88.嫌なことがあったのならば、全部酒と一緒に流し込めばいい。
嫌なことがあったのならば、全部酒と一緒に流し込めばいい。
1人で悩んでいるだけ無駄なのさ、誰かと酒でも呑んで酔って忘れるに限る。
呑んで騒いで、その内に、自分の悩みがどれだけ小さい悩みだったかに気づくんだ。
「これが…"百鬼夜行"!!??」
青い空が霧に覆いつくされた通りのド真ん中。
私の周囲に出来た"暗闇"、そこから妖達の賑やかな声色が響き渡ってきた。
「させるか!撃て!」
「はいはいっと」
咄嗟に腕を振り上げる葉津奇。
長屋の上から、雨あられと矢が降ってくる。
だが、それを八沙が見過ごす訳が無い。
「黙ってみてろよ。良い所だってのに」
矢の嵐。
そこに交じるのは、この間喰らった斬撃。
それを防いだのは、真っ黒な靄を纏った"赤紙の呪符"。
八沙がヒュッと呪符を宙に投げると、それは即座に"爆発"を引き起こす。
小規模の爆発。
私を目掛けて降って来た矢と斬撃は、その爆発に呑まれて砕け散った。
「ギッ…!ナゼッ!呪符なのに!」
お得意の手口、霧を"変化"させて斬撃を寄越してきた葉津奇の腕が千切れ跳ぶ。
想定外の結果だろうか、葉津奇の表情が驚きに歪んだ。
「ただの呪符じゃあ、ないんだよなぁ。呪符じゃ効かないもんなぁ!ただ、コイツァ、火薬混じりの特注品でね。ただの呪符じゃねぇぜ」
八沙と葉津奇の睨み合い。
「さぁ、葉津奇ィ、テメェの相手はこのワシじゃぁ!」
「クソ!…あぁ、わかりましたよ!また、倒せば良いだけの話!」
八沙と葉津奇は、示し合わせた様に長屋の上へ。
「貴様ら!時間を稼げ!クソクソクソ!」
長屋の屋根に陣取っていた"流れ者"の照準は、私から八沙に切り替わる。
その様子をじっと眺めていた私の周囲には、巨大な暗闇が出来上がっていた。
「デキタ」
眼前。
"運び人"達の戦意はもう零に等しいだろうか?
「ウメツクセ。タノシメ。ソシテ、カクセ!」
パチン!と指を鳴らす。
次の瞬間、暗闇から出てきたのは"私に描かれた"妖達。
「ウワァァァァ!」
「ニゲロ!」
「クッ、クルナァァァ!」
酒に酔った様な妖達。
暗闇から飛び出てくると、一目散に"運び人"の方へ襲い掛かって行った。
「サァ、サァ、サァ!オモチャ、イッパイ、アルヨ!」
暗闇から次から次へと出て来る妖達に発破をかける。
私の一言に、妖達は言葉にならない奇声を上げた。
「アバレロ!オドレ!モット、モット、サキニススメ!」
蕎麦屋で描いた妖達。
ずーっと前に"現実"で描いた妖達。
「キテクレタネ」
「オウ!エカキ!マカセロ!」
「ジョウホウ、アッテマシタネ?」
酒瓶を片手に飲んだくれ、それぞれが様々な得物を片手に"運び人"達に襲い掛かった。
「クッ、クルナァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
「イケイケイケイケ!ヤッチマエ!!!」
「ウワァァァ!ウセロ!ヤメロ!ヤメロォォォォ」
「ァアハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!」
見たことのある顔が顔を上気させて出て来ては、わき目も振らずに"仕事"をこなす。
この間の百鬼夜行の時よりも、統率が取れた動きを見せていた。
絶叫。
悲鳴。
歓喜。
歓声。
色々な叫び声が、目の前の光景に彩りを与える。
飛び出てきた妖達の数は、目に見える"運び人"の倍以上。
酔った勢いで得物を振り回し、次から次へと"運び人"を血みどろに変えていく。
「マダマダマダ!」
左耳の裏、まだ念を込め続ける。
私が今までに描いてきた妖は、こんな数では済まされない。
「サエ!」
「沙月様、人使い荒いですねぇ。この後、帰ったら、お仕置きですよぉ」
「ァハハ!ソノトキハ、ソノトキ」
暗闇から、顔を真っ赤に染めた沙絵が出て来て、飛び出していく。
刀を片手に飛び出した沙絵は、すぐ目の前にいた"運び人"を粉微塵に切り刻んだ。
「エッ、ダレ?アッ、アァ、モシカシテ、センセイ?」
「当たりぃ。Good Morning !! 入舸さん、随分可愛くなっちゃって。そのお耳」
次に出てきたのは、見知らぬ骸骨。
その顔は、見覚えのある"担任だった頃の姿"に変わって、酒瓶を片手にお道化て見せた。
「モウ、アナタニ、サカラエナイワァ、モウ、ニドト。ズット、アナタノ、シモベヨ!」
再び骸骨に変わって"祭り"に飛び込んでいく。
新しい骸骨、どの妖をやったかは知らないが、かなり強そうだ。
「フフフ、ァハハ!サァサァ、マダマダ!」
次々に出て来る妖達。
暗闇から出て来る勢いが衰える頃には、"行列"を成していた"運び人"達は蹂躙され尽くしていた。
「サテ、メアテ、サガサナイト」
刺青から手を離し、創り上げた暗闇を一旦刺青に仕舞いこむ。
刀を手に、"祭り"に様変わりした"行列"の中に足を踏み入れた。
「オット、コッチコッチ、マダ、ウゴケルヨ!」
踏み入れてすぐ、酔いどれの妖の"玩具"がよろよろと向かってくる。
それを3度切り刻んで、それでも、まだまだ動ける程度の体力を残して、最後にドン!と尻を蹴り飛ばした。
「ダンダン!ハヤク、コナイト、オワッチャウヨォー!」
騒ぎの声に負けず、声を張り上げて呼ぶのは、"ギター"を手にしたロッカーボーイ。
その直後、喧騒の中に甲高い"エレキギター"の音色が轟いた。
「遅刻した時に限って、楽しそうな事になってんだよなぁ」
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