75.キリが無いのであれば、強引にでも区切りをつけた方が良い。

キリが無いのであれば、強引にでも区切りを付けた方が良い。

終わりが無い物に何時までも付き合ってられるほど、私は出来る人間じゃない。

短く区切って次に進むのが性に合ってるんだ。


「どこに隠れてたんダ。コノ連中」


ヤマシロの言葉と共に聞こえてきた足音は、すぐに倉庫の外に大きく聞こえてきた。

ぞろぞろと集まる武装した鬼。

オレンジ色の光が差し込んだ部屋の中、彼らの体が妖しい影を描く。


「ゼッタイ、イキテ、カエサナイ」


ヤマシロはそう言いつつも、集まりだした鬼の中に紛れていった。

一番、図体もデカく、すばしっこい鬼だというのに、彼はまだ、何も仕掛けてこない。


「ハッ、悪代官カ。所詮、蕎麦シカ打てない鈍らか」


ヒュッと刀の血を、タンバの血を拭う。

そして、その切先を、私達を囲んだ鬼達の方へ向けた。


「モウイイ」


右手で刀を持ち、左手を鞘に当てる。

その左手を、すっと右手の袖に入れて、取り出したのは"赤紙の呪符"。

横に居たモトの、息を呑む音がハッキリと聞こえた。


「別に、私達はココをどうこうしようって気は無いんダ。見つけられれば勝ちサ」


呪符に念を込める。

薄黒い靄を放つ呪符。

周囲の鬼達は騒めきたつ。

やがて、小柄な鬼が雄たけびと共に突貫してきた。


一閃。


金棒を振り落ろす隙も与えない。

真っ二つに"千切れた"胴体。

即座に金色の光に包み込まれて"隠される"。


事の切欠には、この一瞬があれば十分だった。

手元の、薄黒い靄を纏った呪符を手から放す。


ヒラヒラと舞い降り、それが床に付く前に蹴りだして一歩前へ。

モトも遅れず付いてくる。

その先に鬼が2体、共に、私達の姿を見据えて恐怖していた。


構えた鬼。

背後で派手な爆発音。

鬼に何もさせずに斬り捨てる。


「流石に、アンタ方、数が多すぎるノヨ」


一言。

そう言って背後へ、見向きもせずに足を蹴飛ばす。

右手には血濡れた刀、左手でモトの腕を掴みあげた。


「うぉ!」

「ゴメン」


黒い靄が起こした爆発。

それは床に大穴を開けていた。


オレンジ色の光が差し込まぬ闇へ、躊躇することなく飛び込んでいく。

今の私は妖も同然、闇が"本領"だ。


落ち際、オマケに"真っ赤な靄を纏った"、"赤紙の呪符"をもう一枚。

頭上に投げ、ヒラヒラと舞ったそれは、やがて強烈な音と閃光をまき散らした。


耳と目を一瞬失い、その間、少しの間の浮遊感。

耳も目も戻ってきて、飛び込んだ先を見やれば、足元には何も無い、ただの床が見えた。


着地。

ちょっと遅れて降って来たモトを抱える。

そのまま周囲を見回せば、私の目はほんの少しだけ伏せられた。


「人だ!」

「ああ!助けてくれ!」

「おい!そこの人!おい!」


周囲に聞こえるのは、妖の声じゃない。

落ちた先、そこも、どうやら倉庫の様で、小さな窓からオレンジ色の光が差し込んでいた。

声量は徐々に増して行き、靄と埃が晴れていくにつれて、周囲の光景が鮮明になっていく。


「ナルホド、上は"運び人"の表の顔だったわけだ。マダ、ちゃんとした荷だったし」


穴の上から聞こえる喧騒を他所に、倉庫の四隅に所狭しと並んだ"ケージ"に目を向ける。

"現実"で言えば、その中に猿やら動物が押し込まれているであろう光景。

"異境"のそれには、小汚い人間が押し込められていた。


「うっ…」


酷い空気。

一瞬のうちに気分を害したモトに肩を貸す。

吐かないだけでも褒めてやろう。


「聞いてんのか!早く!奴等が来る!」

「いや…子供だぞ。あれも人じゃないんじゃ…」

「"男の方は"人だろ!女は化け物だが」


外野の声に、ほんの少し奥歯を噛み締める。

口角を吊り上げつつ、呪符を取り出すと、モトの首筋に貼り付けた。


「出よう。騒ぎを起こせば、奴等も暴れない」

「あ、ああ…うっ…えええ」


青褪めたモトの顔。

幾分かマシになったが、辛いものは辛いだろう。

助けを乞う人の声、その視界の中には、声も出せず、固くなって動かない者も居た。


「壁デモ打ち抜いて」

「やめろ!その先は隣家。狭いんだ。距離」

「チッ…出口はどこサ」

「え?あっ、見当たら、ない?」


もう一度舌打ち。

周囲を見回しても、牢屋が積み重ねられた倉庫から抜け出す道は見当たらない。

その最中、"外野"の声は更に高まっていった。


「無視するんじゃねぇ!早く開けろや!」

「化け物め、必ず殺してやらぁ!」

「おい!無視してねぇでこっち向け!」

「狐女!ソイツも攫ってきたんだろ。テメェ、タダで済むと思うな!」


檻の中の"動物"には、小汚いのに混じって、"素が汚い"連中もいるらしい。


「人に化けて攫いってるんだろ」

「俺等と違って、そのガキ、女々しいな。テメェの趣味はソイツか?え?」

「男!その女に食われた感想でも言ってみろよ?」


ガタガタと揺れる牢屋。

肩を貸したモトの顔色は徐々に元の色を取り戻す。

その横で、私の脳は、沸騰寸前。


「女狐、お前は、人じゃねぇ!人に化けた、紛いもんだ!くそったれ!」


誰のものかも分からない声に、私の中で何かが切れる。


「アア、ワタシ、ヒト、ジャナイ。イマダケネ!」

「アア、ソイツ、ヒト、ジャナイ。コノサキモ…」


ボソッと呟いた声、その声に、何者かの声が被さった。

刹那、ギターの音色と共に、空を斬る様な音が耳に届く。


「!…沙月!後ろだ!…」

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