73.思いがけない展開になってしまえば、あとはアドリブを効かせるだけだ。
思いがけない展開になってしまえば、あとはアドリブを効かせるだけだ。
思いがけないってことは、想像して無かったことなのだから、考えるだけ無駄さ。
目の前に危機が迫っているのなら、何とかしてそれから逃れないと、その先は無いんだ。
「ケ!アンタ、グルだった訳か」
"運び人"の拠点の間近、仕事を終えて、後は帰って報告するだけになった私達の前に現れたのは、見覚えのある青鬼だった。
「アア、ノガサナイ」
腰に差した脇差に手を当て、そっと姿勢を沈ませる。
ヤマシロと、彼が引き連れた鬼は皆、鬼らしく金棒を手にしていた。
「モト、呪符を。容赦するな。"隠して"回るよ」
帰路を埋め尽くした大勢の鬼の前。
不敵に笑ってそう言った私は、パッと脇差を抜いて、モトの手を引いて奥の方へと駆けだした。
「はぁ!?」
真横から驚く声。
背後からは、モトと同じように驚きつつも追いかけてくる大勢の足音。
私は顔に貼り付けたニヤけ顔をそのままに、半分被せていた狐面で顔を覆った。
「帰してくれ無さそうだし。だったら奥まで見させてもらおう!」
狭い通路を駆け抜け、錠前を開けて、こちらをボーっと見ていた"運び人"の元へ突っ込む。
"運び人"は、こちらにギョロリとした目を向けたまま、何かを叫んでいた。
「テメェにゃ、もう用はねぇ!」
一閃。
"運び人"の首が弾け飛び、直後、金色の光が首を包み込む。
一瞬のうちに"運び人"を仕留めた私達は、錠前が外れた扉を突き破って奥へと足を踏み入れる。
「喰らえ!」
背後に迫る鬼。
モトが放った"黒く光った呪符"の爆発音と共に、幾人かの悲鳴が聞こえていた。
「モト、離れないで!」
扉の奥は薄明かり。
足は止めず、モトを引き連れ奥へ奥へ。
このまま行けば、やがて窓のある部屋にぶち当たるだろう。
「くっ…」
薄明かりの物置部屋。
奥へ行こうにも、すんなりと進ませては貰えない。
その間にも、背後から鬼が迫ってきて、その度に刀を払って牽制を入れる。
「あぶな!」
乱雑に積み重なった何かの荷物。
それを交わして進む私達。
鬼達はそれを吹き飛ばしてこちらに迫ってきた。
2体の鬼に追いつかれ、振るわれた金棒が目先を掠る。
寸での所で体を引いて躱して、背中に嫌な汗がドッと流れた。
お返しは一閃。
1体目の腕を薙ぎ払って切り捨て、そのまま胴を貫いてトドメ。
もう1体はそれを見て情けない悲鳴を上げる。
その刹那、真っ黒な光が私の視界を覆いつくした。
「待っ…!」
嫌な汗は掻きたくないものだ。
構えた刀をすぐに引いて、勢いを殺す。
開いた手は刀と反対側に吊るした番傘に伸び、掴みあげると即座にパッと開いた。
迫りくる鬼たちのド真ん中。
そこへ小規模な爆発が1回。
爆風を傘で受け、トン!と床を蹴飛ばして積み重なった荷物の上に退避。
はらりと狐面を留めていた紐が切れ、素顔を晒す。
「私に当てるなよ!?」
「言ってる場合か!!」
慌てふためく鬼たちに、痛がる鬼たちを眼下に見る。
その光景に、金色の光が混じると、"倒れた"鬼たちがその光に"隠された"。
「ソりゃ、そウカ」
図らずも荷物の上に乗った私。
傘を閉じて腰に戻し、そこから先を見通せば、奥には別の妖が待ち構えていた。
そこは、外からの光が入る、それなりに"広い"部屋。
「モト!コッチ、キテ!」
「沙月、その声…」
「いいカら!」
足場にした荷物、くっと足に力を込めて部屋の奥に飛んで行く。
落下地点には何も無い、スッと降りると、そのまま奥へ奥へと突き進む。
光が差し込む所までやって来ると、部屋の隅で"運び人"達が恐れを成して震えていた。
「なんダ。コイツ、戦いはしなカッタのカ」
刀を見せ、付いた血を振り払うと、彼らは悲鳴を上げて外へ逃げ出す。
私に追いついたモトは、私の方を見て固まった。
「沙月…」
「ナニ?」
「いや…」
そのタイミングで、いつの間に切れていたのか、着ていた和服の肩がはらりと切れる。
サラシを巻いた胸元が少し晒され、その周りには、数枚の呪符が貼り込まれていた。
「用心、スルモノ、でしょ?」
落ち着けば、まだ"人"に戻ってこられる。
ふーっと溜息を付いて、ゆっくりと振り向くと、ヤマシロをはじめとした鬼の面々が来た道を塞いでいた。
「まだ、やる気?」
血を拭った脇差を鞘に収めて一言。
脇差を握っていた手は、打ち刀の柄に触れる。
「グモンダナ」
幾人か"隠した"と言えど、鬼の数はまだまだ多い。
私の刀と、モトの呪符を見ても、彼らが怯む様子は無かった。
「今日は蕎麦と天ぷらシカ食べてナイって言ってさ、その後デ酒でも飲もうカナと思ってたんダケド!」
肩の、切れた箇所を乱雑に破り捨て、刀に当ててない方の手に呪符を2枚取り出すと、右腕に貼り付け念を込める
「そっかー、ザンネン。ザンネン、ダナ」
触らなくても、顔の傷が深くなっていくのを感じる。
体は軽く、耳に届く喧騒は、まるで普段と違う届き方だ。
抜刀。
さっきよりも一回り長い刀身が、オレンジ色の光に当てられ妖しく光る。
構えて、スッと柄から切先まで、刀身を撫でていくと、妖と化した私の顔が映り込んだ。
「コロサナイ。サキモリ、アヤカシヲ、カクスダケ。ソレガ、シゴト」
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