第14話 できるのだ。-プーブリウス・ウェルギリウス・マーロー-
アリアはハンターと言っても仮であり経験は全く無いに等しい。そればかりか、その実まだ15歳になったばかりの女の子である事にも変わりはない。
拠って体力的にも辛いハズだとハロルドは考えるようになっていた。試験官だから……何かあったらルミネや少女に自分が殺されるから……なんてコトよりもアリアの身を一心に考えていたのだった。
だからアリアの返答次第では自分一人で何とかするつもりでいたとも言える。「魔界」にいた時のハロルドならそんな事を考える余裕も無く、一心不乱に剣を振るって玉砕していた事だろう。
だが今はその時と比ぶべくもない程に成長している……が、それでも無事に切り抜けられるかは五分五分といった感じだった。
シャシャッ
シャッシャシャ
シャシャッシャッ
複数の魔術に拠る矢が向かって来ていた。今回の
その事から敵の正確な数は分からない。矢の本数で大体の数を察知出来るだけだった。
前衛のハロルドの間合いの外からの攻撃で、二人は1か所に固まっている。アンディは随時迎撃を行ってくれているが、このまま集中砲火を受ければ手詰まりになるのは目に見えていた。
「かなりマズい状況だな……。——仕方無い。デバイスオン、ガンモード」
ばしゅッばしゅッ
どぉんッどぉんッ
ハロルドは自身のデバイスを
敵の居場所が見えない為に、苦肉の策としか言いようの無い作戦だった。非効率な作戦と言っても過言ではないが、ヘイトが自分に全て向かない以上、前衛であるハロルドに出来るのはこれくらいの事だけしかなかった。
「おや?誰かが闘っておいでですね……困りました。さて、どうするべきですかね?ですが面白そうなので、少しだけ高みの見物と洒落込んでタイミングを見るとしましょうかねぇ」
ハロルドとアリアの闘いを見ている1つの影がそこにあった。しかしその影は二人の事など知らないし、余計な首を突っ込む気も無い。それ以前に、積極的に関わる事を禁じられていたのだから仕方無く、傍観者として滞在する事に決め込んだ様子だった。
「ハロルド、何か策はありますか?」
「こうなっては出来る事はありません。一度撤退して、様子を見るのが最善だと思いますよ」
ハロルドは向かってくる矢を弾き、魔力弾を放っているが
一方のアリアは
そして更にアンディは、魔術を並列処理して防壁の維持まで行っているが疲労は激しく、いつもの軽口は叩ける状況ではなさそうだった。
「どうすれば……。ここで逃げ出すなんて、イヤ!打開する手を考えなくちゃ。アルレおねぃちゃんなら、ミルフ師匠ならどうするかって考えなきゃッ」
アリアは心の中で呟いていく。思考回路を必死に巡らせ考えてはいたが、身体に積もりに積もった疲労も相俟って、反応速度も思考回路も鈍くなっていた。
それこそ、にっちもさっちも行かない、どうにもならない状況に変わりは無かった。
そんな時、一本の矢がアリア目掛けて飛んで来ていた。そして、その矢にハロルドもアンディですらも反応出来ずにいた。
強襲して来る矢に気付けなかったアリアが、それに気付いた時には既に相殺も回避も出来る位置では無かった。
走馬灯が巡るようにアリアの中でゆっくりとした時間が流れていく。
「あっ!これ……絶対、駄目なやつだ」
ぱしッ
「「「ッ!?」」」
アリアに当たる直前に矢は、見知らぬ男によって掴まれ、霧散していった。
それは予想の斜め上を行く展開であり、援軍かどうか分からないその男の登場によって二人とアンディは目を点にして驚いていた。
「おっと、つい……」
「なっ!いつの間に?」
突如として自分の背後に現れた気配にハロルドは驚きを隠せなかった。
自身に刺さるハズだった矢を文字通り目の前で止めた男にアリアは驚いていた。
「まぁ、止められていたんですけどね、この身体が気付いたら勝手に止めてました。何故でしょうね?仕方がありませんよね?この私の過失じゃありませんよね?」
「だ……誰だ?
「カッコイイお方……ぽわん」
男は少女の
だが、
「出て来てしまった以上は仕方ありません。少しだけお手伝いさせて頂きます。くれぐれも内密にお願いしますよ?だから、
「ッ?!」
コルネールから牽制を受けたハロルドは言葉に詰まっていた。そればかりか
一方のコルネールはその言葉の後で瞬時に姿を消し、周囲に群がり今も魔術を放って来ている
こうして一本、また一本と魔術の矢は数を減らし、
「ふぅ、適度な運動は気持ちが良いものです」
「助かった、恩に着る。だが、本当に何者なんだ?」
「あぁ、いえいえ、手を貸すつもりは無かったのですが、どうもこの身体が、そちらのお嬢さんを助けたかったようでしてね……。手を出させて頂きました。誠に申し訳ありません」
コルネールの紡ぐ言の葉の意味が、ハロルドにはよく理解出来なかった。だがそんな事はお構い無しにコルネールは、いつの間にか持っていた装置をハロルドの前に差し出していった。
「そうだそうだ。貴方達が探している召喚陣はこの装置ですので、参考程度にお渡ししておきます。これと同じ物があと10個程この付近に設置されておりますので、撤去して頂ければ
コルネールは言いたい事だけを言うと姿を消した。異論も質問も認めないと言った、早口で捲し立てられたハロルドは本当に意味不明だったが、その掌の上には渡された装置が「ズシッ」とした存在感を放っている。
「アイツは一体何だったんだ?それに……これが召喚陣?こんなモノで「魔界」から召喚出来るのか?」
「それはマナの集積回路を搭載してるみたいだから、召喚術式が中に組み込まれていれば呼べるんじゃない?それにしても、そんな機構を造るなんて、人間って面白いねッ☆」
「アンディが言うのなら、
「まぁ、それは何とかなると思うよ?」
「そうなのか?」
「うん。でもアリアが何とかなればの話しだけど……」
「アリアさん?何とかって……まさかッ!さっきの戦闘で怪我をッ?!」
ハロルドはアンディに言われた事を疑問に思ったのも束の間、もしやアリアの身に何かが起きたのかと、顔面蒼白になりながら振り返り……アリアの顔を見た途端に絶句した。
「うへへぇ、ステキなお方でしたぁ~。名前は何て言うのかしらぁ~。また会ってお話しがしたいなぁ~。えへへへへぇ」
「アリア……さん?」
ハロルドが見た光景……それは目の焦点が合っておらず、ただ
原因は言わなくても分かるだろう……。
「あ……アンディ、これはどうすれば治るのだ?」
「ハロルドがやってくれるなら教えるけど、自己責任だからねッ☆」
「な……何か凄くイヤな予感がするんだが……ちなみに、何をすればいいんだ?」
「頭を一発、思いっきり
「そ、それにしても、あの魔族、
「で、ハロルドどうするの?やるのやらないの?」
「わ……分かった。このままでは
ハロルドは決意を固めたような表情で握り拳を作り、アリアの頭上に掲げていった。その様子をアンディは見る事はせず、顔ごと目を背け、その後に響いた鈍い音を聞いていた。
ここは鬱蒼と茂る閑静な森の中、空には無数の星が輝いているが、森の中にまで到達出来る光は無い。
近くには民家も無く、あったとしても寝静まっているそんな時分……。鈍い音が僅かな時間響いた次の瞬間に、大音量の絶叫が閑静の支配を解き放ち周囲に木霊していった。
「いッたぁぁぁぁぁぁぁい、何をするんですかぁぁあああぁぁぁぁぁ。アルレおねぃちゃんとミルフ師匠に言いつけてやるんだからあぁぁぁぁぁああああ!!!!」
ハロルドは別の意味で死を覚悟するしかなかった。
不思議なカレラ 〜 Apocalyptic Human World 〜 酸化酸素 @skryth @skryth
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