第42話


 夜明け前のこと。


 ちぎったパンをヨーグルトに付けて口につめ込んでおるアンドラーシュを、つかまえた。出発を明日に控えてであった。彼は、このところ、夜明けと共に自身の天幕を出ると夜まで戻って来なかった。出征準備の監督に忙しかったのである。


 そして、父上が貴方を憶えておらぬと言っておったことを教えた。アンドラーシュが憶えてもらえておると想い込んで赴いて、それで父上との関係がギクシャクしても、と想ったのである。


 すると笑いながらの答えが返って来た。


「公爵にそなたへの恋心がバレぬことを願って、できるだけ近くに寄らぬようにしておったのだ」


(想わぬ答え。でも、それなら)


「それを父上に告げていただけたら、父上は大喜びするわ」


「ハハ・・・・・・。それはなかなか恥ずかしいな」


「約束して」


「分かったよ。そなたの頼みだ」


 もし、それを告げてくれたなら、父上もアンドラーシュを望ましき婿むことして、受け入れてくれるのではないかと想ったのである。


 そもそも、これは王太子側に追い込まれての――ならば、ということでの一発逆転を狙った――半ば賭けにも等しき行いであった。そこには、当然、私には何の恋心も無かった。父上もこれを政略結婚とのみ考えたはずである。


 ただアンドラーシュのエリザベトへの初心うぶで純真な恋情を知ったならば

――デレデレどころか、エリザベトを溺愛する父上なら、きっと喜んでくれよう・・・・・・。

――そして、その心の内を知ることのできぬエリザベトもまた、この恋を受け入れてくれるのではないか・・・・・・。


それは、私の恋心が――叩き起こされた寝た子の如くの私の恋心が望み願うことであった。


(後書きです。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。本話で第3章は終了です。


 第1部最終章のタイトルは、本作のもう一人の主人公に捧げる意も込めて「エリザベト」となります。エリザベトの記憶が無い謎は、本章にて明らかにされます。引き続きお楽しみいただければ、と想います。


 また、本作はカクヨムコン8に応募中です。現在(2月7日まで)読者選考期間中であり、評価(お星様)、作品フォローをしていただけると、とても嬉しいですし、励みにもなります。応援よろしくお願いいたします。読み専さんも、よろしくお願いいたします)

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