110.1つ何かが分かれば、その倍以上分からないことが増える。

1つ何かが分かれば、その倍以上分からないことが増える。

"カフカ"が、今回の妖騒ぎの原因の1人だという事は、今ので身を持って知れた。

だけど、鬼沙との関係は?何故死体が消えた?そもそも、どうしてここで事を起こした?


「消えてる!?」


沙絵に指さされた先、心臓を抉り取られて絶命していた渠波根の死体が消えていた。

唖然とする私、その背後、金色の光が私と沙絵の背中を照らす。


「沙絵!沙月!女が逃げたぞ!」


妖を隠し終えた八沙がやって来るなり、私は渠波根が居た場所を無言で指さす。


「あ?あぁ!?死体が消えてるじゃねぇか」

「そう」

「沙絵、その傷は!」

「大丈夫」

「大丈夫じゃねぇな。足手まといだぜ。そろそろ"人払い"が来る頃だろ。合流してそっちやってな」

「沙月様は」

「沙絵についてけ。ワシは奴を探し出して…」

「嫌だ。八沙に付いて行く」

「おいおい、ちょっと待…!」


短い間だけだから。


「嫌!」


私は八沙の答えを聞く前に、自らに呪符を3枚貼り付けて、強引に"妖"に近づいた。

そのまま、八沙の腕を掴んで、爆風の中に消えた"カフカ"の消えた方に足を踏み出す。


「おい、沙月!テメェ!」

「八沙!青い光、見えてないの?」

「あ?青い光ぃ?」


急激に軽くなった足を必死に動かす。

八沙や沙絵の反応が、どうにも私の視線とマッチしないと思ったら、そういう事か。


「見えないなら、人間の私は絶対に必要さ!」


駆けながらそう叫んで、真っ青な光の軌跡を辿る。

道中、幾つかの妖が姿を見せたが、さっきの6号と28号に比べれば、雑魚も良い所。


「邪魔するな!」

「失せやがれ!」


呪符を真っ黒に光らせ、爆発させて蹴散らしていく。

隠すのは、後から来るであろう沙絵や、家の妖に任せればいい。

兎に角、今は公園の中心部へと逃げ込んだ、電波根暗眼鏡女の後を追うのが先決。


「逃げ足の速い奴…」


トロそうな見た目からは、想像もつかない足の速さ。

青い光の軌跡の先、姿がボンヤリと見えるのだが、距離が中々縮まらない。


「何処まで行く気?」


それなりに大きな公園。

中央を突破して、向かう先は駐車場。

もし、そこから更に逃げられれば、その先は小樽運河の端だ。


「これ、ウチの連中とカチ合うぞ」

「いや、沙絵の方に行ったね」


公園、普段の散歩道を逆に進む私達。

その横、岸壁の道を走る車数台のライトを見かけて目を向ける。

暗くてよく見えなかったが、そのシルエットは、家でよく見る角張ったセダンのものだった。


「クソ!こっちさ気づけや!」

「人にしか見えない光だもの」

「運河までは逃がさねぇぞ」


公園の道を駆け抜ける。

青い光を放つ根暗女に、少し近づいてきた。


そこで、私は呪符を一枚取り出し念を込める。

真っ赤な光を宿し、その光を"カフカ"目掛けて放り投げた。


「何を?」

「実験」


驚く八沙に、私は表情を崩さず一言。

手から離れた呪符はフワッと舞い上がり、すぐに呪符を追い抜いていく。


刹那。


派手な轟音と共に、視界が一瞬真っ赤に染まる。


「!?」


普段であれば、真っ赤に染まった視界が戻ってくるまでに少し時間がかかるものだ。

思った通り、すぐに視界も聴覚も戻ってくる。


「あの青い光。呪符の効果かな」

「さっきの効いてなかった理由はそれか!」

「ミスだと思ったな?」

「ああ!」


もう少しで駐車場。

すると突然、"カフカ"の足が止まった。


「!?」


私達も急ブレーキ。

私と八沙は"赤紙の呪符"を構える。


「いひ、ひひひ!!!!!!!」


足を止めた"カフカ"。

目と鼻の先には駐車場。

こちらを向いていないが、女の顔は、電子機器の光でボンヤリと照らされていた。


「諦めるにしては中途半端だな」

「いひひ、諦める?そんなの、有り得ない!」


"カフカ"はパッとこちらを振り返る。

刹那、私と八沙の呪符が作り出した"真っ赤な靄"が女を包み込む。


「「ハッ、勝手にほざいてな!(泣きっ面晒せや!)」」


威勢のいい言葉と共に、私達の手から呪符が離れる。


「いひ!」


刹那、大爆発。

"カフカ"はその爆心地。

今度はタダでは済まないだろう。

私達は、金色の光を放つ準備をして、爆風が晴れるのを待った。


「い、いひひひひひひひひひひひひひ!!!」


晴れる直前、"カフカ"のさっきと何ら変わりの無い、気色悪い笑い声が公園に響く。

私と八沙は、手にした呪符を光らせることもなく、ただただ呆然と立ち竦んだ。


「いひひ、そんな、呪符、カフカ、効かないもん。ねー?渠波根ちゃん?」



気味の悪い声色、爆風の中から、そう言って現れたのは、2人分の人影。

左手に真っ青な光を宿した"カフカ"と、満面の笑みで"カフカ"に抱き着く渠波根の姿。

その姿を見た私達…今の段階で打つ手が無い事は、互いに分かり切っていた。


「ねー、私の、大事な、大事な、親友。渠波根ちゃん!今の2人、どう見える?」

「そうっすねぇ。本家で話題になるほどの力は無さそうに見えるっす。特に、その女狐。この間の1件で、結構大目玉を食らったんじゃないっすかね?」

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