おバカの国

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おバカの国

 あるところに、おバカの国がありました。

 その国にはな人たちしか住んでいなかったので、ほかの国から「あいつらはバカだから相手にしないほうがいい」と笑われていました。

 けれど、おバカの国には住んでいる人たちは幸せでした。

 しょうじきに生きることほど正しいことはないとしんじていたからです。


 ところが、それをよく思わない人がいました。

 おバカの国のとなりの国です。

 その国にはたくさんの学者たちが住んでいたのですが、おバカの国にとなりあっているというだけでほかの国からバカにされてしまうのです。


 それにおこった学者の国の王さまは、国でいちばんえらい学者にめいれいしました。

「おバカの国のやつらにすばらしいちしきをおしえてくるんだ」

 国でいちばんえらい学者はおどろきました。それでも王さまのめいれいですから、さからうことができません。

 学者はその日のうちにじゅんびをして、次の日の朝にはおバカの国へやって来ました。


 学者はまず、おバカの国の王さまのところへゆきました。

 しかし、王さまもバカでした。

 学者がなにを言っても「みんなはやりたいようにやっているんだ。あなたもやりたいことをすればいいさ」と言うだけなのです。

 王さまのとなりにいる大臣も、ときどきうなずいているだけです。

「王さま、そんなことではいけませんよ。もっと国民が国のためにはたらいて、たくさんお金を得られるようにしなければなりません」

 学者はひっしになってせつめいしますが、王さまも大臣も学者がなにを言っているのか、さっぱりわかりません。

 そしてとうとう、王さまは玉座にすわったままいねむりをはじめました。大臣も立ったままうとうとしています。

「もういい!」

 学者はおこってお城を出ていってしまいました。


 次に学者がやってきたのは畑でした。

 王さまがだめなら、こんどは国民たちから国を変えようとしたのです。

 畑の周りには農民たちがすわっています。

「やあ、君たちはいったい何をしているんだい?」

「見てのとおり、畑しごとでさ」

「ふむ、今はおやすみのじかんかな? それならすこしだけはなしを」

「いやいや、今こうしてはたらいてるじゃあありませんか」

 学者には、農民がなにを言っているのかわかりません。

 だって、じめんにすわっているだけなのですから。

「ちょっとまってくれ、君たちはここにすわっているのがしごとだというのか?」

「はあ、それだけじゃありませんよ。ときどき空を見ることもしています」

 学者は農民のいうことにめんくらってしまいました。そして、かおをまっかにしておこりました。

「そ、それは! しごとではない!」

「はあ、でもオラのかぞくはなん年も前からこうしてはたらいているんですよ」

 学者はあたまがいたくなりました。おバカのくにではなにもかもが、ほかの国とはちがうのです。


 そして学者はおバカの国の人間を広場に集めました。

「これからなにがはじまるんだ?」

「なんでもとなりのくにの学者先生がしごとをおしえてくれるんだそうだ」

「しごとならまいにちしてるけどなあ」

 おバカの国民がみんな集まったころ、学者は台の上に立って話しはじめました。

「君たちのしごとはしごととは言わないんだ。しごととは頭を使う、とてもたいへんなさぎょうのことなのだ」

 それから学者の話は夜になるまでつづきました。

 おバカな人たちはもうほとんどが立ったままねむってしまいました。

 それに気がついた学者はひとつせきばらいをしました。

「今いったとおりのことをすればきっといい国になるはずだ。あしたからは正しくはたらくんだぞ」


 つぎの日、学者が畑を見にいくと農民たちがおおさわぎしていました。

「なんだ、なれないしごとにとまどっているのか? どれ、私が見てやろうじゃないか」

 するとそこには、じめんにうずくまっている農民がたくさんいました。

「おお、こりゃいてえ」

「こっちはしたに石がうまっているからもっといてえぞ」

 農民たちはあちこちでじめんにあたまをぶつけています。

「おいこら、これはいったいどうしたことだ」

 学者がたずねると、あたまにたんこぶをいっぱいつけた農民たちがこたえました。

「へえ、学者先生の言うとおり、頭を使ってたいへんなしごとをしているんです」

「たしかにこりゃあたいへんだ。頭がくらくらしちまうぜ」

「見ろよ、おいらは頭が切れちまったぜ」

「弱っちいやつらだな。おらは頭をぶつけてもぜんぜんいたくないぜ」

「そりゃおめえの頭がかたいからだよ。だからしごとができねえんだ」

 学者があっけにとられていると、農民のひとりが言いました。

「ほかの国の人たちもこんなたいへんな思いをしていたんだなあ。頭が上がらねえってのはへとへとになってしまうからだってやっとわかったぜ」

 学者は頭をかかえるしかありませんでした。

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