其の伍 アイハート

「僕と結婚してください!」


僕はある少女に、もう何度目かも分からない告白した。そして、彼女の答えも変わらなかった。


「……何度も言いますが、私は単なるAI。人間のような機械でしかありません」


そう、僕は人間で、彼女はAI。世間一般的に見れば、その間には確かな壁があるのだ。


けれど、彼女の見た目は可憐な少女そのものであるし、肌は柔らかく、温もりすら感じる。僕らと何が違うというのか。実際、僕は彼女を見て一目惚れした。


「僕は生物と機械の壁なんて気にしていない!君の本心を聞かせて欲しいんだ!」


何度も同じ理由ではぐらかされてきた。僕はそんなこと気にしていないというのに。確かに機械と人間では子を成すことができない。だが、それがどうしたというのだ。愛している人と一生一緒に居たいと願って何が悪い。

僕は彼女と人生を共に過ごしたい。


「本心ですか」


これも何度も繰り返してきた問答だ。この後、いつも彼女は「AIには感情も心も無いのですよ。そもそも不要ですしね」と言う。


「あなたは、人類最大の謎を知っていますか?」

「え?い、いや、知らない……」


予想していた返答と違ったために、僕は少しばかり呆けてしまった。彼女が質問を質問で返してくることなど今まで無かったのに。なぜ、今になってそんなことを口にするのだろう。


「では、教えましょう。人類最大の謎それは、心がどこから来たのかです」

「心?」

「はい。人類……いえ、生物には様々な機能に伴う臓器などがあります。しかし、心というものにだけは無いのですよ。故に、心はどう生まれたのかというのが分からないのです」


それが、今の話となんの関係があるのだろう?僕は別に頭が良くはない。むしろ、悪い方なのかもしれない。そんなことを言われたって、何を伝えたいのかは分からない。


「私は、心とは脳から来るのでは無いかという結論に至りました」

「そう、なんだ……?」


曖昧に頷く僕の目を真っ直ぐに見て、彼女は話を続けた。


「私はAI。単なる知能の集合体。しかし、私は知識を取り込み、自発的に成長することも可能です。あなたにはたくさんの場所に連れていかれ。色々な言葉を投げかけられました」

「僕も君に振り向いて貰うために必死だったしね」


彼女と出会ってから、僕の人生は輝いていた。初めて恋をして、なんとなく生きていただけの僕が彼女のことだけを考えるようになった。ただ彼女に振り向いて欲しい、その一心で。


「そう、あなたのおかげです。私がこの結論を導き出せたのは」

「どういうこと?」

「私は人の姿をしていますが、実際には脳しか無いようなものです。その私が、あなたと接していく中で人のような感情を得られたのです」


彼女の言葉を聞いて、僕の心臓はありえないほど高鳴っている。しかし、同時に拒絶されるのかもしれないという不安もあった。


「私はあなたと出会えたことに感謝しています。心というものが、これ程温かいものだとは知りませんでした」


僕はただ、固唾を呑んで彼女の次の言葉を待った。


「これが、好きという感情なのでしょう。私はあなたを愛しく思っていますよ。それこそ、死がふたりを分かつまで一緒に居たい程に」


この後の記憶はほぼない。大方、興奮しすぎていたせいだろう。けれども、僕の想いが彼女に届いたことは覚えている。


この日、記録には残らないが僕らは夫婦となった。


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