112.目的が自分だというのなら、理由は何となく想像がつく。
目的が自分だというのなら、理由は何となく想像がつく。
こういうと、自惚れてると思うが、私は防人の中でも滅多に居ない体質だから。
人でありながら"妖"に近い、人と妖の間を行き来するような人間なんて、そうそう居ないのさ。
「来るぞぉ!」
唖然とした私の左手を、八沙が掴んで引っ張った。
ライトに照らされた駐車場、私達を取り囲んでいた妖達の襲撃を"跳んで"躱す。
「ぐぅ!」
「沙月、呪符を!」
「ケッ!」
私諸共宙に浮いた八沙。
トンと飛んだ先、遠くに小樽運河が見える位高く飛び上がった今、呪符に念を込めるのに十分な余裕があった。
「食らえ!」
空中でパッと手が離される。
即座に服から引っ張り出したのは、真っ赤な靄を宿した"赤紙の呪符"、その数5枚。
眼下の妖、ニヤついてこちらを見ているだけの鬼沙を見やって、すぐに視線を"雑魚"に向けた。
パッと呪符から手を離す。
真っ赤な靄は、重力に逆らわずヒラヒラと舞い落ちた。
「八沙!手!」
「あぁ!」
爆発、爆発、大爆発。
眼下で妖達の悲鳴が響き、私と八沙は爆風に乗って公園の中に逆戻り。
そのまま、爆発を真面に食らった妖の事は棚に上げ、私達は鬼沙から距離を離す。
「どうするよ?」
「そう言っても手が無い!」
「クソ!」
着地した先は、真っ暗闇な公園のド真ん中。
適当に、公園の奥へ奥へと足を進める。
「沙絵は?無事なの?」
「知るか!」
「さっきあっちでも爆発あったよね!?」
「あぁ、クソ!」
足を進める先。
公園の最奥地。
さっき、鬼沙が現れたと同時に爆発が起きてから、何の音もしなくなった暗闇の先。
「なら小手調べだ!」
奥へ向かいつつも、八沙はそう叫んで呪符を取り出す。
手を真っ赤に染め上げ、呪符をパッと上空に投げ捨てると、私達の居る真上から、真っ赤な光が轟音と共に降り注いだ。
「ちょっと!」
「どうせヤツにゃバレてるよ!」
一瞬で暗闇が真っ赤な光に照らされる。
今の居場所は、もうじき公園の端まで辿り着く辺り。
その先、真っ赤な光に照らされた先、ウチで見かける車が止まっている様は見えたが、人影は1つも見えなかった。
「いない!」
「畜生、いい!一旦奥だ!」
そう言って、一瞬足を緩めた刹那。
私達の目の前に、真っ黒なサークルが現れた。
「いっ!」
急ブレーキ。
暗闇の中、パチパチと音を鳴らすそれから感じるのは、強大な妖力。
クルリと背後を振り返ると、未だ真っ赤な光の残響が残る空間に、鬼沙の姿が見えた。
「それ合わせて!黒3枚で!ケリつけてやらぁ!」
一気に迫る"鬼"の叫び声。
私の背中に、ブワっと嫌な汗が流れ出す。
「足をぉ!止めたなぁ!?」
再び鬼沙の叫び声、ゾッとする感覚。
即座に呪符に念を込め、左手を真っ黒に染め上げた。
「八沙ァ!」
「分かってる!」
八沙も私も同じ考え。
互いに、真っ黒に染め上げた呪符を掲げると、背中を合わせパッと呪符から手を離す。
八沙は黒いサークルに向けて。
私は、自らの足元に向けて。
爆発。
背後の爆発は八沙の作り出した爆発とかち合い、私のそれは再び私達を上空へ。
「これを読めねぇ馬鹿が居るかっての」
浮かび上がった先。
私達を待ち受けていたのは、いつの間にか距離を詰め、しかも宙に浮いていた鬼沙の姿。
最早叫ばなくても聞こえる距離。
囁くような声でも、十分に声が届く距離。
「テメェら、3枚も要らねぇや」
あっと驚く間に、私の目の前に彼の拳が迫ってきた。
咄嗟に塞ごうにも、今の私は片腕の身。
腕を前に出しただけで、鬼沙の拳を防げるわけもない。
鈍く鋭い痛みが全身を貫く。
空中で体を縮こめた私、残る1本の腕をへし折って、そのまま真っ直ぐ鳩尾を拳が貫いた。
「ッハァ!!」
肺の中の空気が一瞬にして空になり、口からは空気と共に血が噴き出る。
そのまま、フラフラと宙を漂い、墜落していく私。
視界には、勢いが衰えぬ鬼沙に、全く同じようにやられて吹き飛んでくる八沙の姿が見えた。
「ァ…ァァ…!」
墜落。
鈍い衝撃が全身を貫く。
落ちた先は、さっきまで沙絵が居たであろう、岸壁の上。
入舸の車のドアにぶち当たるように落ちた私の横に、同じように八沙が降ってくる。
「おっと、これはこれは」
目の前に鬼沙が着地してくるなり、私と八沙を見比べてニヤリとした笑みを私に向けた。
「雨さえ降ってりゃなぁ、沙月ィ、お前の見てる景色は、どうだ。覚えてるだろう?」
ゆっくりと、意識が遠のきそうな私に歩み寄ってくる鬼沙。
彼の言葉を脳裏に反響させると、私の脳裏は、すぐさま遠い昔の光景を組み上げた。
遠い昔、まだ、私が自分の力も知らなかった、小学生に上がったばかりの頃の光景だ。
「あ…や…やだ…や…めて…」
「その目だ。その目ェ。こっから見てっとよ。女の癖に案外、顔は変わんねぇもんだな!」
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