2022/12/25 【アクロポリス】
クリスマスの日だと言うのに仕事だ。そう思っていた時期が懐かしく思える。今年はたまたま日曜日だから世間も賑やかでいつも以上に盛り上がりを感じる。そうなると自分の店も繁盛するし、なにより楽しんでいるみんなの顔をたくさんみることが出来る。サンタさんは来ないけれどそれがあればクリスマスの仕事ほど心地良いものはない。
だからと言って公彦から見てもボードゲームを買い与え過ぎだ。このままだとボードゲームカフェを開けてしまう。そう言ってセカンドダイスに来ることを勧めたのだけれどまさか毎日のように来てはひとりで遊ぶようになるとは思わなかった。
小学生を気軽に相席を勧めるわけにもいかない。どうしようかと悩んでいたところにちょっとだけ暇そうな
でもまあ、まさかこんなに意気投合するなんて思いもしなかったなぁ。まさか
だからなのかもしれないな。
やたらと貴子ちゃんが気になってしまうのだ。それは
いや、それは考えてはいけない。あくまでも自分が選んだ人生だ。ダイスを振り直した結果だとしてもそれは受け入れなくてはならない。だからこそのセカンドダイスだし、ここを拠り所としてくれているみんなが子どもみたいなものだ。
あんまり深く考えすぎてもいけない。気を逸らすために今日届いたばかりのボードゲームの箱を開ける。アクロポリスと書かれた箱は神殿のような柱が描かれており、ちょっと上の視点から街を見下ろしている。街は古代のといった印象が強く、神秘的なものを感じられる。
開けた箱の中にはタイルがいくつも入っている。六角形を三つくっつけたものがほとんどだ。このタイルを横につなげて街を繋げて得点を目指すゲームらしいというのは前情報で知ってはいる。だからといって、実際遊んでみないとわからい部分はたくさんある。仕事柄、情報はたくさん集めるのだけれど全部を遊んでみることはできない。みんなが遊んでいるのを見ることはたくさんあるので自然とルールは覚えていくがプレイ感だけは昔に比べて鈍ったなと思う。
四六時中、ゲームで遊んでいた。その頃の仲間のひとりが圭佑さんだったりもする。あの人はきっとボドゲカフェの店長なんかよりもずっとボードゲームに詳しかったりするのだ。
ピロンッ。
スマホが軽い音を出してお知らせしてくるのはバイトのとしくんからの連絡だ。
『なんとか乗り切ったので今からお店に戻ります』
ちょっと真面目すぎて頼りないところがあったとしくんがすっかり見違えてしまった。それもここ一ヶ月でだ。男子三日会わざれば刮目してみよと言うけれど驚くくらい頼もしくなった。春ちゃんがイベントに行けなくなったと聞いたときはどうなるものかとひやひやしたものだ。それがひとりきりで乗り切ったというのだから大したものだ。
これも恋の力なのかねぇ。
本人に自覚はないようだけれど
手助けをしたいわけではないのだが、どうなるかは楽しみのひとつではある。できれば今日もふたりっきりにしてあげたいものだ。
「店長ー。なんですかその面白そうなボードゲーム」
お客さんが目ざとく開けたばかりのアクロポリスを見つけてくる。ルールの把握はインストをしながら一緒に覚えればいいか。ある種の諦めを覚えつつセカンドダイスに加わったばかりの新しい世界を手にテーブルへと向かう。
今年のクリスマスも仕事だけれどそれが心地よい。きっと来年も再来年もそれが続けばいいなと思う。そのうちきっとサンタさんが来てくれることもあるだろう。
「なんか店長ってサンタさんみたいだよね」
お客さんのひとりからそう声を掛けられる。袋には入れていないがボードゲームの箱を持っているその姿は気になり始めた腹回りも相まってそう見えるのかもしれない。
まあ、それも悪くないかもしれない。ちょっとだけ恥ずかしいけれどプレゼントをみんなに届けられているのであれば、やっぱり自分のセカンドダイスの選択は悪くなかったのだと。そう思えるのだ。
セカンドダイスの日常 アドベンドカレンダー2022 霜月かつろう @shimotuki_katuro
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