31.化けの皮が剥がれたならば、あとはオマケを1つ付けるだけだ。

化けの皮が剥がれたならば、あとはオマケを1つ付けるだけだ。

そのオマケをどうするかは、まだ決めかねているけれど。

折角の休日を無駄にされたのであれば、多少は手心加わったって文句は言われまい。


「どんな体なのかな」


呪符に念を込め、青い靄が周囲を包み込む。

その呪符を手からそっと離すと、フラフラ宙を漂い、伊達男の額に張り付いた。


「…こっちは、大丈夫だと良いんだけど」


呪符が男を"元に戻す"間。

抉られた左腕と止血しない後頭部に呪符を貼って傷を癒し、抱えた女の子の様子を見る。

顔色は悪いまま、頬に手をあててみると、凍える程に冷たかった。


「脈はあるし、呼吸もしてるけど」


首筋に手をあて、口元に手をかざして、とりあえず生きている事だけは分かって一安心。

だが、伊達男の放つ"瘴気"に犯されている様で、このまま放っておいては危険だ。


「絵描きィィィィィィィィィィィィ!」


青い靄が晴れてゆく。

視線の先、現れたのは、先生並みに小柄な骸の妖。

180cm以上ありそうな、大柄だった見た目からは想像が付かない程に華奢な本性。


「その見た目じゃ、多少背伸びしたくもなるか」


細い骨で構成された妖…渋い男に化けていたとは思えない程の姿に、思わず口元が緩む。

最早、表情を作れない骸は、煩いほどに歯軋りして感情を露わにしていた。


「カイタイシテヤル…」


元の光景に戻ったロマン交差点の隅。

人の目には見えぬ妖が、私を見つめて唸りを上げる。

唸りを聞き流し、周囲に目を向ければ、一部の人には私達の異様さが伝わっているらしい。


左袖が破れたコートを着た狐面の中学生と、ぐったりした同じくらいの女の子。

隅の方、影の中にいるからまだマシだが、注目を浴びればどうなるのかは明白だ。


「あの…大丈…」


背後から聞こえる誰かの声。

その声の方に目を向けた時、目の前の骸が動き出した。


「大丈夫です!」


少女を抱きかかえ、圧雪の上を蹴り飛ばす。


「ウルァアアアアアアアァ!」


舞い散る雪煙。

声をかけてくれた男の人が、驚いて尻餅をついた様が横目に見えた。

だが、足を緩めることはしない。

少女を抱えて路地に駆け込む。


「マテェ!エカキィィィィイイイイ!」



ピアスと狐面をつけていれば、妖の様なものだ。

女の子を抱えたまま、結構な速度で駆け抜けてゆく。


観光街から一歩路地に入れば、そこは普通の住宅地。

そこから狭い路地に入り、緩やかな坂を登って行けば、観光街の喧騒は遠くに消える。


「逃げろー」


緊張感のない声を上げ、向かったのは坂の頂上。

民家も疎らになり、周囲には木々が目立つようになってくる。

雪が積もり、普段は階段で上がれたはずの坂道。

登り切った先にある神殿を目掛けて、グッと足に力を込めた。


「よっとぉ!」


踏んだら埋まりそうな雪の山を飛び越える。

抱えた少女をギュッと身に寄せ、着地地点に目を向けた。

人の手が入っていない雪、直ぐ近くの石を見て、多少埋まる程度だろうとタカを括った。


「ふー…」


誰もいない、神社の境内に着地する。

抱えた少女は、さっきまでと変わらない。

早いところ、ケリをつけた方が良さそうだ。


「イタァァァァァァ!!!!!!」


背後から聞こえる男の声。

コートのポケットから、"赤紙の呪符"を取り出すと、そっと念を込めた。


「シネェェェェェェェェェェ!!絵描きィィィィィィィィィィィィィィ!」


手元で、呪符は"赤い"靄を放つ。


「所詮、"猿山"の猿よ」


少女をしっかり抱きかかえ。

背後から聞こえる、空を切る音を捉え続けた。


ゆっくり立ち上がり、そっと後ろを振り返る。

迫ってくるのは、歪な組み合わせの末に生まれた骸骨の化け物。

何処に隠していたのか、さっき見た時は無かった"太い骨"が、私を目掛けて飛んできた。


「まだ、先生の方が怖かったなぁ」


呪符を手にした右手を、向かってくる骸に突き出す。


「見てくれは大事だわ。なぁ?ロリコンマッチ棒さんよ!」


ボソッと呟いた刹那。

骨が呪符を貫いた。


「ガッ…!?」


赤い靄が、一瞬にして周囲を包み込む。

手にした呪符は骨に貫かれ、そこから四方にヒビが貫き四散した。


ニヤリと笑って手を握る。

四方に飛び散った真っ赤な靄は、手の動きに合わせ"戻って"来た。


「キ…サ………」

「爆ぜな」


一瞬、時が止まった。

刹那、目の前に、真っ赤な火球が出来上がる。

"人の世では見る事の出来ない"炎が舞い上がった。


「……」


爆風と共に、砕け散った骨が降り注ぐ。

それを手で抑え、少女に当たらぬように身を屈めた。


骨の嵐は、数秒で去ってゆく。

体に付いた骨を払いのけ、目を開けて立ち上がる。

目の前には、頭蓋骨から背骨の一部を残し、他が全て燃え尽きた骸の姿がそこにあった。


「グ…ギギギィ…ァ…ァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


辺りに劈く骸の絶叫。

苦笑いを浮かべて目を細め、喚き続ける骸に、新たな"赤紙の呪符"を見せつけた。


「エカキィィ…!コロス!ゼッタイニ!ゼッタイニ!ゼッタイダァァ!!!!!!」


身を捩り、力の限り叫ぶ骸に向けるのは、"金色に輝く靄"を纏った呪符。


「"向こう"でも、上手くやれることを祈ってますよ。それじゃぁ、これで、終わりです」

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