77.万策尽きたとしても、ポケットの中には何かが隠れてる。
万策尽きたとしても、ポケットの中には何かが隠れてる。
自分の中で、出来ることを全てやりつくしたと思うだろう?
そういう時は、ポケットの中に手を入れてみればいい、きっと何か入ってる。
「オマエラ、イッテル、ショウヒン。ドノテイドカ、ワカランナ」
オレンジ色の光が差し込む"人間置き場"の部屋の中。
オレンジ色に染まった霧が覆いつくす部屋の中、葉津奇と段陀が退いた後、姿を見せたのはヤマシロだった。
「ヤマシロ。今更愚問じゃありませんか?」
「ソウカ?ドコマデ、ッテノ?ホシインダガナ」
床に倒れ伏せた私達。
周囲を鬼達に囲まれて、袋小路とはこのことだ。
「どこまで、とは?」
目の前で、鬼と28号の妖が言葉を交わしている。
その光景を、左目でしか眺められていなかった。
右目の辺りは、真っ暗闇な光景に、言葉にならない痛みがオマケに付いてくる。
激痛に表情を歪めた私の方へ、ヤマシロがゆっくり顔を向けた。
「エカキ、アイツ、ドコマデノコス」
「変なことを言いますね。ヤマシロ。5体満足でなければ商品になりませんよ」
「アイツラ、サキモリ。イマハ、アヤカシ」
「ええ、そうでしょう。でも、人は人。妖になんてなれやしませんよ」
「おい、葉津奇。あの女狐は」
「黙れ!段陀。お前は"減った商品"を補填してこい!さっきので幾つ減らした?」
「知るか。燃料にはなるんだ、大して価値は変わらねぇよ」
一枚岩には見えない妖達。
その隙に、痛みが走る顔の右側へ残っていた呪符を2枚、血と肉の狭間に貼り込んで念を流し込む。
「ム!」
ヤマシロの取り巻きの鬼が声を上げる。
その声は、丁度私の背後。
ピクッと、頭が動いて、それが体に伝わった。
一突。
右脇の下から、血濡れた刀を突き刺す。
「ウッ!」
感触あり。
ニヤリと顔を歪め、手にした刀をグルリと半回転。
鬼の硬い皮膚を貫いた刀が、鬼の体の中を抉りまわす。
「カハァ!…」
刀を抜くと、同時に背後で何かが落ちる物音が1つ。
目の前に向けられた目は、言葉を失った3つの妖に向けられた。
葉津奇に段陀に、ヤマシロ。
間合いの一歩外で話し込んでいた彼らは、私の立ち姿を見て言葉を失っている。
「ドウカシタ?」
右手に刀、左手には番傘、両手を開いて不敵に立つ私。
その背後、ボヤっと金色の光が差し込み、斬り伏せた鬼がまた一人、"隠された"。
「モト、アトスコシダケ、ガンバッテネ」
バサッと傘が開く音が聞こえる。
「ああ…アア…!」
私の肩を掴んだ手、モトの手は、小刻みに震えていた。
「なぁ、これなら、お前達でも出来るだろう?」
葉津奇はそう言ってこちらに背を向ける。
逃すかと足を踏み込んだ刹那、目の前には鬼が立ちふさがった。
それが、騒ぎの切欠だ。
「シネェ!」
ヒュッと振られた金棒が、目の前に2本、視界を塞ぐ。
1本を躱し、鬼に刀を突き刺し進み、もう一本は番傘を犠牲に押しのけた。
背後では、真っ黒な光が辺りを照らしている。
爆発音と共に、鬼の悲鳴が聞こえてきた。
今は、鬼なんざどうでもいい。
向かうは葉津奇の間合い。
段陀はもう、居なかった。
「マテェ!」
足を踏み出し、彼の背中を掴みあげ、そのまま倉庫の真ん中へと放り投げる。
所詮、妖と言えど人に化けている間、その体は人そのもの。
妖の力が籠った腕力では、葉津奇も抵抗の素振りを見せない。
その一瞬の間に、周囲の光は、オレンジ色から黒に変わり、やがて金色へと変わっていた。
「しつこいですね」
投げられて、転がされ、起きた葉津奇の首筋に、刃を鋭く振り下ろす。
一閃。
「やれやれ」
刀に付かなかった葉津奇の血。
刀に目を向け、目を見開く私の先。
彼の首は他の鬼たちの様に転がり落ちなかった。
「鈍らな刀じゃ、オデ達は貫けませんなぁ」
手を後ろに組んで、飄々とした態度を崩さぬ葉津奇。
驚く間に、さっきと同じ衝撃が、今度は後頭部に伝わって来た。
後ろから、前へ。
一瞬、意識が桜の木の下にまで飛んで、戻ってきたころには体が宙に浮いている。
「グゥッ!…」
飛んだ先、葉津奇の見下ろす丁度目の前。
目を細め、頬を吊り上げ、真っ白い歯が覗く彼の顔は、逆光に当てられて、影になって見える。
「沙月!…カハ!」
「馬鹿正直ですねぇ、2人とも」
私の失態に、動きを止めたモトの体を"霧から出てきた手"が貫いた。
そんな時に、私の体は動かないし、私の頭も働かない。
「おっと、商品のままにしなければ」
貫いた手はすぐに抜かれ、モトの体から再び大量の血が噴き出てくる。
ゆらり、力なく倒れ込むモトの体。
グシャっと、聞きたくない音が耳を劈く。
「っと?ヤマシロ、お前しか残りませんでしたか」
「ラシイナ」
「良いでしょう。補填は楽ですし。それよりも、防人が採れたとは、大金星ですねぇ」
満足げにニヤつく葉津奇とヤマシロ。
倒れ伏す私達の間で高笑いを始めた刹那、天井に開けた風穴から、何かが降って来た。
「気を付けなさいって忠告を聞けないのは、相変わらず治らない様ですね」
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