111.一気に色々な事が起きすぎて、もう何が何だか分からない。
一気に色々な事が起きすぎて、もう何が何だか分からない。
力無い妖を追い込んだと思えば、私達の前後で大きな動きがあった。
1つは私達の呪符が効かない事、もう1つは、背後で派手な爆発音が聞こえた事。
「いひひ!まだ、まだ、手駒がいるよ!短期決戦!」
"カフカ"よ自らを呼ぶ妖が、私達を前に不敵な笑みを浮かべる。
さっき心臓を抉り抜いたはずの渠波根としっかり抱き合ってこちらにニヤリとした目を向けていた。
「天邪鬼、雑魚だから。どこまで持つと思う?」
眼鏡を掛けた地味な顔に、ヘソ出しルックの煽情的なその姿。
未だに血塗れの渠波根の血が、彼女のチューブトップとホットパンツを濁らせる。
「なんだよ、それ」
手にした呪符が効かないと悟った私達。
片腕しか無い私にとって、打つ手はもう無いに等しかった。
呪符を仕舞って暫く八沙に場を任せ、次の手を探すがピンと来ない。
「渠波根ちゃん、合意の上。いひ、ひひひ!死体は、カフカの、思いのまま!」
「野郎、いい気になってりゃ、くっちゃべりやがって」
嘲る口調の妖に、八沙は拳を握りしめる。
「その呪符がどんな仕掛けか知らねぇが、物理が効かねぇとは言わねぇな!」
残り数歩の間合い。
八沙はトン!と地面を蹴飛ばし"カフカ"に襲い掛かる。
「渠波根ちゃん!」
「はいさ!」
驚いた顔を見せた"カフカ"。
すぐに背後に飛びのくと、渠波根が"カフカ"を護る様に立ちはだかった。
「死体風情で止められっかよ!」
急場しのぎにしか見えない。
勢いに乗った八沙の手刀は容赦なく渠波根を貫いて、真っ二つに切り裂いた。
「ぅわぁ!」
「次はテメェだ!」
上半身と下半身に別れ、再び白目を剥いだ渠波根を乱雑に突き飛ばし、"カフカ"の元へ突貫する八沙。
私は、渠波根の死体を"目に入れぬよう"にしながら後に続いた。
普通であれば、"カフカ"は万事休すといった場面。
余裕を崩さない"カフカ"の顔が、私には不気味に見えて仕方がない。
「やられる~!いひ、ひひひひひひひひひひひ!ひぃ~!」
ヒョコヒョコと背後に逃げ惑い、遂には駐車場にまで入り込む"カフカ"。
間一髪、八沙の拳を交わし続けること3撃分。
八沙の表情が真っ赤に染まり切った刹那、パッと駐車場が明るく照らされた。
「!!??」
「え?」
「いひ!」
逆行。
"カフカ"の姿が黒い影と化す。
八沙は足を止め、後に続いていた私も足を止めた。
「止めちゃうんだ~、いひ、ひひひひひひ!」
ライトの光を浴びて影と化した、血濡れた根暗女が私達を煽る。
「クソ!」
「ヤバい」
ハイビームのライトが向けられた先に立つ私達。
八沙の手は、渠波根を切り裂いたお蔭で血だらけだった。
「ぼやかす準備して」
「ああ」
私はその手を隠すように、八沙の一歩前に立つ。
「いひ!次の遊び相手、絵描きちゃん?」
"カフカ"の煽りに乗ってる暇は無い。
パッと付いた車のライト、その車の主が誰なのかが問題だった。
「いひ、ひひひひひ!あ!そうか!誰の車かが、問題だ?」
そう言ってパッと車の方に振り向く"カフカ"。
直後、車の運転席がパッと開いた。
「……」
「……」
血を纏った女が振り向いた先、ライトが弱まり、同時に何者かが降りてくる。
私達は、何も出来ずに立ち尽くすほか無かった。
「うわ!血だらけじゃねぇかよ、おい」
「言ったでしょ!渠波根ちゃんを殺す!って!」
降りてきた男の声、真っ黒なスーツに身を包んだその姿。
私の脳裏は、一瞬の内に恐怖で埋め尽くされる。
「じゃ、後は任せた。いひ、ひひひ!渠波根ちゃん!起きて!」
「はい!っす。死んでも、こういうのは痛いんっすね~」
男の姿に震える私。
驚いて何も出来ない八沙を他所に、"カフカ"が車の後部ドアを開けた。
更に、いつの間にか"復活"していた渠波根が、のうのうと私達の横を通り過ぎて、"カフカ"の元へ歩いていく。
「後は任せたっすよ。入舸鬼沙さん?」
「いひ、ひひ!任せた!任せた!ただ、知ってる通りの姿なのかな?絵描きちゃんは」
男の名を渠波根が告げて、目の前に現れた男が偽物では無い事を改めて知る事になった。
「ったく。その血、付いたら落ちねぇんだぞ。部品とっかえだ」
私達を前に、緊張感が一切無い鬼沙。
苦笑いした顔を2人に向けていたその顔がこちらに向いた時、その顔は、ニヤリと交戦的な"見覚えのある"顔に変わった。
「思ってたよりは弱ぇがな。ま、ワケアリだぜ。あの様は」
そう言って、鬼沙はパン!と手を合わせる。
ゾッと全身の毛が逆立った。
「墓、作り損じゃねぇか。阿保。今更、ノコノコ出てきやがって、何の用だ?」
八沙が鬼沙に問いかける。
その声は、怒りに震えていながらも、恐怖心を隠しきれていなかった。
「あ?雑魚に用はねぇよ。俺等の目的はな、八沙。入舸じゃねぇ」
八沙の恐怖心、それは鬼沙にも分かっているだろう。
ニヤリとした、余裕な表情を浮かべ、鬼沙が答える。
気づけば、私達の背後に、再び数多の妖達が取り囲んでいた。
「入舸じゃねぇだ?じゃ、なんなんだ!?」
「喚くなや、八沙ぁ。ずっと前から、カッカしやすいんだからよぉ。もっと楽にしねぇと」
ジリジリと、緊張の度合いが高まる中。
鬼沙は、その視線を、私の目にガッチリと合わせてきた。
「俺等の目的はな、お前だ。入舸沙月」
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