第36話 6-3.


 関内駅の改札口を出て、旧市役所庁舎の敷地に建てられた超高層のビジネスリゾートの華やかな庭園を通り抜け、陽介は先に立って歩くアマンダの美しい後姿を眺めながら歩くのが、日課だ。

 漸く昇った冬の柔らかな太陽の光が、一歩踏み出すたびに、彼女の美しい黒髪へ不思議な彩りを与えていく。

 しみじみと、アマンダに冠せられた二つ名、『美しき黒豹』とは、言いえて妙だと思う。

 陽介は、電車を降りるとすぐに仮面を着けなおし、けっして並んで歩かず、下らない会話などしようともしないアマンダの態度を、常々不満に思っていたけれど、それでも彼女の凛々しく美しい後ろ姿はとても気に入っていた。

 本物の元ヤンキー、横浜ハマの不良を一手に纏め、本職のヤクザ達とも堂々イーヴンの一勢力の頭を張っていたってのは本当らしいですよと、事情通の日本人古参下士官から聞かされたのはYSICへ着任してすぐだったが、こうして眺める彼女は、とてもそうとは思えなかった。

 いや、なにも外見だけの話ではない。

 正面から向き合うとクールで能面のように無表情な彼女が、けれど後姿で雄弁に物語る、儚さ、切なさ、哀しみの記憶、純粋な想い、誰よりも深く温かな優しさ、辛くともけっして瞳を逸らさない一途さ、そして敬虔さすら感じられる一種禁欲的と言っても良い、真摯な心。

 そんな、普段は背中でしか語らない彼女の言葉を、久々に真正面から聞いたのは、5ヶ月前のYSIC着任の日だったな、と、ふと思い出した。


 人前で陽介と笑い、語らい、ふざけあう事自体罪であるかのように、まるで自分ひとりで歩いているんだとでも言うように、改札を抜けるとすぐ、アマンダは陽介の前に出る。

 漸く動き始めた都会の雑踏の中、けれど決して陽介と一定以上の距離が開かぬように、背中から聞こえる彼の足音に神経を集中させながら、歩く。

 陽介の姿を、温かい笑顔を、優しさと真面目さの入り混じった、懐かしくさえ感じられる身体つきを、ドレスブルーが似合う理性と知性を纏った雰囲気を、そして何より、誰よりも大好きな彼を視界に収める事が出来ないのは残念だけれど、背中から響いてくる、彼の真摯さを具現化したような規則正しい足音を聞きながら歩けるこの境遇が、今は堪らなく幸せに感じられる。

 砂漠のあの星では、靴は砂に埋もれるばかりで決して聞くことの出来なかった彼の足音を、今は精神に安寧を齎してくれる、そして夢見る事を許してくれる彼の足音を、初めて耳にし、心震わせたのは5ヶ月前、彼のYSIC着任の日だったな、と、ふと思い出した。


 横浜調達情報センターYSICの最寄り駅は、JR関内駅だ。

 横浜駅が繁華街、桜木町駅が繁華街とベイエリアへの玄関なら、関内駅は官庁街への玄関である。

 もうひとつの顔は、中華街や馬車道、山下公園と言った観光地への玄関。

 もうひとつ、裏の顔もあって、それは蓬莱町、伊勢佐木町と言った歓楽街への玄関口なのだが、それは官庁街とは反対側、山の手側がそれに当たり、現在の陽介やアマンダには縁遠かった。

 歓楽街の反対側の駅前には、旧市役所庁舎跡地を利用したビジネスリゾートの超高層ビルがどっしり鎮座しており、そこから北東、つまり海側に向かって数本の大通りが並んでいる。

 北から順に、ベイエリアの南地区にある横浜国際センターへ通じる万国橋通り、歴史博物館やお洒落な佇まいの店や建物が並ぶ馬車道、ビジネス街の関内通り、そして関内桜通り、関内仲通りを経て、市役所から始まり日銀や県庁県警本部等が軒を連ねる官庁街のみなと大通り、横浜ドーム球場をスタート地点にした日本大通り、そして中華街の北の境界にあたる大桟橋通りは山下公園に突き当たる。

 どの通りも、ビジネスマンやアタッシェに混じり、観光客や外国人が目に付く、みなとみらい地区と並ぶ、観光都市横浜の中心街である。

 特に、日本最大の中華街を懐に抱えたこの周辺は、カジュアルルックの人影のうち、半数以上は中国系の人々であり、それがあるいはこの街最大の特徴かもしれなかった。

 そんな日本でも独特な香りを放つ街にあるYSICは、馬車道と関内通りの中間あたりにある、6階建ての中古の雑居ビルを買い取って、改築の上あてがわれていた。

 一見、何の変哲もない民間ビルであり、扱っている業務も実のところ商社と殆ど変わるところがないのだが、それでもやはり『軍事施設』には違いなく、それなりの機密保護設備やセキュリティ・システム、UNDASN管区基幹通信系を含む軍用通信設備、自家発電装置を含む緊急時設備も装備され、目立たないところには、最寄の701師団から警衛として常時1個分隊が派遣され、警備配置に就いていた。

 もちろん窓やドアに嵌ったガラスは全て、防弾ガラスだ。

 少し茶色がかった髪と抜けるような白い肌以外、一見日本人に見える志保・ジャクリーン・明石一等艦尉は、UNDASNの制服を着ていなければ、まるでモデルのような美しい日米ハーフで、実際、UNDA~国連地球防衛機構~から出向している文官である。

 陽介がYSICにセンター長として着任した日、2階会議室での係長会議でYSIC幹部職員との顔合わせを終えた後、彼女は総務班長として微笑みを絶やさずに、業務や勤務に関するあれこれを交えながら、1階から順にセンター内を案内してくれた。


「1階はご覧の通り、調達業者窓口ロビーです。窓口は番号カード制、銀行と一緒ですよね。調達条件問合せ、一般入札受付、指名入札受付、調達条件総括、調達情報問合せ、調達業者手続き総括……、そんなところかしら? 勿論、主流はネットワーク調達ですから、一番賑わうのは調達条件問合せや相談窓口、入札資格審判手続きや業者手続き交付くらい。あ、毎週水曜はカジュアルデーになってますから、1階勤務の者は『華美でない私服』が許可されてます。ええ、国連が去年から始めた『さわやか国際行政サービス運動』の一環ですね。実は、私達兵科以外の内勤職員も水曜はドサクサ紛れにカジュアルルックで通勤してますけどね。……あら? 新任センター長にこんな事言っちゃいけなかったかしら? 」

「2階は調達ミーティングルームと会議室、応接室。ここは1階から直通エレベータで業者とか民間人が立ち入りします。その奥は、書庫と倉庫、それに職員食堂。委託業者がやってるんですけど、土地柄中華がお奨めですね。五目焼きそばとモーニングサービスの中華粥セットが絶品です」

「3階から5階がオフィス。3階は1係から3係、4階は4係から6係。係毎にパーティションで仕切られてるから、すぐ判りますよね? 」

「そしてここ、5階の半分が7係8係と私のいる総務会計、それとセンター長室。残り半分が電算室と電通室になっています。この上、6階は警衛派遣隊の詰め所と武器庫に、宿泊施設。ここが一番、軍隊らしいかしら? 」

 1階から順に上層階へと進んできて、5階のエレベータホールで志保は立ち止まり、ニコニコと綺麗な笑顔を見せた。

「向井三佐はどちらのご出身ですか? 私は父が日本人なんですが、ずっと母の故郷のボストンで過ごして来て、高校の時、父親の転勤で大阪に出たから、そのまま阪大経済学部に入って国連職員になったんです。UNDASN出向って言われた時は辞めちゃおうか、とか思ったけど……。今じゃあ結構、馴染んじゃったかな? 第1種軍装も悪くないですしね。アジア統括センター長の蘭崎さん、もう会われました? あの方みたいに、兵科転籍にチャレンジしてみようかな、なんて最近。……ま、アタマ悪いし運動苦手だから無理ですけどね」

「サブマリナー? うわあ、カッコイイッ! ……って言ったら怒ります? ……だって、私達みたいな宇宙にも出た事のない一般人には正直、まるで映画の世界ですもんね。……あ、怒ってないです? よかったあ! ……あの、またいつか、宇宙のお話、聞かせてもらえませんか? 」


 最初は、初対面でも物怖じする事なく話し掛けてくる志保に陽介は面食らってしまったが、やがて彼女の自然な接し方や話し振り、そして上品さを失わない適度なラフさに、何時の間にか気持ちがリラックスしているのに気が付いた。

 振り返ってみれば、シャバの一般人女性と会話を交わすのは久し振りの体験だった。

 もちろん、休暇などで内地へ帰り、学生時代の友人や親戚達と街へ繰り出すことはあったけれど、ナンパなどには興味はなかったし、ましてや逆ナンパなどされたこともなく、結局親しく接した女性はと言えば、殆どがUNDASNの人間であり、またそれが皆、一癖も二癖もある女性が多かったように思う。

 それに比べれば、目の前で微笑を浮かべている志保は、制服こそUNDASNの将校と一緒だが、中身はまるっきりの一般人だ。

 彼女からすれば、単に物珍しいだけなのかも知れなかったが、それでも、彼女なりに気を遣ってくれているのは理解できたし、だから陽介も気楽に接することが出来た。

 ただ、彼女の話は、変な言い方だが『あまりにも話題が一般人』的に過ぎて、陽介は少々辟易としたのは確かな事実だったが。

「さあ、それではお部屋へご案内いたします」

 志保の言葉に現実に引き戻され、陽介は少し顔を引き締めオフィス内に足を入れた。

 さっと見渡すと、フロアの窓際、一番奥の右手にガラス張りの個室があった。

 そこが今日からの陽介の部屋、センター長室のようだ。

 センター長室のドアの前には、志保が率いる総務会計係のデスクの列で、これは総務がセンター長の秘書業務もこなす為だから当然の配置だろう。

 ガラス張りの前、位置的には総務会計の左隣で、ガラスの壁を隔てた陽介のデスクの前に並んでいる調達7係のデスクが3列、その左、8係が2列。

 各係の間は肩の高さ程のパーティションで仕切られているが、各列の窓際、島の先頭に皆を向いて座る係長席の背後にはパーティションはない。

 フロアの左半分はパーティションではなく、別の個室になっており、そこが電算室や電通室なのだろう。

 ちなみに調達1係は艦船関係の調達。YSICでは石川島播磨や川崎重工、日立造船、浦賀ドッグが主要な管轄だ。

 調達2係は車輌・航空機関係。ここでは航空機の扱い実績はなく、日産や小松、三菱、日立建機等が取引相手となる車輌調達が主である。

 調達3係は大型兵装。東芝や川重、日電の誘導兵装や、東芝小向工場、横浜工場の波動エンジン、縮退炉関係が殆ど。

 調達4係は土地建物施設。これは東日本地区の商社や土木建設のゼネコン全般が相手である。

 調達5係は電装電通。これも、東日本地区にある東芝三菱沖富士通等の電機メーカーを管轄とする。

 調達6係は爆薬弾薬弾丸弾頭関係。ここYSICでの実質調達実績は少なく、伊藤忠や丸紅、三井物産と言った数社の商社だけで、人数も少ない。

 調達7係は主計。実はこれが一番管轄が手広く、人数も最大で、管轄地域も関東東海中部北陸と広い。糧食や被服等、武器通信機以外の装備の他、エネルギー資源関係、果ては書籍文具生活用品消耗品設備什器から趣味の小物まで、PXで売っているもの全般。挙句の果てに福利厚生関係まで受け持たされている。

 調達8係は医療機器医薬品関係。これは静岡、山梨に生産拠点を持つテルモの他、関東地区の医療機器メーカー数社。医薬品は殆ど商社経由である。

 本部機構には9番目の担当としてマンパワー手配やサービス業手配があるのだが、こちらは統括センター直轄であり、地方の事務センターでは取り扱わない。

「前任の香坂三佐は、冥王星へ異動との事で昨日離任されましたから、部屋は私が片付けておきました。なにか足りないものがあれば仰って下さい」

「すまんな、ありがとう」

 陽介は、総務会計班のパーティション内を通ってセンター長室に入った。

「ええと、本日は午後7……、失礼、1900時ヒトキューマルマルより中華街の『富貴婁』で幹部主催の歓迎会が予定されています。30分程前にお迎えに上がります」

 志保は携帯端末を見ながらそう言って、ぎこちない手つきで敬礼した。

「それでは、他になにもなければ」

「下がってよろしい」

「アイアイサー」

 陽介の答礼を待って手を下ろした後、照れ臭そうな笑みを浮かべる。

「この『アイアイサー』とか、日時の読み方なんかも、照れ臭いですよね、何遍言っても」

 陽介も柔らかく微笑みながら言ってやる。

「別に、軍隊用語に拘らなくてもいいよ、普通の言葉で。了解、とかイエッサー、とか、さ? 」

 こくん、と子供のように頷いて志保は小さな声で言った。

「ありがとうございます。でも、向井三佐って……」

「なに? 」

「お優しくって、なんだか軍人っぽくありませんね? 」

 言ってから、陽介の苦笑に気付き、慌てて言葉を継ぐ。

「や、す、すいません! 別に悪口のつもりじゃ……」

「ははは、よく言われるんだ。いいよいいよ、怒ってないから」

 そして短い吐息を吐いて、柔らかい口調で言った。

「いや、昔ちょっとした偶然で陸上部隊にいたことがあったんだけど、そこで叩き上げの下士官にもそんなこと言われたなあ、って思い出して、ね……」

 そして少し悪戯っぽい口調に変える。

「徹底的にしごかれたもんだけど、そうか、総務~艦隊マークでは、任官直後の初級幹部を職名で呼ぶ事が多い~にもそう見えるか」

「……私のは、誉め言葉ですよ? 」

「そう言うことにしておこう」

 志保は、不満げになにか言いかけたが、やがて、無言で一礼して退室した。

 陽介は、志保が退室した後、ゆっくりと端末から顔を上げてドアに視線を向ける。

 志保との会話が切っ掛けで、不意に思い出した、アマンダのこと。

 一緒に過ごしたのは地球時間で半年足らずの間だったが、これまでで一番インパクトのある『相方バディ』だったと、改めて思う。

 いや、相方に限らず、これまで出逢った人間の中でも、一番かも知れない。

 ミハランを出て雪潮に戻った後、SS123灘潮なだしお、SS004シーバット等を経てSS033うしおの航海長を最後に、防衛大学コペンハーゲン校に入学。

 そこで、専攻こそ『艦隊作戦幕僚過程』だったけれど、副課で『輸送補給作戦幕僚課程』を選択したのも、アマンダと出逢ったミハランでの経験の影響が小さくなかったのだろう。

 防大卒業後、艦隊に戻って暫く後に、調達実施本部へ配属されたのも、その副課選択の流れだったとすれば、色々な意味でミハランの出来事は、自分の人生に少なからず影響を与えているのだ。

「元気かな、アマンダ……。そう言えば、俺がミハランを出るとき、幹部候補選抜試験、2次まで通ってると言ってたが」

 立派な士官になれただろうか? 

 ふと考えて、『立派な士官』とアマンダのイメージが、ひどく懸け離れている事に気付いて苦笑する。

 別に、アマンダの資質や能力を危ぶんでいる訳ではなかった。

 ただ、一言で言えば『猫のような彼女~言い得て妙だ、と自画自賛する~』と、スクエアさが必要な士官とのイメージのギャップに、今更ながら気付いただけの事だった。

 その意味で、『軍人らしくない』と陽介を評した志保の言葉は、アマンダの事を思うと、やはり誉められているようで悪い気はしなかった。

「軍人らしく、仕事にかかるか」

 呟いて、会議で渡された分厚い資料が挟まったフォルダを開いた。

 冒頭に、横浜センターの人員一覧と幹部の職務経歴書。

「そう言えば、さっきの会議、7係長が来客で欠席だったな」

 7係と言えばこのフロアだ、もし7係長が来客対応を終えて席に戻っているのならば、呼んでもいいな。

 刹那。

 ふと、誰かの視線を感じた。

 何故だか、背筋がゾクリとした。

 嫌な予感? 

 いや、違う。

 どちらかと言うと、運命を感じさせるような、奇跡の現出を感じさせるような、そんな信じ難さが身体を震わせる。

 下手に振り向くと、見っとも無く取り乱してしまいそうに思えて、軽く数度、深呼吸。

 それから漸く、ゆっくりとドアから視線を外し、ガラスの方へ顔を向ける。

 陽介の視線が、ある1箇所で、静止した。

 自分の目に映るそれが、なかなか信用できなかった。

 矛盾するけれど、数秒前の予感が正しかった事が誇らしく思えた。

 ガラスの向こう、7係の係長用デスクに軽く寄り掛かり、豊満な胸の前で腕を組んだ、恐ろしくスタイルの良い美人が、自分の部下達に背を向けて、じっとこちらをみつめていた。

 意思を持った生き物のように美しくうねる豊かな黒髪は、窓から射す秋の柔らかな陽光を受けて、幾重にも幻想的な天使の輪を浮かび上がらせている。

 思い切り良く掻き上げられた前髪の下、カフェオレ色の肌が覗く。

 ほんのり頬が染まっているように思えるのは、陽光を受けているから……、それだけか? 

 その正体が、髪同様に健康的な張りのある素肌から迸る、生命の輝きだとすれば? 

 そうだ、その方がいかにも彼女らしく思える。

 そうなのだ。

 俺は、知っている。

 黒豹にも譬えられる、獰猛な力強さを持っていながら、しなやかで、気品があり、美しく、猫族の持つ小悪魔的な色気と自覚のない媚とを備え持つ、この女性を。

 いや、ただ知っているだけではない。

 陽介は、漸く自分の胸の奥底で燻り続けていた焦燥の正体を、そしてさっき身体を震わせた『奇跡』の持つ真の価値を思い知った。

 俺はこの女性を、今の今まで、ミハランを去った瞬間から、ずっと、ずっと探し続けてきたのではなかったのか。

 敵艦にアンダーハリングして76時間が経過、爆発寸前まで高まった緊張感に包まれた潜空艦の発令所のモニタの隅。

 防衛大学の中庭、コペンハーゲンの短い夏の始まりを告げる色とりどりの薔薇を楽しむ人々の中。

 敵前上陸中の強襲揚陸艦の揚陸指揮艦橋から眺める、弾雨の中敵陣目掛けて突っ込んでいく兵達の後姿の影。

 幾多の戦いを潜り抜けてなんとか命永らえ、束の間の休息を与えられて入港した母港の岸壁に群がる人々の中。

 艦内食堂、ブリーフィングルーム、輸送VTOL、機関室、航海艦橋、CDC、私室、夢の中。

 ありとあらゆるところで、俺は、いつだって彼女のしなやかな後姿を探していたのではなかったか。

 再び、痛いほどに鋭い視線を眉間に感じ、陽介の意識はガラスの向こうへと絡め取られた。

 理性を感じさせる形の良い薄い唇が震えているのが、ガラス越しにもはっきりと判る。

 切れ長の目、濡れた瞳がキラリと煌めいた。

「アマン……、ダ……? 」

 何かに憑かれたように、陽介はフラと立ち上がり、ガラスへゆっくりと近付いた。


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