267.インタビューというより、これは尋問と言う方が正しいと思う。

インタビューというより、これは尋問と言う方が正しいと思う。

私と正臣は…ではなく、私は今、都市伝説研究会…と言う名の漫画研究部の人達の視線を一身に浴びて、引き笑いを浮かべていた。


「エイプリルフールってさ、午前中は嘘をついて午後にネタ晴らしっていうでしょ?」

「そうですね」

「でも、このアカウントの呟きはついさっきでさ。それって嘘じゃない!って事でしょ?」

「そうですけど…これ、所詮はSNSの呟きでしょう?」

「そうだけど!!入舸さん、見かける度に不思議な雰囲気があるなぁって思ってたのよ」

「……雰囲気だけって事には…」

「ならないわ!現に今、強く否定していないじゃないの」


鼻息を荒くした花角先輩に詰め寄られる私。

正臣にヘルプを求めようにも、彼も私と同じ顔を浮かべて"どうすればいいのやら"と言いたげな顔を浮かべて肩を竦めていた。


「否定したいですけど…その、余りに荒唐無稽で…どう言っていいのやら…って感じで」

「都市伝説級のお話ですもの!荒唐無稽上等!妖怪が現代にいるなんて凄いじゃない?」

「す、凄い…?」

「えぇ凄いわ!空想上の産物、御伽噺の悪役が居るのよ!?いないと思ってた存在がいるなんて、見てみたいと思わない?いるなら、是非会って話がしてみたいの!ねぇ?皆?」


花角先輩の言葉に、コクコク頷く漫画研究部の部員たち。

千羽君もその言葉に強く同意な様子で、強く頷いていた。


「居ても碌な存在じゃないというか…害悪だと思ったりは…?」


その様…熱量に押された私は、引きつった顔のままそう尋ねると、目の前の部員たちは一斉に首を横に振る。


「しないしない!ねぇ?」

「そうですね、今に生きてるなら…大丈夫でしょ?」

「大きな問題を起こしてないってことだもんね」

「うんうん!シレっと近くとかに居て、普段話してる人が…とかだったら最高だね!」


盛り上がる妖怪談義。

私はその間に正臣と顔を見合わせて、余りにも"呑気"な様子の彼らに呆れるやら、どう説明して逃れようやらを考え始めた。


確かに、現代に生き残っている妖というのは"基本的に害悪ではない"だろうし…

彼らの妄想の様に"普段話してる人が妖"ってことは大いに有り得る話なのだけども。

それでもやはり、人は妖にとって"貴重な食糧"だ。

それを忘れてはならない…人の上位種とでも言おうか、防人元の言葉を借りれば"進化先"が妖というものなのだ。


「ま、まぁ…そう言うのがいるとも思いませんし。いたとしても、私は無関係です」


一通り盛り上がりが済んだあたりで、申し訳なさげな声色でそういうと、皆の騒めきが一瞬でシンと静まり返った。


「そ、そう…」

「…自分で言うのも何ですけど、家の立地とか諸々のせいでそう思われる事が多いんです。ですが、父は公務員ですし、母は主婦なんですよ。こう…皆さんの思っている様な家じゃないんです」


残念そうというか、"本当に?"って言いたいであろう皆の前で堂々とそう言い切ると、訝し気な視線が段々と気まずいそれに変わってくる。


「昔から勘違いされてきたので慣れてますが、面白可笑しく詮索されるのは御免です。気味悪がられるのも慣れてますけど、変な決めつけで詮索されるのは慣れてないんですよ」

「そ、そうなの…ごめんなさい…」


ハッキリした口調でそう言うと、テンションの高かった花角先輩の目尻が僅かに下がった。


「ご、ごめんなさいね?そ、そんな気は…1つもなかったんだけど…」

「わかってますよ。でも、警告です。中途半端に誤魔化しても、次があったでしょうから」


そういうと、私は座っていた席から立ち上がって隅に置いた鞄を取って肩にかける。


「それでは…」


失礼します…と、そう言いかけた私の視線の隅に変な"影"が見えた。

立ち上がった私と正臣の2人分の影が部員の方に伸びているのだが…

それに加えて"誰のかも分からない2つの影"が見え、眼前の部員たちはあんぐりと口を開けて、目を見開いて私達の方に視線を向けている。


「い、入舸さ…!!!」「正お…!!!」


花角先輩と千羽君が、私達の名を叫ぼうとした刹那。

視界の隅に見えた"影"が何かを教室に放り投げてガラスが突き破られ、私達の意識は一瞬の内に闇に沈んだ。


 ・

 ・


気付けば私は教室の床に倒れていた。

体は思うように動かせず、目を開こうにも少ししか開けない。

何が起きた?…そう思うよりも先に、僅かに見える視界の隅で、気を失った部員たちが何者かに抱えられ、連れて行かれる光景が見える。


「…!」


その"何者か"から感じるのは、妖気。

黒いスーツ姿で、パッと見は何処かのサラリーマンか何かにしか見えないが…

どれだけ上手く人に化けても"妖気"だけは誤魔化せない。


「待…て…」


妖の妖気を感じた瞬間に、自然と声が漏れ出て、ピクっと指先を動かした。

どうやら体は"妖化"していないらしい。

徐々に力が戻ってきた私は、ゆっくりと立ち上がり、自分の体を軽く見回して異常がないことを確認すると、"襲撃者"に荒らされた教室を飛び出す。


「待てや!!」


左右を素早く見て、学校の裏手側…グラウンド側の方に伸びる廊下に黒い人影を見止めて声を張り上げると、丁度花角先輩を抱えた妖が足を止めてこちら側に振り向いた。


「……」


生気を感じない瞳。

人に化けた妖にしては、意思を感じない顔。

振り返った妖の向こうには、似た様な格好をした妖がズラリと居て"部員や正臣を背負って"おり、彼らは次々に足を止めるとクルリとこちらを振り向いて顔を見せる。


「貴様等…妖怪だな…?どこのかは知らないが、人に手を出してタダで済むと思うか?」


黒いスーツ姿に、黒い髪…"コピーか"と思えるほどに同じ格好に仕立てられた妖達。

異様さを前に、背筋に嫌な汗を感じながら、私は服の袖に手を入れて呪符を取り出し、真っ黒い光を宿して見せる。


「……」「……」「……」「……」「……」


だが、彼らにその脅しは通用しない。

私の様子を見て、ピクリとも眉を動かさない彼らは、クルリと私に背を向けると、ゆっくりと廊下を歩き出した。


「…っ!待てって言ってんだろがぁ!!止まりやがれ!!」


呪符を構えて足を踏み出した。

そのまま呪符を投げて"発火"させてやる…

そう決めた刹那…通りがかりの、誰もいないはずの、2年8組教室の扉が中からブチ破られて2人分の人影が私の前に飛び出してきた。


「!!」


それに驚き、足を止める私。

教室から飛び出てきた人影は、とても見覚えがある2人組…私が探していた2人組。

鬼沙と、先代の入舸沙月は、不敵な笑みを浮かべながら、私の前に立ちはだかった。


「沙月ィ。ちょ〜っとばかり…あの子達は預からせて貰うぜ。何、悪い様にはしないさ」

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