107.バレないだろうと思ってバレた時は、凄く恥ずかしくなってしまう。
バレないだろうと思ってバレた時は、凄く恥ずかしくなってしまう。
頭の中で「もうバレたお終いだ」と思っても、まだ、ブラフだろうか?等と考えてしまう。
それで、都合のいい方に解釈して、嘘を貫き通そうとして、失敗するんだ。
「ねぇ、誤魔化そうとしても駄目よ?沙月」
夕方、手掛かりを一切掴めないまま訪れた、家の近くのスーパー。
八沙の目立つ車は家に置いて、沙絵と共に傘をさしてやって来たスーパーで、私は穂花と楓花に囲まれていた。
「なんで、分かるのさ。この格好で」
ちょっとの間、2人を誤魔化そうと必死だった私は、諦めて左手を上げる。
八沙が施してくれた変装は、普通じゃバレようが無いはずだった。
意地になって変えていた声色を元に戻した後、周囲を見回して、他に知り合いがいないか確認した。
「この雨じゃ、人も来ないわ」
「誰か来て、その人に私だってバレたく無いのさ」
「でしょうね。親戚の子って事にしてあげる。私達ですら、ちょっと迷ったんだから、問題なく誤魔化せるわ」
スーパーでも、人通りの無い所。
明るいながらも、どこかどんよりとした所。
そこで、申し訳程度にあるベンチに座っていた私は、穂花と楓花をジトっと見上げた。
沙絵は買い物。
家に居ても気分が沈むばかりだった私は、ついて来はしたものの、片腕で戦力外。
すぐ終わるからと、人気の無いベンチで休んでいようとしたら2人に見つかって今に至る。
何も考えていなかった自分のミスの様なものだ。
家に居れば良かったと後悔しても、もう遅かった。
「に、しても凄い恰好ね。その目はもの貰い?」
「ワケアリ」
穂花と楓花にも、普段通りの対応が出来ない私。
ちょっとだけ毒気のある口調になる私を見て、2人は顔を見合わせた。
「夏休みでグレた、とかじゃなさそうよ?」
「ええ。そうみたい。らしくないわね」
そう言いながら、何時ものように私の左右に腰掛けようとしてくる2人。
私は咄嗟に"左側"を開けようと、右端に移動した。
「え?」
「いいから、座るなら、そっちに座って」
「沙月…?」
私の動きに、2人の顔が訝し気なものに変わる。
「本当に、どうしたの?」
「どうかしてるのさ」
「ちょっと、こっち向きなさ…い…!!??」
不機嫌さを隠さない私に、2人はいつものように構ってくる。
楓花が私の肩を掴んでそう言った時、彼女の表情が一瞬のうちに歪んだ。
肩を掴んだ手、右肩を掴んだその手が、腕に滑り降りてこようとして、中に何も入って無い袖をギュッと掴む。
「沙月、貴女!」
「もう、喋るな!」
"事実"を知ってしまって叫んだ楓花に、思わず怒鳴る。
誰もいないスペースで、人より低めな私の怒声が響いた。
「ごめん」
楓花が表情を曇らせ手を引く。
その様子を見ていた穂花が、楓花と同じように私の肩を掴むと、楓花がやったような動きをして、全てを察したようにこちらに目を向け、唖然とした表情を浮かべた。
「これ以上、何か言うようなら、本当に怒る。ごめん、今の私、真面じゃないから」
棒読みみたいな声色でそう言った時、この空間に、新たな人影が1人見えた。
「あっと」
買い物袋を手にしてやって来たのは、変装したままの沙絵だ。
普段のちょっと露出度高めな、解放的な格好ではなく、地味で芋っぽい感じのチャラ女姿。
穂花と楓花は、沙絵の声を聞いて沙絵だと気づいたらしく、2人は更に驚いた表情を深めた。
「こんにちは」
「沙絵、もうバレてるよ」
「そうでしたか。この気まずさは、何かありましたね」
他人行儀な挨拶に、ボソッと簡潔に今を伝えると、すぐに普段の笑みを浮かべてくれる。
「申し訳ありません。ちょっと色々と、こちらも訳アリでして」
「みたい、ですね。その…」
「沙月様は、暫くはこの調子だと思います」
そう言いつつ私の右隣までやって来た沙絵は、2人の見えない裏で私の背中をつねった。
「いっ…!」
「もうすぐ元に戻るはずですから、戻ったらまた遊んであげてくださいね」
そう言って頭を下げる沙絵。
更に背中をつねられる力が強まり、私は小さく俯いた。
「その、ごめんなさい」
別れ際に一言。
穂花と楓花も、ちょっと気まずそうな、曖昧な笑みを浮かべて頷いてくれた。
そのまま、沈んだ気分のままスーパーを後にする。
外に出て、傘をさすと、沙絵が私の方をジッと見つめてきた。
「何」
「いえ。あの様子では、事故みたいなものだったのでしょうけれど。治ったら、ちゃんともう一回、謝りに行くのですよ?」
「分かってる」
雨が降りしきる中。
沙絵と共に、家までの帰り道を歩いていく。
坂を登って、3月まで通っていた中学校の前を過ぎて、藤美弥神社の前を通って更に上へ。
家に戻ってきたころには、雨が降っていることもあってか、空はかなり暗かった。
「ただいまー」
扉を開けて、傘を開いたまま玄関に置いて、家に上がる。
「おかえりなさいませ」
沙絵の声に、家の奥から反応があった。
沙絵の下に付いている妖だ。
黒いスーツに赤い瞳を持った男が、沙絵から買い物袋を受け取って奥に消えていく。
「あの人達も来てるんだ」
「沙雪様が招集したがっていたので。だから、今日は簡単に作れる鍋物になったんです」
「そう」
私は素っ気ない返事を返すと、1人自室の方へ歩いていく。
夕食時まではまだ時間があるだろうから、それまで部屋で1人になりたかった。
「待ってください。沙月様」
部屋に入りかけた私の左腕を沙絵に掴まれる。
足を止めて、背後へ振り向くと、変装を解いて素に戻った沙絵の姿が見えた。
その顔は、いつも以上に真剣そのもの。
「もうすぐ7日です。その前に、あんなことがあったのでは…お気持ちを察しきれませんが。沙月様、今は、沙月様だけの危機ではないのです。少しは"戻ってきて"下さい。でなければ、私共も今の沙月様をお譲りできません」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます