第3話 悩む女伯爵
豪奢な机と、座り心地のよい特注の椅子。壁にはたくさんの本が並ぶ伯爵家の執務室にて。
後世の歴史家から希代の悪女と称されるアンヌ・ジャルダン・ド・クロード・レヴァンティン女伯爵は、真剣に悩んでいた。めずらしいことに。
美貌にも地位にも力にも恵まれて、おまけに頭の回転も速い彼女は、悩みを抱えるということがめったにない。抱えるほどになる前に持ち前の実力でどうにかしてきた。
陰湿な王子様から無理やり謀叛を企てた犯罪者に仕立て上げられた時も悩まなかったし、空気の読めない中央の官僚が脱税の罪で彼女の荘園にちょっかいをかけた時も悩まなかった。
彼女の手には、ドグサレ・カオダケ・イケメン・ゴウカンスキ(47)からの招待状がある。
二時間以上も前からその招待状を何度も何度も読み返して、何かいいアイデアが浮かばないものかと悩んでいるのだった。
(どうしたものか)
アンヌの悩み。
それは飼っているネコチャンを悪人にさらわれたことでも、その悪人に脅されていることでも、ましてや自分の命に対する心配でもない。
戦えば勝つ。
それは分かっている。アンヌには分かりきっている。不幸な事に、ゴウカンスキ一味の方はそうではないらしいが。
今回の『ネコチャン誘拐事件』を起こした愚かな犯罪集団とその元締めについて、アンヌが何者かを知っている者ならば例外なくこう考えただろう。
『遠回しな自殺方法を考えついたもんだ……』と
問題は、勝ち方だった。
つまりは過程だ。
(どうやったら一番、絶望と恐怖を与えられるかしら……?)
大切なペットが殺されるかもしれないとか。
自分の身に何か危険な事が起こるかもしれないとか。
そういう次元の話ではない。
大勢いる犯罪集団の一部を取り逃がしてしまうかもしれないとか。
犯罪集団の仲間や遺族が報復してくるかもしれないとか。
そういう懸念すらしていない。
『どういう方法で皆殺しにするのがベストなのか?』
後世の歴史家から希代の悪女と称されるアンヌ・ジャルダン・ド・クロード・レヴァンティン女伯爵は、真剣に悩んでいた。
名探偵アンヌ女伯爵「最終的に全員殺して解決すればよろしいのですわ」 鶴屋 @tsuruya
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