げるレヴェッカの横で、アマンダも仕方なく敬礼する。

 脇を絞めて殆ど垂直に近く手を上げる空式の敬礼、派手に真横へ肘を張り出す陸式の敬礼を受け、四季は控えめに片目を隠すようなコンパクトな艦隊式の答礼を返し、ニコッと微笑んだ。

「雪姉、いらっしゃい」

「あ、ん……」

 ぎこちなく答えるアマンダと、微笑を浮かべる上官の顔を見比べながら、レヴェッカはコロコロと鈴が鳴るような声で笑った。

「あら、おふたりはお知り合いでいらっしゃったんですか? 」

「うん。私がレンジャー時代にね。この雪姉は凄腕の小隊長だったんだぜ? 」

「よ、よせよ! 」

 からかうような四季の言葉に、アマンダは顔を赤くして反論する。

「あらあら、そうだったんですか。あの、『ユキネエ』っていうのは渾名? 」

「雪野、って名前だからね」

 四季の言葉にレヴェッカは感心したように頷き、アマンダへ笑顔を向けた。

「ユキノ……、ユキって、snow? 」

「イエス。”Snow Field”、雪の野原」

「まあ、日本人の名前って素敵ねえ! 雪の野原、で雪野なのね! 」

 そこまで感心されると、却って馬鹿にされているみたいで、思わずアマンダはそっぽを向いてしまう。

「ベッキー、駄目だよ。雪姉ったら、極端なくらいの照れ屋さんだから」

 四季がますます調子に乗ったように口を挟むのに、レヴェッカはまるで四季の姉のように答えた。

「まあまあ、武官こそ駄目ですよ? こんな可愛らしい方をからかっちゃ」

 そして四季に向けたのと同じ、慈しむような穏やかな笑顔をアマンダにも向け、言葉を継いだ。

「コーヒーは武官に淹れてもらってくださいな。お茶請けに今日は美味しいシュークリームがあるんだけど、甘いのはお嫌いかしら? 」

「や、や……、んなことはねえ、です」

 嬉しそうにコクンと頷いてレヴェッカは、「失礼いたします! 」と姿勢を正して部屋を出た。

 ドアが閉まる音と同時に、はあーっ、と大袈裟な溜息を落として背を丸めたアマンダを見て、四季はあははと明るい笑い声を上げながら、彼女をソファに誘った。

「人が悪ぃよ、姐」

 思わず不貞腐れたような口調になったアマンダに、四季はまだクスクス笑いながら、サーバーからマグにコーヒーを注いできて、向かいに座った。

「なんでだよ、別に本当のことを言っただけじゃん? 」

「それよりさ、姐」

 煙草に火を付け、ふぅっと煙を天井に吹き上げてから、アマンダは部屋に入った瞬間から気になっていたことを口にした。

「イメチェンか? 」

「え? 」

 四季は、彼女らしくなく両手をわたわたと無意味に振り回し、同時に頬を赤くした。

 ミハランでは下ろしていた長い髪は、地球で再会した時にはどう言った心境の変化なのか、バレッタでアップに纏められていたのだが、今日は、ミハラン時代を思い出せるように、美しい紅茶色の髪が、さらさらと背中半ばまで下ろされていた。

 武官事務所に入った瞬間から途切れることなく感じ続けてきた『違和感~部隊や職場によって、風土とも呼べる雰囲気の違いがあることは当然理解していたが、それとは根本的に違う、まるで自分がそこに紛れ込んだ『異物』のように感じさせられる、いたたまれない空気~』が、四季の慌てる姿で決定的になったように、アマンダは感じた。

「や、その、ちょ、ちょっと、ね。たまには、ね? 」

「ね? って言われてもな」

 吐き捨てるようなアマンダの口調に、流石に四季は引っ掛かりを感じたようで、表情から笑みを消した刹那、武官室のドアがノックされた。

「マイヤーストン、入ります」

「おう」

 両手で持った大皿に盛られたシュークリームを、武官補佐官は、アマンダに向かって微笑みながら、テーブルへ置いた。

「ベッキー、ありがとう」

 四季の言葉にレヴェッカは微笑で応え、彼女は笑顔のままアマンダに向き直った。

「ユキノ……、あ、ユキノって呼んでもいいかしら? ユキノは昔から武官をご存じだったのよね? 」

 彼女が何を言いたいのか判らぬまま、アマンダがこくんと頷くと、花が綻んだような彼女の笑顔が、いっそう煌めいた。

「武官、絶対、髪を下した方が素敵だと思うの! このオフィスのメンバー全員が賛成してくれて、武官も漸く今日、リクエストに応えて下さったのよ。ねえ、どう思います? 」

「え? 」

 花弁はなびらがぽんぽんと飛び散っていそうな無邪気な笑顔を見ているうちに、アマンダは「ははん」と勘付いた。

”……このボンバーも姐のファン、いや……。姐のイメチェンもひょっとして……? ”

 以前から妙なところで少女趣味だと思っていたが、まさかそっち方面も素養があるとはと、先程の彼女の慌て振りと頬を染めた表情を思い出しながらそこまで考えて、何かしらさっき感じた『異物感』が、ますます増幅したような気がした。

「ん、ん。いや、ミハランのレンジャー時代も下ろしていたけど、懐かしい感じが」

「ねえ、素敵よねぇ。だけど、ユキノも黒髪がとても綺麗で素敵よ? ふたり揃ったら、ほんと、目の保養になるわぁ」

 どう答えていいのか判らずに戸惑っているアマンダを救ってくれたのは、四季だった。

 四季もまた、照れて戸惑っていたのだろう。

「はいはい、ベッキー、判った、判ったから! 」

 うふふ、ちょっと燥ぎすぎちゃった、ごめんなさいねと言いながらレヴェッカが退室して暫く、ぼんやりとドアのほうを見ていたアマンダだったが、やがて小さく溜息を吐くと四季に向き直った。 

「さて。先に用件を済ましちまおう」

 四季も、表情をビジネスモードに戻して頷いた。

「昔のツレの伝手もちょいと使って、横浜市内でウリの立ちそうなとこ、この2ヶ月近く回ってみた。具体的には、横浜駅西側、桜木町駅西側と東側のランドマーク辺、それに伊勢佐木町界隈に蓬莱町辺り、関内仲通りと桜通り、中華街は南門通りから元町の辺り、ああ、中華街でも山下町辺りは観光地だからそのテは少ねえ、それと山下公園通りの公園前一帯、後は外人墓地の周辺と港の見える丘公園のフランス山辺り……、と、こんなトコだな。時間帯は一番客の引きが多い2100時フタヒトマルマルから2300時フタサンマルマル、相手が本物の軍人かもってんで、シフト勤務の可能性も考え、各ポイントを月曜から金曜まで順に絨毯爆撃」

 報告メモも持ってきていたが、レンジャー時代に身についた戦術斥候のポジティブ・レポートの基本、『簡潔・明瞭・必要事項は詳細且つ客観的に定量的に』の教えのお蔭か、言葉はスラスラと口をつく。

「中略すっけど、アタシに声かけてきた猛者が全部で65人……、ああ、筋モンは除く、だ。ボコッたヤクザは18人……、っと、これも関係ねえな。とにかく、シロートさん65人のうち、リーマンが53人で残りは学生。例の『都市伝説』を知ってたのは40人」

 『確認した事実』の報告でいったん言葉を区切り、続いて『所感』に移る。

「で、不思議なのはここからなんだが」

 アマンダは煙草を口に咥え、火を吸い付けてから続けた。

「ネットやら口伝やらで噂を知ってるって奴もいたが、本人が実際に目撃した、もしくはツレが目撃したって奴が圧倒的だったよ。しかも、そいつらの目撃ポイントってのは、殆どが伊勢佐木から蓬莱町周辺だった」

 四季の感心している表情に満足して、アマンダは小さく微笑んで見せた。

「んで、目撃された軍人ってのが」

「そこまで判ったの? 」

 興奮した表情の四季を眼で抑え、頷いて見せる。

「髪はブルネットのセミストレートで、おそらく白人。瞳の色は判らねえ。つか、日本人は白人と言えば金髪碧眼、って先入観があっからさ。たぶんブルーとかグリーンとかに見えたとしても、ホントは黒か鳶色、ってとこだろうな。んで、服装は黒っぽいスーツ姿だったそうな。アタシはご覧の通りのワーキングカーキだったから、直接目撃した連中は揃って違和感があったらしい。ま、夜の路地裏だからアタシの肌の色とかまでは気が回らなかったようだが。あ、そうそう、連中に『ネクタイだったか? 』って訊ねたら、半数以上が『違ったように思う』、だとよ」

 万国共通で似ているネイビーの制服だが、黒もしくは黒に近い紺色系のダブルスーツに金ボタンに袖口に金筋数本というドレスブルーの女性制服で、UNDASNと米海軍に違いがあるとすれば、前者はネクタイ、後者はリボン、である。

「で、一番不思議な点で、不穏な点。直接ソイツを目撃し、勇敢にも声をかけた猛者が何人かいたが、誰もが相手にされなかった、また相手にされたって話を聞いたヤツは一人もいなかった」

「……てことは」

 四季がボソ、と呟くと、アマンダはその後を引き取って続けた。

「たぶん、姐が考えてるだろうことは正解だろうけど、まとめると、こうだ。1、ソイツは、伊勢佐木から蓬莱町あたりに出没する。2、但し、何曜日だとか定期的だとか、そこまでは誰も覚えてはいなかった。が、ウィークデーには違ぇねえ、リーマンは全員仕事帰りだったからな。3、ソイツはブルネットの白人女性。4、ソイツは少なくともドレスブルーに似た服を着てた。5、そのドレスブルーは、かなりの確率で米海軍と思われる。6、そして誰もがソイツが売春行為をしたところを見ていない、……ってところか」

 四季はアマンダの言葉を吟味するように、数秒眼を閉じて無言でいたが、やがて顔を上げて視線を向けた。

「雪姉の報告を総合すると、コイツは単なる『軍服コスプレイヤーの売春騒動』って線は消した方が良さそうだ。そうなると、可能性は例の」

「『NATO余剰武器の闇ルート流出』、オマケに米軍……、言い換えればCIA辺りが絡んでる」

 四季の言葉をアマンダは横から攫う。

「その可能性がぐんと濃くなった」

 頷くアマンダを見て、四季は急に不安げな表情を浮かべ、口を開いた。

「ねえ、雪姉。ありがとう。もうこれで充分……」

 アマンダは四季の言葉を遮るように、言葉を割り込ませた。

「今更なに言ってんだよ、姐? 」

「だって! 」

 思わず叫んで身を乗り出した四季に、アマンダがさっと手を伸ばして頬に優しく触れると、彼女は驚いたような表情を浮かべ、後に続く言葉を飲み込んだ。

「姐の言いてえことは判ってるよ。ありがとな」

 アマンダは微笑を浮かべ~漸く、自然に微笑む事ができた~、四季の頬に伸ばした右手を躊躇いがちにゆっくりと下ろした。

「……雪姉」

 何処までも優しく心配性な、この美しい上官に、キツイ態度をとっちまったな、とアマンダはここにきて初めて気付いた。

 どれほど自分は、僻んで捻くれて、拗ねまくっていたのだろう。


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