第38話 6-5.
午前中は何とか、表面上は平静を保てた。
その筈だと、アマンダは自分に言い聞かせた。
出勤してきた部下達が、イメチェンですかお洒落ですねえ髪がキレイお肌もツルツルなどとキャアキャア騒いでいた記憶はあるのだが、ろくすっぽ耳に入らず、生返事ばかりだった気がする。
仕事はきっちりしたつもりだったが、何人かの調達先企業の営業担当者からお加減でも悪いんですかと訊ねられたのは、ショックだった。
昼食時になっても食欲など湧く筈もなく、食堂へ誘ってくれたジャニスには申し訳なく思いながらも、振り切るようにしてオフィスを飛び出し、みなと大通りに面した横浜ドーム球場前の芝生に寝転がって煙草を吹かしていた。
落ち着こう。
ジャニスの言うとおり、覚悟を決めたら後はなるようになる筈。
そう自分に言い聞かせ、瞼を閉じる。
まだ夏の陽射しが残る10月初日の真昼は、薄明るいピンク色の闇に閉ざされる。
「ミハランじゃ……、こんなことすら出来なかったよなぁ……」
皮膚が焦げるかと思うほどの強い陽射し、いや、熱線と呼んだ方が相応しい、老齢の黒色矮星化寸前の巨大な太陽から届く光線が、大気を、惑星表面積に比して狭すぎる海を、地を山を、僅かな植物を、広大な砂漠を、そしてそこに張り付いた人々をゆっくりと焼き、全てをゆらめく陽炎の中に儚げな翳へと変えて取り込んでいく、静かな地獄。
あそこでアタシは、アイツと出逢い、ぶつかり、救われ、触れ合い、そして別れたんだ。
地球とミハラン以外にも、UNDASNに入って11年、転戦に次ぐ転戦、十指で足りぬ異郷の星で戦ってきた。
だけど今、こうして振り返ってみて、ミハランほど心に潤いと優しさを与えてくれた星があっただろうか?
ただ『生きている』だけの日々を重ねてきた自分にとって、唯一ミハランでの半年だけが、紛れもなく、『暮らしている』日々だった。
あの愛惜しい日々が、忘れられない。
いや。
忘れられないのは、ミハランの日々か? それともその日々を共に『暮らした』陽介なのか?
地球に戻った2年前、あの夏の日、陽介に代わる宝物をみつけたアタシは、ここでも『暮らして』いけるんだ、そう思った。
新たに見つけた宝物、『あの子達』は、陽介と同じように、アタシに救いの手を差し伸べ、優しさと眩しさ、気高さで優しく包んでくれたのだ。
だけど、夏が過ぎ、再び宝物と一時の別れを惜しみ、言いようのない淋しさと切なさを抱き、長い秋冬春を『生きる』しかないのかと吐息を零していたアタシに、再び救いの手を差し伸べてくれたのは、やはり陽介だったのだ。
ゆっくりと、芝生の上に起き上がる。
長くなった煙草の灰が、ポロリとスカートに上に落ちた。
宝物を失った夏の終わり、途方に暮れる自分に再び差し伸べられた、懐かしく、力強く、温かい手。
その手を握り返した結果が、どうなるかは判らない。
いや、判ってはいるのだ。
いずれ『再びの訣別』を迎えるであろう事は。
だが、判った上で、アイツの手が差し伸べられる事を待ち侘びていた自分がいる事もまた、確かなのだ。
だからこその、夏だけの宝物。
これからは、陽介がそれに代って微笑んでいてくれる。
その事実だけを胸に抱き締め、今日からはまた『暮らして』ゆける。
今日から始まる、人生の『夏』。
今は、それを喜ぼう。
覚悟は済ませた。
後は、刹那の喜びを、短い夏の訪れを、喜ぼう。
刹那主義と笑う奴は笑え。
人間なんていい加減な生き物は、刹那の記憶を抱いて、何十年だって歩いて往けるんだ。
知らぬうちに立ち上がり、アマンダの足はオフィスへと向かい始めていた。
戻ったものの、やっぱり落ち着かない。
席に座って書類や端末に目を落としても、意味のある情報は何一つ頭に入ってこようとはしない。
イライラして、席と喫煙コーナーを往復する事、この2時間で10数回。
調達業者窓口フロアのざわめきが、却って心を落ち着かせてくれる。
民間人で混雑する、まるで小さな地方銀行の店内のようなロビーを横切り、奥まったところに佇むパーティションで区切られた空きの商談コーナーへ向かった。
落ち着け覚悟は完了してる、後は野となれ山となれ、大丈夫どうせ陽介のやることだ、馬鹿みてぇにニコニコ笑ってやあ久し振り元気だったかと能天気に言うに決まってんだ、そこでアタシはクールにラフな敬礼をキメて一言、なんだテメエまた追いかけてきやがってひょっとしてストーカーか、と言い放つ。
うん。
完璧だ。
自然な再会。
これでアタシとあの間抜けは、ミハラン時代より少し大人の関係に。
そこまで考えて、浮ついた意識は一気に現実へと召還された。
裏口から聞こえる車のエンジン音。
カチャ、カツン、カチャとリズミカルな音が続くのは、裏口警衛のキヲツケ、ササゲツツ。
陽介だ。
思わず立ち上がる。
もちろん、ロビーの隅から裏の職員通用口等見える訳もない。
YSICへようこそ初めまして幹部全員2階のこの奥が業者受付701師団から警衛がもうアジア統括にはそうですね
ロビーのざわめきに混じって耳に届くのは、おそらく案内役の総務会計係長のネイティヴ・イングリッシュ。
声が聞きたい。
何の悩みもなさそうなノンビリした声、思わず肩を竦めてしまった怒鳴り声、真っ直ぐな心が伝わってくる真剣な声、自然な優しさに溢れた柔らかい声、聞いているだけで楽しくなる明るい声。
陽介の声が聞きたい。
耳元で囁かれたい。
彼が香る距離で。
声が聞きたい。
アタシはここ。
話をして。
今すぐ。
一歩、二歩。
夢遊病患者のようにふらふらと足を前に出したものの、思い直して、隠れるようにパーティションの内側へ駆け戻る。
こんなところで一体、何を言えるってんだ?
全員が揃ってるんだぞ?
まだだ、まだ。
もう少しだ。
陽介は逃げやしねえんだ。
そう。
「アタシも、逃げねえ」
覚悟は決めたんだ。
時計は
30分後には、陽介はセンター長室に姿を見せる。
アタシの背後、ガラス張りの部屋に。
「……もうすぐ」
振り返ってみれば、もうこの時既に、心の表面も奥底も、全て陽介一色に染まっていたのだろうと思う。
顔はAFLディスプレイに向かっていても、両手はキーボードに置かれていても、それは単に『執務室内で執務している一番自然な姿』を身に纏っただけで、目に映るもの耳に届くもの皮膚に感じるもの全てが、陽介のことだけだった。
「さあ、それじゃあお部屋へご案内いたします」
志保の声が、まるで敵のジャミングを受けた味方の基幹通信系の音声のように、妙に歪んで聞えてきた。
刹那、室内の音という音、全てが唐突にフェイド・アウトしてゆく。
電話のベル、端末の警告音、最低音量で流れる軍管区情報放送系通信、部下達の会話、ファクシミリの原稿搬送系のノイズ、コピーが紙を吐き出し続ける音、プリンタのファン動作音、歩き回る足音、椅子の軋む音、紙を捲る音、ペンが床へ落ちる音、防弾ガラスを通して微かに聞える、懐かしい街の騒音。
全ての音が一瞬にして消え去り、完全な静寂に包まれた。
続いて、その静寂の底に響く、自分の心臓の鼓動音が鮮やかに聴覚系を奪取する。
ドクン。
ドクン。
それは、自分が生きている証し。
数瞬の後、それは『暮らしていく』証しに変わる筈の、音。
愛惜しいそのリズミカルな鼓動は、ゆっくりと加速する。
まるで、何者かに追跡されているかのように。
やがて、鼓動が加速するにつれて、『追跡者』を示す音も響きだす。
徐々に加速を付け始めた鼓動音は、今や心臓を破壊しようとするかのような、凶悪なほどの速さで胸を、頭を、身体全体を締め付ける。
なのに『追跡者の音』は、冷静に一定のテンポを維持し続けているのだ。
陽介だ。
陽介の靴音だ。
くそ、なんであんな間抜けな野郎にアタシが追い詰められなきゃなんねえんだ?
悪態をついてみても、当然何の役にも立たず、勿論指一本動かす事が出来ない。
陽介が歩いてる。
総務との間に設置されたパーティションの向こう。
今、顔を上げれば、懐かしい、大好きな、少し恥かしくなるほど真っ直ぐな、むかっ腹のたつあの野郎の顔が拝めるってのに!
なのに、口を開く事も瞬きする事も息をする事すら、アタシの心臓の鼓動は許してくれないのだ。
ただ、机に顔を伏せ、追跡者を遣り過ごす事しかできない。
バタン。
鼓動音の隙間を縫って耳に届いた、センター長室のドアが閉まる音。
同時に、失っていた音という音が一気に蘇り、その騒々しさに思わず頭を抱えて蹲る。
「Fuck……! 」
猛烈に腹が立った。
くそったれ。
陽介てめえ、陽介の分際でアタシの頭ぁ押さえ付けるたあ、いい度胸だ。
口の中で呟いて、鉛の棒を突っ込まれたように重くて固い身体を、両手に渾身の力を込めて椅子から引き剥がす。
立ち上がった途端、噴き出して机に花をいくつも咲かせる汗を、第2乙の腕で横殴りに拭って、背後を振り返る。
ガラスの向こう、6mの距離を隔てて、『ヤツ』は居た。
ドアの影に隠れた誰かと、楽しそうになにやら喋っていた。
あの日の笑顔と一緒だった。
ミハランの砂漠から立ち昇る陽炎すら寄せ付けぬ、眩しい笑顔。
こっち向け。
その笑顔を、こっちへ向けろ。
その笑顔は、アタシんだ。
アタシは、だってお前をずっと、待っていたんだから。
アタシは、いつお前と出会ってもいいようにと、今日まで頑張ってきたんだから。
アタシは、お前と遂に再び出逢えなくても頑張れるようにと、その笑顔だけを胸に抱き締めて生きてきたんだから。
だから、誉めてよ。
アタシを誉めて。
こんなに頑張ってきたんだよ?
お願い、だからその笑顔を、頂戴。
もう限界なんだよ。
アタシの大好きな、あんたの笑顔を今すぐ頂戴。
もう、堪えられないんだ。
助けてよ。
餓鬼だって、笑っていいからさぁ。
アタシは餓鬼だ、まだ、あのミハランのまんまだ。
だから、助けて。
アンタはあの時、颯爽と現われて助けてくれたじゃないか。
いつも、アタシがピンチの時は、その大好きな笑顔で、温かい手を差し伸べてくれたじゃないか。
だから、助けて。
こっちを向いて。
笑顔を、頂戴。
そう願った、刹那。
陽介の驚いた表情が、視界一杯に広がった。
脂汗が滲む。
噛み締めた奥歯が軋む。
組んだ腕に、爪が食い込む。
目が霞む。
頭が痛い。
耳鳴りがする。
胸が苦しい。
早く、早くと心臓の鼓動が責める。
ゆっくりと陽介の顔が動く。
永遠とも思える時間が経過して、漸く陽介の視線を捉えた、そう思った刹那。
視界の全てが、柔らかく、優しく融けて、アタシの渇いた心の隅々まで染み渡った。
視界が潤んでいたって、はっきりと判る。
陽介が近づいて来る。
手を差し伸べようと、近づいてきてくれる。
また、陽介に助けてもらえる。
ガラスの向こう側で、陽介の唇が、アタシの名を模る。
ああ、声が聞きたいよ。
ゆっくりと、崩れそうになる脚にありったけの力を込めて、一歩、一歩、陽介に歩み寄る。
辛かったよ、陽介。
アンタなんかと、出逢わなけりゃ良かったと、本気で思った事もあったんだ。
所詮、アタシは夜の闇の底、腐った泥の中でのたくって死んでいく筈の人間だったのに。
アンタを知って、アンタの笑顔が眩しくて、アンタの差し伸べた手が温かくて、アンタの隣に立ちたくて、アタシはアンタの立つ明るい真昼の日向に憧れた。
どうしたって、届く筈なんてない事は判っていたのに。
どう足掻いたって、濁った空気と澱んだ闇の中を生きる智恵しか持っていないアタシなのに。
それでも、せめて夕闇にでも、立ちたくて。
せめて、手を伸ばせば、温かい空気に手が届くかもしれない朝焼けに立ちたくて。
日向に立って、優しく笑う、アンタの近くに佇んでいたくて。
辛かった、今日まで。
本当に、辛かったんだ。
でも。
それも、後、数歩。
もうすぐ、陽介?
アンタの立つ明るい世界だ。
一緒に並んで立っていたい。
一緒に並んで歩いてゆきたい。
だから。
陽介、お願い。
アマンダが伸ばした手は、陽介の目の前にある強化ガラスに当たって微かな音を立てた。
20kg近いBARを軽々と構え、強烈なリコイルをものともせずに自由自在に操っていた人間と同一人物とは思えない、華奢な肩、細く美しい腕、艶かしい繊細な指先、初対面でも感じた、真珠みたいに綺麗な爪。
そして何より、細かく震える形の良い唇、長く綺麗に揃った睫毛、輝く黒い瞳が、今はなんと切なげで、哀しげに煌いているのか。
「アマンダ……」
良かった、立派な士官になったな、随分と女らしくなったじゃないか。
言いたい言葉は空気を震わせる事もなく、ただ口を空しく開閉させるだけにとどまる。
意識の全ては、アマンダの哀しそうな瞳に心を絡め取られていたから。
そうだ。
ミハランの、あの兵站本部で向かい合った時と同じ瞳だ。
それに気付いた瞬間、陽介は思わずガラスの向こう、立ち竦む儚げな『少女』に手を差し伸べて、微笑んでいた。
ああ、陽介。
なに言ってんだ?
聞えねえ、聞えねえよっ!
もどかしかった。
陽介の微笑みが、差し伸べてくれた手が、懐かしくて、大好きだった優しさが、たった数ミリのガラスに隔てられているのが。
光でさえ数百年の時が必要な距離に隔てられていた2人が、同じ時を、数ミリの距離で共有できるところまで近付けたというのに、この薄っぺらで冷たいガラスの、なんという分厚さと残酷さ。
陽介、助けて!
今すぐアタシを攫って、逃げろ!
知らないうちに、右腕がガラスを殴りつけていた。
胸の中で想いが、言葉が弾けるたびに、渾身の力を込めてガラスを殴りつけていた。
パーティションのガラスは、外窓のような積層防弾ガラスではないが、万が一を考えて生板にポリカーボネイトフィルムをコーティングした、UL-752レベル2防弾基準をクリアしたもの、アタシが調達したんだから間違いはない。
素手で割れる程ヤワなものじゃない事は、僅かに残った理性で理解はしていたが、アタシの欲望はそんなもん認めねぇ。
もうちょっとなんだ。
大好きな陽介の笑顔まで、もう数ミリなんだ。
邪魔なんぞさせねえ。
誰にも、何にも、邪魔なんぞさせねえ。
だって、ほら、陽介が笑ってくれてる。
だって、ほら、陽介が手を差し伸べてくれている。
その笑顔はアタシのだ。
その手に救われるのは、アタシだ。
スイングバックの瞬間、拳に血が滲んでいるのがチラ、と見えた。
生きてるんだ、まだ助けてもらえるんだと判ったみたいで、嬉しかった。
表情に出たかも知れない。
懐かしいアマンダの微笑み、だった。
ほんの微かな、唇の端だけに現われる、本当に親しい数人にしか判らない彼女の表情を、数年ぶりの再会で見分ける事が出来て、陽介は自分で自分を褒めた。
嬉しかった。
刹那、2m四方はあろうかというガラス一面に細かな亀裂が走った。
砕けると思ったが、けっして瞼は閉じるまいと歯を食い縛った。
見届けろ、俺。
アマンダが、俺を呼んでいるんだ。
アマンダが、哀しんでいるんだ。
同じ過ちを、繰り返すな。
だから、目を閉じるな、顔を背けるな。
だが、予想に反してガラスは砕けず、数枚の大きな塊となって床にゆっくりと落ちる。
強化ガラスらしかった。
それを素手で叩き割ったアマンダのパンチ力に驚きはしたものの、あの拳が自分の顔に向かって飛んでくるのは2回目だな、という感慨の方が大きかった。
ポリカーボネイトにラミネートされたアマンダの拳が、失速したようにゆっくりと頬に当たる。
ペチ、と妙に間の抜けた音を立てた頬の感触に、アマンダの悲鳴を感じた。
拳越しに見るアマンダの表情は、ついさっき防弾ガラスを素手で叩き割った人物とは思えないほど、柔らかく、そして儚い。
頬に張り付いたままの拳を包むように掴み、ゆっくり手前へ引く。
予想以上に軽々と、アマンダはさっきまでガラスの嵌っていたサッシのフレームを潜り抜け、上半身を預けてきた。
アマンダが、自分の胸の中にいることが、こんなにも落ち着くとは思わなかった。
胸に抱かれた刹那、思った。
もう、これから先、アタシの人生は幸せなことしかないんだ、と。
「よう、相棒」
陽介の優しい囁きが、耳を擽り、心を震わせる。
「どうした、荒れてるのか? 」
ああ。
なんでそんなに優しいんだ、お前は?
いけねえ、クセになっちまう。
「でも、元気そうだな」
ありがとう。
助けてくれて、ありがとう。
アタシ、アンタを待ってたんだよ?
アンタの笑顔を見たくって、さあ?
アンタに助けて欲しくって、さあ?
そして、アンタは見事に期待に応えてくれた。
こんなに、嬉しいことはない。
溢れる想いは言葉にならず、堰き止め切れず涙となって頬へ溢れる。
馬鹿野郎、このトンチキめ。
言えないよ。
言える訳、ねえじゃねーか。
「遅ぇよ、馬鹿野郎」
漸く空気を震わせた言葉に、情けなくて涙が出る。
「どんだけ待たせりゃ気が済むんだテメエ? あン時から変わらねえトロさだぜ」
いいぞ、アタシ。
もう、いいんだ。
言いたいことを言えなくたって、言いたくないことに限って口が軽くなったって。
アタシは、笑顔を手に入れた。
アタシは、掌の温かさを取り戻した。
もう、この先、幸せなことしかないんだから。
そうだろ? 陽介。
陽介は、相変わらず律儀に、そして柔らかな笑みを浮かべて応える。
「すまんな、成長してなくて」
アタシは、アタシが手に入れた『お宝』をもう一度見たくて、ゆっくりと彼の胸から顔を上げる。
心より欲しいと望んだ『太陽』は、望んだ通りの、記憶通りの、明るい大好きな笑顔をアタシに見せてくれた。
アタシだけの太陽が、降り注ぐ煌きで目が眩みそうなアタシを、今度こそ本当にノックアウトした。
「俺に較べて、アマンダ。……お前は立派な士官になったなあ。嬉しいよ、俺」
ああ、嬉しいよ。
アタシも、死ぬほど嬉しいよ。
アンタは、本当にアタシの欲しい言葉を、欲しい時にくれるんだ。
アンタはアタシのヒーローだ。
アンアタはアタシの太陽だ。
「……当然だろ馬鹿」
こんなにグズグズな涙声だ、おそらく陽介には正確に届かなかっただろう。
でも、まあ、いいや?
待ち侘びたヒーローは、懐かしい砂漠の匂いがした。
気配を感じて振り返ると、ギャラリーが呆然として2人を取り巻いていた。
ここまでやってしまったら、いくらアマンダと雖も照れようも誤魔化しようもなく、陽介と顔を見合わせて俯くしか手がなかった。
ふと、気がつくとギャラリーの中に、微笑んでいるジャニスの姿をみつけた。
いつ用意したのか、黄色いスポーツタオルを持った手を小さく振って、可愛らしい唇を開いた。
『ドローだね。タイトル防衛おめでとう。タオル投げなくて良かったよ』
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