153.段々と、周囲に悪影響を与えているという思いが強まってくる。

段々と、周囲に悪影響を与えているという思いが強まってくる。

普通の人とは違うと言う事に、今更どうこう喚くつもりは毛頭ないが…正臣や、元治の様に"変わりつつある"人間を見てしまうと、どうも自分を責めたくなってしまう。

自分のせいというと自惚れも良い所だと思うのだが、一度嵌った自己嫌悪からは、そうそう抜け出せそうになかった。


「また駅?」

「いや、サンシャインモール」

「ちょっと駅から遠いね」

「ちょっとね」


放課後、昨日と同じ様に正臣と行動を共にしている私は、肌寒い風を浴びながら、商店街の方へと歩いている。

2日連続の悪霊退治、ここ最近はめっきり無くなっていた"バイト"だが、出るときは出るのだろうか…

悪霊以外には特に変な動きも見られないから、入舸として警戒を強める段階にも無いのだが、私は何処かで嫌な予感を感じていた。


「何も無ければ良いけど」

「何もって…何が?」

「この間みたいなこと」

「厄介事か。あったとしても、沙月は出してもらえないと思うよ」

「どうしてさ」

「この間、沙絵さんとバッタリ会った時に言われた。何かあったら俺のとこに預けても良いかって」

「はぁ…?穂花のとこで良いじゃない」

「楓花達の所だと抜け駆けするからってさ」

「全く…」


雑談…私は沙絵と正臣の話を聞いて苦笑いを浮かべて肩を竦める。

目的地の商店街まで後少し…

もう少し歩いて、薄明かりになって来た空の下、辿り着いた商店街に入ってみると、中は閑散としていた。


「いい?今回は私が祓うからね。さっきみたいなことは禁止」

「分かってるって。あれは…うん」

「で…沙絵から聞いてるのは、このモールの一番奥って事だけど…」

「どっち側?」

「手前の方…だからこの辺だ」


足を止めたのは、商店街に入ってすぐの辺り。

すぐ横に目を向ければ、屋台村の入り口が見える辺りだ。


「帰りはここにする?」

「乗った」


私達は通りの隅に歩いて行って、"悪霊が正臣に憑りつく"のを待ち始める。

ただ、悪霊の発生源に近づいて、正臣に憑りつくまで待って、祓うだけの簡単な作業。

これでそこそこ…"高校生が貰うには大きい額"が入るのだから、良い身分だ。


「沙月、明日の英語の予習、やった?」

「あー、訳してない。ってか全く分からないさ」

「だと思った。後で写す?」

「え?良いの?」

「これでさっきの分」

「はーん…アレが1回で予習がチャラになるのか…」

「良からぬこと考えてるな」

「まさか。冗談冗談」


疎らな人通りの中、隅で突っ立って雑談しているだけの高校生…

時折チラリと視線を向けられるが、どういう風に見られているのだろうか。

私達は、そんな目線を気にすることなく、薄暗い商店街に目的の"靄"が現れるのを待ち続ける。


「まだ水曜日なのが怠いよね」

「木曜が一番辛いんだよなぁ…」

「ねー…そう言えば部活…最近休みがちにさせちゃってるよね」

「あぁ、まぁ…大丈夫。こっち優先で。その分は朝とか昼にやってるし」

「真面目か」

「そりゃぁ…なぁ?そうだ。どっかの大会でマネージャーみたいなの頼めない?」

「なんだってまた」

「人手不足でさ。次の大会、日程カツカツっぽくて」

「平日?」

「まぁ、11月中頃の木金なんだけど」

「家絡みで何も無ければ…考えておいてあげる」


他愛のない雑談で時間を潰す私達。

更に数分、適当に時間を潰していると、ようやく"靄"が現れた。


「ようやくだ」

「遅かったね」


少し遠くに"降りてきた"靄…昼間学校で見たそれよりは少し"濃い"それは、一直線に正臣の元へと飛び込んできて、彼に憑りつく。


「沙月…」「はいはいっと」


靄が全て入り込み、正臣から合図があった段階で、私はポケットの中で手にしていた呪符を取り出し、彼の背中に貼り付けた。

念を流し込んで呪符を作動させ、正臣に入り込んだ悪霊を取り祓う。


「今くらいのなら、自力は難しいんじゃない?」

「ん…まぁ…そうだね。ちょっと"重たい"奴だったし」


簡単すぎる一仕事を終えた私達は、すぐ横の屋台村に足を向けた。

今憑りついて来た悪霊は、さっきよりも"面倒くささ"が増した霊…

正臣にとっても少し"変調"するような強さだったらしく、最近は滅多に見ない、少し疲れた様な表情を浮かべて肩を回している。


「さて、正臣。何処に入ろっか?」

「肉!って気分。沙月もそうなんじゃないの?」

「正解」

「偶に俺の首筋ジッと見てるんだから」

「ごめんなさい」


そう言いつつ、目に付いたステーキ屋の扉に手をかけた。

扉を開けると、肉が焼ける音と共に、芳香なニンニク系の香りが鼻を擽る。

これは、食べ盛りの高校生には効きすぎる香りだ…


空いていた隅の席に腰かけて、注文を終えて数分後。

テーブルに2人分のプレートと飲み物が運ばれてくると、私達はようやく"普通"の高校生に戻れた気がした。


「おぉ…美味そ」

「仕事の後の1杯って言葉に憧れてるんだよね」

「なんだそりゃ」

「まぁまぁ、コーラだけど…乾杯~」

「はいはい…乾杯」


カン!とグラスを合わせてからコーラを一口。

シュワっとした甘い味が口内に広がり、そのままの勢いで、ステーキを切って一口。

仕事?終わりのステーキが不味いはずがない…顔を蕩けさせると、向かい側に座っていた正臣はそんな私を見て口元に曖昧な笑みを浮かべた。


「何?」

「いいや、なんでも。口の横に、タレ付いてるだけ」

「おっと」


正臣の指摘を受けて、紙の布巾で口元を拭う。

彼は何処か影がある笑みで私の方を見ていたが、それを聞くのは止めておこう。

それから暫く、私達は学校の話や部活の話で盛り上がりつつ、時間的にはちょっと早い夕食を進めていった。


「ん?」


その時間に水を指したのは、私のスマホ…電話が来たことを示す振動を感じた私は、ポケットからそれを取り出して、電話を寄越した相手を見る。


「ジュン君?」


相手はジュン君…正臣にも画面を見せて、互いに怪訝な顔を見せ合った後、電話に出た。

耳に当てたスマホ…私が「もしもし?」と言う前に聞こえてきたのは、ジュン君の叫び声。


「あ!繋がったのです!…沙月!助けて!このバス、行き先がおかしいのです!」

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