花と小鳥

メジロ

 さくらがさいた。

 さくらの木の下には死体がうまってるって聞いたけど、たぶんここにはうまっていない。

 みどりのあみあみにかこまれているし、じめんはすごくたいらだし、いつも人がいるから。


 みどりのあみあみの向こうでは、ランドセルをせおった小さい人たちがたくさん歩いていて、僕はなに色のランドセルをもらうよていだったんだっけと考える。

 小さい人がこっちに向かってくるかんじがしたから、そっとにげた。たぶん、バレた。けど追いかけてこなかった。

 わかんなかった。僕は何色にしたんだっけ。

今ランドセルの色をきめるなら……好きな色がわからなくなってしまった。でも、さくらはきれいだと思ったから、あんな色がいいかもしれない。



うすいうすい血の色



きょうがやっとおわる。

暗くて細いみち、大きな人がねてたから食べた。

この人のふくは大きくて、着るのはやめた。けど、たくさん何かがかいてある小さいノートと、ボールペンをもらった。

ふくはおふとんのかわりにした。あったかくない。


 

 さくらがヒラヒラおちてくる。僕はきのうと同じところから、さくらと小さい人たちを見てた。

きゃーきゃーうるさい。バタバタはしってあそんでる。ヒラヒラしてる花びらを、つかまえようとしてるみたい。

小さい人たちは、どこかへ歩いていった。

あんなに一ぱいいたのに、いつの間にかだれもいない。

 あれ、いた。大きな人が、きのうの人ににてる。

こっちに来る。僕を見てる。逃げようと思ったけど、逃げなくてもいい気もした。

「中で見てもいいよ。桜、きれいでしょう?桜好き?」

びっくりして、うん、と言うのがやっとだった。

大きな人は、僕を見下ろしてわらった。

「私も、花は桜が一番好き。おいで。」

僕は、付いて行こうとおもってなかったのに、いつのまにかあとを歩いてた。

あみあみの中に入って行った。


 大きな人は、さくらの木の下についたらしゃがんだ。かおが僕の目のまえにある。そして小さい声で

「メジロも居るね、ほらあそこ。」

といった。

「めじろ?」

と聞くと、

「あそこの枝に、緑の鳥がいるでしょう?目の周りだけ白いんだ。だからメジロ。」

とこたえた。

「スズメもいるよ。小さくて可愛いね。」


 スズメは、さくらをぶちぶちちぎって、ぼとぼとじめんにおとしていく。さくらがすきだと言ってたのに、この人はニコニコしてスズメをみている。

 スズメはぴょんぴょんいどうして、どんどんさくらをちぎる。

「なんでちぎるの?スズメはさくらがきらいなの?」

大きな人はあしをバキバキならしながら立った。

いてて、と小さいこえで言ったあと、

「スズメはくちばしが太いから、花の蜜を食べるにはああするしかないんだよ。メジロはくちばしを花に埋めて、舌を伸ばして舐められるらしいんだけどね。」

とこたえた。たのしそうだなと思った。

「私は昨年度から、この小学校の校長先生をやっているんだよ。趣味はバードウォッチング。とはいえ、これも昨年からはじめた趣味なんだけど。」

きいてないのにこんなにいろいろしゃべる人ははじめてだと思った。僕は、この人はおなかがすいてるときに会いたくないと思った。

 つよい風が来て、鳥がとんでいってしまった。

「下校時刻、子供たちが帰る時間は大抵こうして校庭にいるから、またお話しよう。君はすごく謎めいているけど、私の話を真剣に聞いてくれる優しい子だ。君の事情はわからないけど、なにか私が教えられることがあれば教えるよ。これでも先生だからね。またお話しよう。」

僕は何を言われたのかあんまりわからなかったけど、たぶん、いい人なんだなと思った。


今日はあんまりおなかがすかなかった。昨日の大きな人、今日お話した人ににている人からもらったおかしを食べた。チョコが3つ。ちょっとたりなかった。

ねむくて歩いてたら、ねこちゃんがいた。‎僕を見てたけど、ゆっくり歩きだしたからおいかける。草がぺちゃんこになってるところを見つけて、ねこちゃんとならんでねむった。

おきたらねこちゃんはいなかった。




川。きらきらしてる。このまえ、ねてた大きな人からもらった小さいノートをひらいたら、小さいじがたくさん。よくわからなかった。ノートをとじた。ボールペンはいつのまにかどっかにいってしまった。

人が、歩くじかんになった。こつこつ、とことこ音を立てて川のむこうを人が右から左へ、左から右へ。僕はぼーっとみてる。

きのうのねこちゃんがちかよってきた。さわろうとしたらちょっとだけ逃げたので、あきらめて草であそんでた。


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桜と小鳥 しんえん君 @shinokunn

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