零章 黒川邸(前編)

 宿に着いた川上たちは森には入らなかったが狂見を探し回った。しかし、狂見の姿は発見できなかった。

 「みんな、落ち着こう。いったん宿に入って温まろう。もしかしたら狂見は宿に向かっているかもしれないだろ?ここで待っても風邪を引く」

と海藤が言う。全員が頷き宿に入った。

 「順番に入りましょう。話はそれからね...」

 「そうですね先輩。なら女性陣から入ってもらって俺らは後でいいから」

 「ありがとうございます、先輩」

 「じゃあ、入ってくるわ」

と本庄と浅墓は言うと風呂場に向かった。残された海藤たちに沈黙が流れる。色々なことが起きてしまい頭が追い付いてこないのだ。この沈黙を解いたのは川上だった。

 「考えても仕方ない!二人が入っている間にできることをしよう、二人とも!」

 「そ、そうですね...川上先輩」

 「ああ、やるか!」

そう言うと三人は厨房へ行き食べられそうな食材で簡単な料理を作った。三人が作り終えた時に二人が上がり三人が風呂場に向かった。

 「さっぱりしたね、浅墓ちゃん」

 「はい...先輩...」

本庄と浅墓は布団を敷きながら言う。敷き終えた本庄が一息ついていると浅墓は下を向いてため息をついていた。

 「先輩...すみません。私たちにせいでこんなことに巻き込まれて...狂見先輩も帰ってこないし...先輩たちを巻き込んで...本当にごめんなさい!」

と泣いて謝る浅墓の頭を優しく本庄は撫でた。

 「泣かないで...大丈夫だから。あなたのせいじゃないから。ここに行こうと決めたのは私達よ。あなたのせいじゃない。狂見君も大丈夫。明日もう一度...探しに行きましょう?」

 「はい...先輩...」

本庄の言葉に浅墓は嬉しい反面苦しかった。浅墓は本庄の気持ちを知っていたからだ。


 (私...知ってるんだ。本当は本庄先輩が狂見先輩を好きだってこと...浴槽に浸かっている時だって一人で泣いてたこと...明日狂見先輩が見つかりますように...)


と浅墓は心の中で思った。ちょうど三人は風呂から上がり、本庄たちを呼びに来た。本庄たちは夕食を食べた後眠りについた。

 「明日、狂見を見つけて帰ろう」

 「「はい、絶対先輩を見つけます」」

 「そうね。狂見君は絶対見つかるよ」

 「そうだな!明日も早いし寝るか」

と本庄たちが眠るについたその時...例の井戸では雨が降り井戸にも雨水が溜まっていた。埃と泥水と蜘蛛の巣が絡み合い血の匂いがこびり付いていた。雷が鳴った時に死んだはずの女将の小指が少し動いた。

 翌日、本庄たちは森の入り口周辺や港を調べたが狂見は発見できなかった。後は森の中だけだが誰も入る勇気がなかった。いつの間にか昼頃になり帰るフェリーがやってきた。

 「もうそんな時間...」

 「先輩たち今まで本当にありがとうございました。私たちはここまでです」

 「このまま警察に出頭します」

 「...そうか。待っとるからな!また顔出せよ」

 「はい」

 「ありがとうございます」

と二人は頭を下げた。浅墓と佐久間が警察に連絡し帰りのフェリーと共に警察官が乗ってきた。二人はその場で逮捕されると思い両手を差し出したが逮捕されることは無かった。戸惑う二人に警察官が詰め寄った。

 「あの、私たちの逮捕は?」

 「え、あの...」

 「君たちを逮捕?何言ってるんだ?そんなことよりこの島を案内してくれ!」

 「「え、ええ...」」

 「私が案内します!二人が逮捕されないってどういうことですか?」

 「言葉通りです。逮捕しようにもここは無人島。女将どころか宿一つないですよ」

 「「「「!!!!」」」」

警察官の一言に全員が驚いた。女将どころか宿一つないとは一体どういうことなのか。混乱した本庄たちは一度警察官を連れて宿があった場所に向かうとそこには何もなく、井戸も建物すらないただの更地だった。


**

 狂見は目の前にある屋敷に驚き夢ではないかと疑った。しかし、目の前の屋敷は本物で夢ではなかった。混乱し立札を何でも見ても”黒川邸”とある。

 「嘘だろおい...来た道を戻れば!」

狂見は来た道を戻ろうとしたが天候が強くなり先に進めなくなってしまう。まるで狂見に戻るなって言って言うようだった。見るからに不気味な屋敷に足を踏み入れたくはないがこのままでは凍えてしまう。狂見は意を決してドアを開けて中に入った。中は埃まみれで汚く人が住んでいるとは思えない。このままと言うわけにはいかず狂見は声を出した。

 「すみません!どなたかいませんか?急な雨で濡れてしまった一晩だけ止めてもらえませんか?」

と言うが返事も人がくる気配がない。もうだめなのかと思った時に奥の方からガタっと音が聞こえ音の方を見た。

 「!!」

そこには一人の女の子?女性が車いすに座ってこちらを見ていた。彼女は気高く白い長髪をおろして左側だけ三つ編みをしている。透き通る様に綺麗な水色のドレスを見て両手は見えないのだろうか白い包帯を付けていた。彼女に魅入ってしまったが我に返った狂見は彼女に声を掛けた。

 「あの!俺、雨に打たれて一晩だけ止めてもらえないかなと思って...あの...」

 「......」

彼女は何も言わずただ茫然とこちらを見ているような気がする。彼女は狂見を指さすとやっと口を開いた。

 「出てって...今すぐここから出てって...」

 「え、でも...雨が...」

 「この住人たちが目を覚まさない内に出てって...じゃないと...」

 「じゅ、住人?」

 「あなたは...死ぬよ...」

 「え?」


 (俺が死ぬっていったいどういう事なんだ?)


と狂見が驚いている時だった。蝋燭が一瞬でつく屋敷内が明るくなった。

 「明かりが!」

 「...住人たちが起きたんだ。もう手遅れだ...」

 「あの...さっきから何を?」

 「死にたくなかったら...彼らのいう事を信じないで...彼らに本当のことを言わないで...それから私のことは言わないで...」

 「え?信じないでて何って...いない」

彼女のいう事が気になり顔を上げる既に彼女はいなかった。混乱する狂見の元に不気味な笑い声が聞こえてくる。狂見は屋敷内を見回したがその場には狂見以外誰もいない。狂見は姿が見えない笑い声に冷汗が止まらずドアを開けて屋敷から出ようと試みた。しかし、ドアはびくともせず開く気配がない。

 「な、なんでドアが開かないんだ?なんでさっきまで開いたのに!」

なんでも開けようとするがやはりドアは開く気配がない。混乱した狂見に笑い声はどんどん近づいてくる。狂見は姿が見えない恐怖に駆られて呼吸が荒くなった。ガチャガチャ...とドアは開かず音が響く。笑い声が傍まで聞こえ耳元に聞こえた時に狂見は自分の首を一瞬だが絞められた感覚に陥り息を飲んだ。一度振り向くがやはり誰もいない。その時狂見は先ほどまで聞こえていた声が聞こえていないことに気が付いた。

 「今首が絞められたような...気のせいか?声も聞こえなくなった...」

戸惑う狂見はもう疲れ切り深いため息をはいた。

 「ダメだな俺...疲れてるんだな...」

と呟きながらもう一度ドアに向き合うと見知らぬ男が立っていた。男を見た狂見は震えて叫びしりもちをついた。

 「うわああああああああああああああ!」

屋敷中に聞こえるぐらい狂見は叫んだ。


 (嘘だろ!なんで俺の後ろにいるんだよ!誰かが立ってるような気配は一切しなかった!そもそも俺は今までドアを向いて少し顔を向けただけだぞ!人が移動できるはずがないのに!)


狂見は目の前の見知らぬ男に恐怖した。狂見とドアの距離は近い。ましてや狂見に気づかれずにドアの前に立つことなど不可能なのだ。狂見は見知らぬ男を見上げていると男は狂見に話しかけた。

 「そんなにみられると私も恥ずかしいですよ」

 「あ、あの...すいません。いきなり叫んだりして...」

 「いえいえ...こちらこそお声を掛けようとしたところ驚かせてしまい、すみません...」

 「俺の方こそすいません...あの...この屋敷の方ですか?」

 「はい。私はこの屋敷...”黒川邸の主・シルバー”でございます」

と屋敷の主・シルバーは片方の手を胸に当てお辞儀をした。シルバーはその名のように髪の色はシルバーで立派な黒のハット帽子を被っていた。服は黒色だったが西洋の貴族の着るようなスーツを着ていた。一目見て彼が屋敷の主であることは誰が見ても分かるだろう。見た目はだいぶ若く20代くらいに思える。気になったのは右顔だけ無地の黒い仮面をつけているくらいだろう。

 「私の顔に何かついておりますか?」

 「いえ、立派なスーツだと思って」

 「ありがとうございます。この屋敷の主たるもの服装には気を付けておりますので...」

と言うとシルバーは首を横に傾けた。どうやら人と話す時や考え事をする時に首を傾ける癖があるようだ。狂見はシルバーを見てどうしたらいいのか分からず言葉を探しているとシルバーは口を開いた。

 「すみません、少しよろしいでしょうか?」

 「は、はい...」

 「あなたはなぜここに?」

 「ああ、そうですよね。ええと俺は...」

狂見は此処までの経緯を話そうとしたが先ほどの少女のことを思い出し咄嗟に嘘をついた。

 「俺は海藤といいます。俺は森で遊ぶのが好きで遊んでたら雨が降ってきて道も戻れなくなってしまって走った時に屋敷を見つけて...雨宿りさせてもらおうと思いまして...」

と苦しまぎれの嘘をついた。本当のことを言うなと言われたので咄嗟に狂見は海藤と名乗り、サークルのことを言わなかった。


 (調べに来たなんて言えないし、遊んでたなら通じるのか?戻れなくなったのは本当だけどまたこの位の嘘なら分かってもらえるかもしれない。けど...海藤って噓ついたのは俺だけどあいつが様呼びされてると思うとなんかむかつく!)


狂見はシルバーを伺いながら見ると話を聞いたシルバーはしばらく黙り何かを考えていた。シルバーは狂見を見ると頷いて言う。

 「なるほど...海藤様のわけは分かりました。では、我が屋敷で一晩ご寛ぎ下さい」

 「え、雨が止むまででいいですよ」

 「この悪天候じゃ...危険ですよ」

とシルバーに言われた狂見が近くの窓を見ると大雨はさらにひどくなった。

 「本当だ...大雨になってる」

 「そうでしょう?今戻れば逆に危険です。使用人と屋敷の住人には私からお伝えしときますのでご安心ください」

 「ありがとう...ございます」

 「いえ...海藤様はこの屋敷の大切なお客様ですから」

シルバーは懐からベルを取り出した。ベルを鳴らすとメイド服を着た貫禄のある女性と燕尾服を着た男性がやってきた。シルバーは二人に耳打ちした。

 「「かしこまりました」」

と言いお辞儀をすると狂見のもとへやってきた。

 「海藤様、私めはメイド長のCYNTHUA《シンシア》と申します」

 「私は、執事長のSEBASTAIN《セバスチャン》と申します」

 「か、海藤です。よろしくお願いします」

と続けて狂見も名乗った。二人は狂見を来客用の部屋に案内してくれるようだ。

 狂見は二人の後について行く部屋まで案内された。

 「ここがお客様のお部屋でございます」

 「あ、ありがとうございます...」

 「お食事はお部屋に付けられているベルでお知らせいたしますのでご安心ください」

 「準備が出来ますまでお部屋でお待ちください」

と言うと二人は狂見に一礼しどこかへ行ってしまった。廊下は立派な赤いカーペットが引かれ、蝋燭が燃えて明るく照らしている。ここは二階で他に部屋はあったが空部屋のようだった。分かりやすいように部屋の前には来客中と言う立札と名前に海藤様と書かれている。調べられるのはこのくらいで狂見は部屋の中へ入った。

 「広いな...想像以上だ」

狂見の部屋は広く立派な机の他に深く座れるソファーや紅茶を飲むコーヒーカップ等が置いてある。肝心なベットはお姫様が眠るような天蓋付きの赤いベットだった。

 「俺...今夜これで寝るのか?」

と思わずツッコんでしまった。狂見は一度ベットに横になり考えた。

 「俺...これからどうしたらいいんだろう?本当にあの黒川邸なのか。皆いい人だし、不気味で呪いだって言われるような人じゃない気がする。百年前の観光客だって宿の女将さんのせいだし...この屋敷は関係ないか...これはきっと夢だ。寝ればきっと醒める...それにしても...どうして屋敷が燃えて皆失踪したんだろう...」

狂見はそう呟くと目を閉じた。次第に眠たくなった狂見はいつの間にか眠ってしまった。


 狂見が寝てしまった時その時屋敷では...会議室に住人達と使用人たちが集まり真っ暗の部屋で話をしていた。

 「ようやく始められるのね。例のあのゲームが」

 「ゲームの...順番...どうする?」

 「「そんなの適当でいいよ!」」

 「俺先やりたい」

 「私はいつでもどうぞ~」

 「ええーつまんない」

 「面退くさ...」

 「そう言わないの着飾るわよ?」

 「僕が目が欲しいなー」

 「私はいつでも構いません」

 「皆様の意向に従いましょう?」

 「僕も同意見です」

 「どうせなら魅入られるようにしようよ」

 「俺は切りたい...」

 「同じく刺したい...」

と各々が意見を言っている。それは何に対してなのかは定かでないがまともではない。SEBASTAINがシルバーに話を振る。話をふられたシルバーは両手を組み言う。

 「私も楽しみだよ。やっとできるんだ例のゲームが...順番は前回同様ゲーム方式で行こう。私たちの誰が...”あれを殺すか”楽しみだよ」

と言うと口元を組んだ手で隠した。隠したシルバーの口元は笑っていた。シルバー同様に住人と使用人の口元は笑い不気味だった。笑ったシルバーは狂見について話し始めた。

 「そうそう...例のゲームの他に一人迷い込んだ人間がいる」

 「それって海藤っていう人でしょ?」

 「そいつどうする?」

 「考えがある。これまで例のゲーム日に来客は来なかった。もし彼が******なら生かす。しかし、彼が*****時は彼を殺す」

とシルバーは言った。話はそれでそれで終わり住人たちは各部屋に帰っていった。


 部屋に付けられているベルが鳴り狂見は目を覚ました。寝ぼけた狂見は変わらぬ状況に目が醒めた。

 「あ、あれ...なんで変わらないんだ。夢じゃなかったのか...そういえば何時だ?」

狂見は自身の持つスマートフォンを起動したがフリーズを起こし開けない。

 「くそ!スマートフォンが使えない。スマホが駄目なら何か時間でもいいから分かる物はないのか!」

狂見は焦る部屋中を調べたが何も見当たらない。困り果てているとベットの方から何かが転がる音が響いた。どうやらベットの下にあるようだ。狂見が手を伸ばそうとした時にドアがノックされた。狂見が返事を返すとSYNTHUAが言う。

 「海藤様...ベルでお呼びいたしましたが中々お姿が見られなかったので私が参りました」

 「すみません。少し寝てしまって...」

 「いえ、皆さまはまだお集まりになっていないのでご心配には及びません。海藤様はお客様ですからお迎えにあがりました」

とSYNTHUAにすんなり言われた狂見は思わず拍子抜けた声を出した。狂見はSYNTHUAに案内され一階へ向かった。道中で一階にあるある部屋が目に入った。そこの部屋の文字は汚れていて何の部屋かは分からない。しかし、ドアが少し開いて中の様子が廊下からでも見ることが出来た。


 (ドアが開いてる。何の部屋か分からないけど覗くくらいなら...!!)


部屋の中を覗いた狂見は驚いて思わずその場で立ち止まる。狂見が見たのは先ほどの謎の女性だった。彼女は上品な椅子に座り下を向いている。


 (なんで彼女がここに?椅子に座って寝てるのか?その割には動いていない...もしかして死んでるのか...)


立ち止る狂見にSYNTHUAは声を掛ける。

 「海藤様...一体どうなさいましたか?」

 「いや...あそこに座ってる彼女はいいんですか?」

 「座っている彼女?ああ...彼女ですか。ご心配には及びません」

 「だって彼女は椅子に座って下を向いて寝てるけど全然動いてないし、大丈夫なんですか?早く助けないと!」

 「ご心配には及びませんよ、海藤様。なぜなら彼女は人形ですから」

 「え?人形?」

 「はい...精巧に作られた人形ですから間違われても無理もありません。ここにいらっしゃるお客様は皆...海藤様のように驚かれます」

 「人形...彼女が...」

 「さようでございます。ここは人形室...精巧に作られた作品を展示し鑑賞する部屋でございます」

と、SYNTHUAに言われた狂見は訳が分からなかった。


 (彼女が人形...そんなわけないだろ。だってあの時俺に忠告したのは彼女じゃないか!なのに人形って一体どういうことだよ。もう訳が分からない...俺が見た彼女は一体何だったんだ?)


 混乱する狂見にSYNTHUAは興味がないのか狂見に声を掛け狂見は連れられるまま大広間に案内された。

 「ここは大広間でございます。こちらで座ってお待ちください。皆さまはすぐいらっしゃいます」

と言うとSYNTHUAは大広間を後にした。残された狂見は指示された場所に腰かけた。

 「言われた通りに大広間に案内されたけどまだ誰も来てないな」

狂見は周囲を見回した。壁には悪魔が人間を食い殺している絵画や人間が剣を持ち悪魔に戦いを挑もうとしている絵画など多くの絵画が飾られていた。どの絵画も不気味だったが共通しているのは”悪魔”だった。どの絵画にも悪魔が書かれている。大広間中に飾られている絵画のせいか誰かに見られている視線を感じている。

 「誰でもいいから来てくれ...どうしていつも誰かに見られている気がするんだ?まるであの旅館にいるみたいだ」

狂見はそう言いながら大広間を歩いていると暖炉を見つけた。


 (暖炉だ!でもほこりが被ってて使えるのか?これ...)


 狂見は暖炉を調べていると暖炉に写真が飾られていた。

 「これ...写真だ。映ってるのはシルバーと...よく見えないな」

写真は埃が被りよく見えず息を吹きかけると薄汚れていたが微かに見ることが出来た。写真は集合写真とシルバーの家族だろうかシルバーの他に四人が映った二枚の写真が飾られていた。

 「薄くて汚れてるけどなんとなく分かる。一枚目の方はこの屋敷の集合写真か?シルバーと後の二人はSYNTHUAとSEBASTAINか?他は分からない。使用人を含めないと全員で14人か。二枚目の方は家族写真みたいだな。シルバーの他に三人が映ってるな」

一枚目の集合写真は館の主のシルバーを真ん中に屋敷の住人や使用人たちが映っていた。二枚目は家族写真だろうかシルバーの他に夫人だろうか女性が椅子に座りその隣に娘が一人立ちシルバーの隣に息子が一人立っていた。しかし、肝心の顔は汚れていて見ることが出来なかった。

 「肝心な顔は見えないんだな。あれ...この写真に写ってる人数おかしくないか?使用人を含めないと住人って確か15人だろ?一人足りないような...そう言えば...この写真に写ってる女の子って...もしかして」

狂見が何かに気づいた時、突然大広間に付けられていた全ての蝋燭に火がついた。狂見は驚き咄嗟に案内された椅子に座るとドアに付けられたベルが鳴った。するとドアが開き住人が大広間に入ってきた。


 住人たちは個性が強く聞こえてくる会話も様々だった。ただ各々が不気味な雰囲気を醸し出している。そんな中狂見は近くに座る5人の住人に目が言った。

 「はあ...疲れた」

と椅子にだらけて座る黒髪の青年。じーとテーブルを見ており目の前の狂見は眼中に無さそうだ。

 「ねえねえ~今日の料理何かな~何かな~」

 「楽しみ?」

 「楽しみ!」

と仲が良く話している少年少女。二人は狂見の左前に座っている。仲がいいのは良い事だが同じ椅子に座っているのが不自然だった。よく見ると椅子は一人分しか用意されておらず仕方なく座っているのだろうか?

 「...」

と何も話さず礼儀正しく座る青年。彼は狂見の右前に座っている。彼らとは違い立派な青い燕尾服を身に着けている。好青年という印象で狂見も見とれてしまうほどだった。

 「眠い...」

と言う彼女は眠そうに欠伸をしていた。狂見の左隣に座る彼女の頭には緑色の液体が入った謎のビーカーと怪しい煙がたっているフラスコが刺さっていた。狂見は思わず二度見したが彼女の近くに座る住人たちが何も言わないので狂見は何も言わなかった。

 「SEBASTAIN、SYNTHUA~早く準備してー」

と言った彼は赤いフードを深く被り顔は見ることはできなかった。軽々しい口調で話しているが誰も相手にしていない。狂見の右隣に座っているが冷めた視線に狂見も苦笑いした。


 (俺はどうしたらいいんだ?招待されたとはいえ...)


 狂見が考えている中SEBASTAINとSYNTHUAによって料理が運ばれてくる。温かく美味しそうなスープに肉料理が置かれる。狂見が料理に気づくと住人達は全員手を合わせていた。狂見は周りを見ると自分を待っていることに気づき手を合わせる。シルバーを見るとシルバーは皆に合図し住人達は食べ始めた。


 (これで良かったのか?俺も食べるか...あれ?)

狂見はスプーンを持ちスープを飲もうとしたが手が止まる。何故か食べてはいけないと脳が警告しているようだった。食べない狂見に気づいた右隣に座る青年に声を掛けられる。

 「ねえ...食べないの?」

 「え?」

 「だって~全然進んでないから。お腹してないの」

 「お腹...」


 (考えたらここに来てからお腹はすいていない。食べなかったらまずいだろうか...どうしよう)


 「すいてないの?」

 「ああ...すいてない。何か悪い気がして...」

 「そう?なら僕に頂戴!」

と言う青年にSYNTHUAは注意した。

 「いけませんBELL様。海藤様のお料理を食べてはいけません」

 「だって~お腹すいてないって言ってるし~」

 「お腹がすいてないのですか、海藤様」

 「せっかくSYUNTHUAたちが作った料理だしな~ねえ?一口食べないの?」

とBELLに言われた狂見。


 この料理を食べる?食べない?

 (俺は...この料理を...)

考えた狂見はSYUNTHUAに謝りBELLに料理を渡した。

 「すみません...お腹すいてなくて...」

 「そのようでしたらしかたがありませんね」

としぶしぶSYUNTHUAは言う。


 狂見が一息ついた数分後に住人達は料理を食べ終えた。各々が部屋に戻るだろう。天候も良くなり狂見は礼を言うとシルバーも頷き席を立とうとした時だった。急に落雷と激しい豪雨がなり響いた。

 「嘘..やっとよくなったと思ったのに」

 「残念です。この様子じゃ帰れそうにないですね。今日は一晩泊ってください」

 「すみません...何から何まで」

 「いえ...大丈夫ですよ...そうだ。お茶などはどうでしょうか?」

 「お茶ですか?」

 「どうぞ召し上がれ」

 「あの...俺...喉も乾いてないので大丈夫です」

 「そうですか...」

 「すみません...せっかく用意してもらったのに」

 「...」

 「じゃあ...俺部屋に戻りますね」

 「やはりSYUNTHUAの入れた紅茶は飲めませんか...狂見奏君」

 「え...」

目の前に紅茶が置かれた。狂見は以前のように断り今度こそ席を立とうとしたがシルバーの一言で固まってしまう。


 (今なんて...狂見って言ったか?どうして俺の名前を!シルバーには本当の名前を言っていないなのに!)


 狂見が固まり恐る恐るシルバーを見るとシルバーは不気味に微笑みながら手にある物を持ち狂見に見せながら言った。

 「どうして嘘をついたんですか?あなたは海藤ではないでしょう?狂見君」

と言い狂見に見せたのは狂見の学生証だった。



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黒川邸と十五人の怪しい住人達 時雨白黒 @siguresiguro

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