第193話 ダンジョンの中で繋ぐ札を使ってみた

 ダンジョンの中と、岡山のクランハウスを繋ぐことが出来るのだろうかという疑問はあった。実際にお風呂のドアに繋ぐ札を貼った後にドアを開ければ、ドアの向こう側は真っ暗だった。


「これは繋がっているんだろうか?」

「リーダー、ヘルメットを被れば分かると思うっす」


 この時間にはクランハウスには誰もいないから、部屋が真っ暗なのも分かるが、こちらの光は届かないようだ。今まで考えもしなかったが、見えているのにこちらの光が届かないという事は、お風呂のドアとクランハウスの小さな部屋のドアはどのように繋がっているんだろうか?


 僕が考えても分かる筈もない。ヘルメットを被りドアの向こうを見ても真っ暗なままだ。思い切って暗闇の中へ、つまりドアの向こう側へと頭を突っ込んでみた。


「クランハウスの小さな部屋にちゃんと繋がっているぞ。ダンジョンの中と外が繋がってしまったよ」


 確認した後に、ドアをくぐってみた。間違いなく見慣れた部屋に出た。ライトのスイッチを入れて部屋を明るくする。ヘルメットを被ったままだと変な人になってしまうので、明るくなるとすぐにヘルメットは収納しておく。皆もゾロゾロとドアをくぐって来る。


「出来る気はしてたっすけど、やっぱり繋ぐ札は凄いっすね。これからはいつでも岡山に帰って来れるっすよ」

「えっ、ここは岡山の《花鳥風月》のクランハウスなのか?一体どういうことなんだ?」


 当然のように《Black-Red ワルキューレ》の四人は良く理解できていないようだ。取りあえず、狭い部屋なので元の携帯ハウスへと皆で戻る。真姫の助言により、クランハウスの電気は切っておいた。僕達が帰っていることがクラン関係者以外にばれたら大変なことになるという助言だ。


「麟瞳、今のはどういうことや?何でダンジョンの中と、アンタんとこのクランハウスが行き来出来るや?」

「ええっとですね、さっきドアに貼ったお札は繋ぐ札というマジックアイテムで、二枚のお札を貼ったドア同士が繋がるんです。まさかダンジョンの中のドアと繋がってくれるとは、嬉しい限りです。これでどんなに探索期間が長くなっても、食料問題はなくなったといって良いと思います」


 驚いている四人はおいといて、《花鳥風月》のメンバーで話し合わなくてはならない。リビングに集まり僕が思っていることを皆に聞いてみる。


「先ほど真姫が指摘した通り、福岡ダンジョンに居る筈の僕達が、クランハウスに居るのがばれたら大変なことになりそうだ。でも、クランメンバーの親御さんには、娘に会わせてあげたいんだよね。何か良い案はないだろうか?」

「リーダー、京都の時は普通に使っていたぜ、それと同じじゃダメなのか?」

「今は探索者省と揉めたこともあるし、京都の時よりも慎重になった方が良いと思うんだ。多分真姫もそう思ったから、さっきの助言をしてくれたんだと思う」

「そうね、ダンジョンへの立入禁止を言われるかもしれないのよ、いま探索者省の人と会うのはやめておいた方が良いと思うわ」

「ああ、その立入禁止はないそうだ。あの藤林という人が独断で言ってたらしい。さっき美紅さんが教えてくれたよ。でも、どこで見られているか分からないから、慎重にしておかないとダメだと思うんだ」

「リーダー、京都の時とはかなり違うと思います。私達はダンジョンの入場手続きをして福岡ダンジョンに入ったまま、退場の手続きをせずに岡山に帰ってきています。これはばれたらやばいと思います」


 なるほど、京都では拠点の家から岡山に行き来していたから、ダンジョンからは買取りの時に退場の手続きを毎回していたが、今回はダンジョンの中の携帯ハウスと岡山を行き来するので違いがあるのか。本当にばれたら大変なことになりそうだ。


「クランハウスからは絶対に出ないようにするだけではダメなんですか?」


 どうなんだろう、遥が言ってくれたように、クランハウスから出なければ大丈夫だろうか?


「窓から姿を見られたらダメっすか?遮光カーテンで窓を覆えばバレないっすかね」

「ちょっと良いだろうか。先ほどから話を聞いていたが、確かに無断でダンジョンから出るのは問題にされるかもしれしれない。だが、無断でなければ、もしも見つかっても良いのではないか」


 ん、美紅さんが言うような、無断でなくダンジョンを出るって出来るのだろうか?

 

「美紅さん、僕には良く分かりませんが、そんなことが可能なんですか?」

「探索者協会が、私達に何か償いができないかと言ってきていたことを使えば良いと考えている。麟瞳さんが親しそうにしていた岡山ダンジョンの支部長に相談して、《花鳥風月》のクランハウスで入退場の手続きをしてもらうのは可能だと思う。多少の無理なら探索者協会は聞いてくれる筈だ。探索者省にはマジックアイテムの情報と同じように、上層部の限られた人にしか情報を流さないようにしてもらえば大丈夫だろう。手続きさえしておけば、マジックアイテムの使用でとやかく言われることはないだろう。それにこのマジックアイテムは、ダンジョンの探索でかなり大きなアドバンテージになるぞ。《Black-Red ワルキューレ》のクランハウスも隣に建てたいぐらいだ。土地は余ってないのか?」


 美紅さん、いきなりそこまで思考が飛躍しますか?でも、中里さんは信用しているので、一度相談してみるのもありかもね。ビクビクしながらダンジョンとクランハウスを行き来するのは、精神的にしんどいかもしれない。ただ繋ぐ札の情報を知る人は少ないほど良いと思うんだ。


「繋ぐ札の存在がばれたらやばくないですか?」

「確かにそうかもしれないが、使わないという選択肢はないだろう。繋ぐ札は二枚ないと使い物にならないようだし、一方の札は常に麟瞳さんの収納に入れるようにすれば良いと思う。君達なら、誰が奪いにきても負けないだろう。何なら、もしもの時は私と世那も協力するよ」

「家族とかを人質に取られるとかないですか?」

「ドラマみたいだな。そこまで考えるなら、もう使わないほうが良いと思う。隠し通すことは至難の業だ、どこかでばれることは想定しておくべきだ。何も悪いことはしていないんだ、コソコソする必要はないと思うけどな」


 美紅さんの言う通りなのかもしれないが、何だが怖いんだよね。取りあえず、明日中里さんに相談することにした。美紅さんが一緒に交渉してくれるそうだ。パーティを組んだ僕達六人は一緒に行動した方が良いだろうということで、岡山のクランハウスに全員で戻る。世那さんと森崎さんは、予定通り福岡ダンジョンで指導をしてくれるそうだ。


 明日に向けて寝るとしよう。熟睡のパジャマと安眠4点セットを装着して眠りについた。

 

 










 

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最弱ユニークギフト所持者の僕が最強のダンジョン探索者になるまでのお話 亘善 @WATARIZEN999

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