其の肆 紛い物の正義
「ねえ、この世に正義なんてものは本当にあるのかな?」
僕は友人に問いかける。これは、自分自身に何度も聞いた。けれど、答えは見つからない。僕がやったことは本当に正しかったのだろうか。
「ねぇよ。そんなもの」
意外にも彼はスパッと答えた。いや、こいつは前からこんな感じか。
「正義なんてのはただのまやかしだ」
ああ、そうなのかもしれない。でも、彼女の言ったことが頭から離れないんだ。
『あなたは悪魔です。あなた達は正義という名の都合を掲げ、悪を実行している』
初対面の人物に、こうも心を揺らされるとは思わなかった。彼女達は邪教徒だ。それは間違いない。なら……
「じゃあ、悪は存在するのかな」
「するさ」
正義は無く、悪だけが存在する。そう言うのか。
「世の中には、なんの理由もなく殺しをする奴もいるんだ。俺たちはしょうもない理由があるだけマシだよ」
しょうもない……確かにそうかもしれない。上からの命令で僕らは人を殺している。こいつの理論で言うなら、限りなく悪に近いのだろう。
「なら、正義って何?」
僕は友人に問いかける。僕の中の正義は神のための正しき行い。でも、僕の中でそれは揺らいできた。
神のため、なんて司祭たちは言うけれど、僕は神のお言葉を聞いたことがない。
「そりゃあ、自分や第三者にとって都合のいい方だろ。で、都合の悪い方が悪だ」
そうなのかもしれない。
「だから、もう忘れろ」
「うん、そうするよ」
考えても自分を苦しめるだけだ。
彼女達のことを忘れるために僕は酒を煽った。
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