序章 全ての始まり(後編)
森の中へ足を踏み入れた狂見は歩きながら周囲を見回した。百年経っているとはいえ独特な不気味さが残り気味が悪かった。周囲を観察するとその異常さが見て取れる。この森は雰囲気もあるが何より狂見が嫌悪したのは”誰かに見られているような視線”だった。
(何なんだよ。一体...宿と言いこの森と言い...なんでいつも誰かに見られている気がするんだよ)
狂見は視線の先に顔を向けるがそこには何もない。視線を向けると違う所からまた見られている視線を感じてしまうのだ。川上たちを見るが視線に気づいていないのか平気そうに歩いている。
(みんなは視線を感じないのか?それとも俺が敏感になっているだけなのか?そうだよな...この森は不気味な雰囲気だし、少し霧が出てるしで疲れてるんだ。気にしたらダメだ)
気持ちを切り替えるため一呼吸をした。しかし、視線は感じるが狂見は気にしないように別のことを考えた。すると、佐久間と浅墓のことが浮かんだ。二人のあの時の会話が気になった。聞きたいが聞ける内容ではなく悩んでいると川上が声を上げた。
「よし、ついたぞ!ここが例の観光客の遺体が発見されたと言われている場所だ」
「ここが...」
「百年前だからもう何もないね」
「あるのは印ぐらいか?」
百年前に観光客の遺体が発見された場所は影も形もなかった。唯一あったのは注意書きとされる印とかなり薄くなった血痕らしきものだった。
「百年経つと廃れるせいか何もないな」
「そうだね、調べてみても何もないし写真でも撮っておこうか」
「はい、本庄先輩」
本庄に言われた通り浅墓はカメラを取り出して写真を撮ろうとするがなかなか写真を撮らない。
「浅墓ちゃん、どうしたの?」
「い、いえ...な、何でもないです」
と言った浅墓の両手は震えていた。不審に思った狂見が訳を聞こうとしたが浅墓がシャッターを押した。写真を確認した本庄は上手く取れていたようで安心したが浅墓は何かに怯えているように見えた。狂見はやはり話を聞こうと思ったが先に海藤が声を上げた。
「よし、ここはあらかた調べてみたし、次の場所にいこうぜ!」
「そうだな。次は白骨遺体が見つかった場所だよな?」
「そこのほうが調べられるかもしれないね」
「...そうですね、本庄先輩」
と狂見が言うと四人は白骨遺体の場所に行こうとするが佐久間と浅墓はその場から動こうとしなかった。
「あれ?佐久間、浅墓どうした?」
「早く行こうぜ?」
「......」
「......」
「二人どもどうしたの?佐久間君、浅墓ちゃん?」
二人に声をかけるが二人は話そうとしない。本庄が二人に近づき声を掛けると浅墓が口を開いた。
「本庄...先輩...あ、あの...カメラ...」
「カメラ?カメラがどうしたの?」
「中身を見てください」
「中身?」
本庄は言われた通り見て見るが何の変化もない。狂見と川上と海藤も確認するが異変は何もない。海藤が不満そうに二人に言う。
「何もないじゃないか~もう、そう言う悪ノリやめろよ」
「違うんです...」
「え?違うって何が...」
「そうじゃないんです。森の奥...そこを拡大してみてください」
「拡大?」
浅墓に言われた通り海藤は森の奥を拡大してみることにした。その場所は崖になっていて本来は何もない場所だ。そこに何があるっていうんだ。
「拡大したぞ」
「よく見てください...その場所...」
「うん?何かいるな...」
と海藤の一言でその場が凍りついた。
「え?よく見せろ!」
焦った川上が海藤から掻っ攫うと見た。そこには確かに誰かが立っていた。
「いる...誰かあそこに立ってる...」
「「!!」」
真っ青な顔をする川上に続き本庄と狂見が確認するとそこには誰かが立っていた。しかし、その場所は崖で人が立てるわけはない。
「な、なんでこれ...」
「お前ら...いたずらにしてはやりすぎだぞ!」
「いたずらじゃないですよ!」
「だいたい、こんなの悪ノリすぎじゃないですか!」
「ならなんだよ!これ...心霊写真ってやつか?」
「調べてもらえればきっと...」
「心霊写真なんて今どき誰も信じてくれないだろ!」
「なら、どうするんだよ!」
と、皆が焦り口論しているが本庄は写真をじーと見つめていた。本庄が皆に声を上げると一斉に本庄の方を向いた。
「ねえ...勘違いだったらごめんね?」
「なんですか...本庄先輩?」
「この人影...よく見たらあの人に似てない?」
「あの人って...誰ですか?」
「女将さん...私たちが泊まった宿で急にいなくなった女将さんに似てない?」
と本庄が言うとその人影は女将に似ていた。
「確かに...似てる。もしかして...女将さんが?」
「ちょ、ちょっと待てよ。なんで女将さんがここにいるんだよ!女将さんは...」
「お暇になるって...死ぬってことなのか?」
「分からない。でも、ここに映るってことは女将さんは死んでたってことか?」
「「「「!!」」」」
狂見に一言で皆は青ざめた。体が震えて頭が真っ青になる。
「お、俺達...昨日女将さんと一緒にいたよな?」
「当たり前だろ?だって宿泊まったし、料理食べたし...」
「ほんとに女将さんって生きてたのかな?俺達本当に女将さんを見たのかな?幻を見てたのか、それとも...」
「なあ?いったん落ち着こうぜ...皆、この森から出よう」
と川上の意見に皆が頷いた。この森から一刻も立ち去りたいと全員が思っていた。その時だった。突然雷が落ち、雨が降り始め天候が悪くなった。急な落雷と天候の変化に狂見たち驚きの声を上げる。
「きゃあ!びっくりした」
「雷!なんで急に」
「雨まで降り始めた!」
「皆、ここは危ないからいったん宿まで戻ろう」
と本庄がいい狂見たちは走り来た道を引き返した。雷が鳴り響き雨はどんどん降り始めた。
「くそ、まだ着かないのかよ!」
「もう足が痛い!」
「霧が濃くなってきた。皆はぐれないで!」
「はい!」
狂見たちは来た道を戻っているはずだったがいつまで経っても戻る気配がなく、変わらない景色に気づき足を止めた。
「皆、ちょっと止まってくれ!」
「何言ってんだよ狂見!止まったって意味ないだろ!」
「どうしたの狂見君!早く降りないと!」
「俺だってそうしたいですよ...でも、気づくませんか?」
「気づくって何がですか先輩!」
「...俺達さっきから降りてるはずなのに降りられてないんだ。それに景色がさっきの場所と変わっていない...」
と狂見が言うと皆は周囲を確認した。先ほどの場所だった。
「な、なんで!距離的にもう宿についてるはずだろ!」
「なんなんだよ一体!」
「俺にも分からねえよ!」
「一体どうしたらいいんだろう?」
と狂見・川上・海藤・本庄が言い合っている時に浅墓と佐久間が取り乱した。
「きっとそうだ...」
「浅墓ちゃん?どうしたの?」
「俺たちのせいだ...」
「俺たちってなんだよ?」
「絶対そうだ...呪いなんだ」
「呪いって何言ってんだよ、浅墓。佐久間も止めろよ...冗談きついぞ」
と海藤が言うと浅墓は海藤に詰め寄って叫んだ。
「呪いです、呪いなんですよ!女将さんの呪いだ!絶対そうだ!」
「おおい...落ち着けって...呪いなんてあるわけないだろ?なあ、佐久間?」
「...呪いですよ、きっと...俺と浅墓は女将さんに呪われたんだ!だから傍にいた先輩たちまで呪いにかかって...」
「落ち着け!浅墓、佐久間。呪いなんてあるはずないだろ。とりあえず一度一呼吸しろ」
と川上は言い二人は指示に従った。一呼吸をしたふたりは少し落ち着いたようだ。川上は二人に訳を聞いた。
「よし、落ち着いたようだな、二人とも。訳を聞くからゆっくりでいいから落ち着いて話してくれ。二人と女将さんに一体何があったんんだ」
と質問をされた二人は顔を見合わせてゆっくりと小さな声で言った。
「ろしたんです...」
「うん?何をしたって?」
「すみません、浅墓は混乱して離せないと思うんで俺が言います」
「ああ、頼む。それで二人は何をしたんだ?」
「俺と浅墓は宿で...女将さんを殺しました」
「「「「!!!」」」」
と佐久間は言うと下を向き”すみません”と謝った。狂見たちは驚いたが過ぎには理解が出来なかった。
「俺と浅墓は宿で...女将さんを殺しました」
と佐久間は言ったが狂見同様、その場にいた全員が理解できなかった。
(今...佐久間は人を”女将さんを殺した”と言ったか?俺の聞き間違いか?殺した?本当に...殺したのか?)
(でも、そうなら女将さんが急にいなくなった理由も二人の宿での会話も納得する。けど...それがどうして呪いに繋がるのか分からない)
狂見は考えていたが佐久間の告白に誰の発言せず固まっていた。しばらく沈黙が続いたが本庄が口を開いた。
「少し聞いてもいいかな?」
「...いいですよ?」
「二人はどうして女将さんを殺したの?もともと女将さんを殺す予定だったの?」
「そ、それは...」
「私は二人とはサークル内で活動して長く過ごしていないけど二人が人を殺す人間だとは思えないんだ。訳があるならちゃんと話してほしい」
と本庄が言うと浅墓は泣きながら話し出した。
「違うんです...私も...佐久間も女将さんを殺すつもりはなかったんです!本当です!ただ...あの時...昨晩の夜に事件は起きたんです...」
「女将さんはただの宿を経営する女将じゃなかった。女将さんは”宿に泊まった宿泊客を殺して喰らう殺人鬼”だったんです」
と佐久間は言った。
**
時刻は昨晩の深夜に遡る。狂見が厠に言った後に浅墓も目が覚めた。
「ううん...トイレ、トイレに行きたい」
寝ぼけた浅墓だったが襖を開けると真っ暗の廊下を見て思わず襖を閉めた。トイレに行きたいが怖くていけず誰かを起こすことにした。
(川上先輩は茶化すし、海藤先輩は下品だし、狂見先輩はデリカシーがなさそうだし...本庄先輩か佐久間を起こそう)
浅墓は本庄に声をかけたが起きず佐久間に声を掛けると佐久間は起きた。
「うん?どうした...まだ深夜だぞ?」
「あの...トイレ行きたいから厠までついてきて欲しいの」
「ええええ~」
「お願い!ついてきてくれたら何かおごるから!」
「分かったよ。ちょうど俺も行こうかと思ってたし行こうぜ」
「ありがとう!」
と浅墓はお礼を言うと二人で厠に向かった。数分後、厠で事を済ました二人は階段を降りようとした時に、厨房が明かりがついていることに気が付いた。
「あ、明かりついてるよ。まだ女将さん起きてるのかな?」
「そうみたいだな。声かけるか?」
「そうだね。声かけようか」
と二人は厨房に行き女将に声を掛けた。しかし、集中しているようで気づいていなかった。気づかないなら言わなくていいんじゃないかと思い佐久間は先に二階に行き浅墓は女将が気づきまで声を掛けた。
「女将さん!」
「!!」
何度か呼びかけて気づいた女将はゆっくり振り返った。
「料理作ってくれてありがとうございます。こんな時間なのに起きてるから一応声かけようと思って」
「そうですか...今仕込みをしていたのです」
「仕込み?」
「はい...久しぶりのご馳走ですので...何年、何十年に一度食べられるかどうかですから...今日はご馳走です」
「そうなんだ。それはよかった。私が手伝えることはありますか?」
「お客様が手伝えること...そうですね。そこの戸棚にあるお皿を一つ取っていただいても?」
「あそこの戸棚のやつね。了解です!」
浅墓はそう言うと指示された通り戸棚からお皿を取り出そうする。取り出そうとしている皿は奥にありなかなか取れない。取り出そうとしている時に浅墓は女将に話しかけた。
「ごちそうってどんなやつなんですか?」
「それは私にとって最大なごちそうでございます...そのごちそうが今夜食べられるのが幸せでございます..」
「女将さんが食べるんだ。ごちそうなのにお皿はひとつでいいの?ところでごちそうの食材って何?」
と皿を取った浅墓は食器を戻しながら言うと女将が言った。
「それはお客様ですよ...」
「え?私達?」
と女将に言われた浅墓は驚いて皿を落としてしまい女将の方に振り向いた。すると女将がナタを振り上げていた。
「きゃああああああ!」
咄嗟にナタを避けたが浅墓の悲鳴を聞き佐久間が急いで厨房へ向かった。
「今の悲鳴!行かないと!」
佐久間は寝ている狂見たちを起こしたがなかなか起きず飽きられて走る。佐久間が厨房へ向かうと片腕を怪我した浅墓とナタを持ち襲おうとした女将がいた。
「な、なんだよこれ!浅墓、どうした!」
「おや?ここにもごちそうがいるとは...」
「はあ?ごちそうってなんだよ!」
「この人、私たちのことごちそうとして食べようとしてるの!」
「な!人を殺すて喰うって...人肉だろ...ふざけてるのか!」
「ふざけてはいませんよ。あなたも肉や魚を食べるでしょう?私の場合はそれが人肉と言うだけのことです」
「くそ!浅墓、ここは俺に任せて先輩たちを起こしに行け!」
「無駄ですよ...お客様には睡眠薬を混ぜた料理を食べていただきました...一度眠れば朝まで起きることはありません...仮に起きたとしても睡魔が襲ってくるはずです」
と女将が言うように睡魔が佐久間と浅墓を襲う。
「浅墓、眠いが寝るな!死ぬぞ!」
「う、うん...片腕を掠ったから痛みで耐えられそう」
「そうか、よかった」
「はあ...まったく...せっかく眠っていれば痛みなく死ねたものを...お客様には同情しますが...私のために死んでいただきます」
と言うとナタを持ち突っ込んできた。浅墓は佐久間の所へ向かう。女将は二人を追いかけてくる。眠る狂見たちを殺させるわけにもいかず二人は厠に隠れた。
「いったんここで女将を撒くぞ」
「でも、ここに来たら?先輩たちが殺されちゃうよ!」
「それを防ぐためにもここにいるんだろ?ここから階段で女将が二階に行ったか見えるしな」
「そっか、良かった...いて!」
「大丈夫か腕?」
「平気...」
「タオルしかないけど巻くぜ」
「ありがとう...その...佐久間ごめんね。私が誘ったばっかりにこんな目に合って」
「別に浅墓のせいじゃないだろ?悪いのはあの女将だ。あれは常習犯だ。今日が初めてじゃない。きっと前にも俺たちの他にこの宿で泊まって殺された人がいるはずだ。俺たちはその人たちの分まで生きなきゃいけない」
「佐久間...そうだね!」
「とにかく武器になりそうなものを持っておけ」
二人は掃除用具からデッキブラシとスッポンを取り出した。
「これ、トイレのつまりを直すやつじゃない?」
「箒より強いからいいだろ?待て、女将が」
佐久間は隙間から見える廊下の景色を見た。女将がナタを持ち廊下をうろうろしていたが再び厨房へ向かった。
「厨房か、あそこにはナタの他に武器がありそうだな。持ってこられたらやっかいだ」
「そうだね。ここ以外に隠れられる場所はあるかな?」
「外には倉庫があったぞ」
「そこに行こう?ここは臭い」
「分かった。様子を見て...!!」
佐久間と浅墓が厠から出るとナタが飛んできて佐久間の首元を霞んだ。
「危ない!」
「ごちそうが...こんなところに...逃がしはしない」
「どうしよう!」
「仕方ない!倉庫に行くぞ!」
「行き止まりだよ!」
「此処よりはましだ!」
佐久間は浅墓の腕を掴み外へ出て倉庫へ向かった。倉庫は鍵が閉まっていて中に入れなかった。
「くそ!中に入れない」
「どうやらこれまでのようですね...せっかくのごちそうがまずくなってしまいます...ここで死んでいただきます」
「ちっ!逃げろ浅墓!戻って殴ってもいいから先輩たちを起こして逃げろ!」
と言うと佐久間は女将に向って走り体当たりした。女将と佐久間はその場で倒れ、ナタは浅墓の足元に飛んだ。起きるのが遅くなった佐久間に女将はデッキブラシで殴り続け頭から血を流している。浅墓は咄嗟にナタを拾うと女将とナタを見て女将めがけて走り出した。
「佐久間!ナタが...これなら...ああああああああああ!」
と叫びながら女将の腹にナタを刺し離れた。刺された女将は痛みに悶えながらナタを抜くと腹から大量の血が流れる。佐久間と浅墓は傍に駆け寄り女将から離れた。女将は痛みで周囲が見えていないのか手当たり次第にナタを振り上げている。それがいけなかったのだろう。女将は足を滑らせて持っていたナタが頭に刺さってしまった。
「きゃああああああ!」
「な、ナタが頭に...」
叫ぶ二人を置いて女将は頭から流れる血で前が見えずゆっくり手探りで歩き始めた。女将の歩く方向には深い井戸があり、女将は井戸に落ちてしまった。井戸を確認すると女将の遺体があり二人は怖くなって宿に戻った。
**
「その後宿に戻って不審なところが無いように証拠を隠して宿に合った救急セットで当ててをした後、女将さんの部屋を調べました。女将さんの部屋にはスットクされた人肉がたくさん保存されていたり殺された時の写真がたくさん飾ってあったんです」
「そこには百年前に殺された例の観光客の写真もありました。歴代の女将さんたちはここで宿泊客を喰らってあの森で残骸を捨てていたそうです」
「そうだったのか...百年前の一連の事件は宿の歴代の女将さんの仕業だったわけだ。二人は確かに女将さんを殺したけど二人は襲われたわけだし、俺たちも二人が居なかったら今頃死んでたかもしれないし...”正当防衛”じゃないか?」
「話を聞くに刺したかもしれないが最終的には女将さんは自分で井戸に落ちたのなら事故だな」
「うん。私もそう思うよ。辛い話をしてくれてありがとう」
と本庄は言うと緊張の糸がほぐれたのか浅墓と佐久間は泣き始めた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「俺も、すみません」
と頭を避けて謝るとふたりは互いを庇い合った。二人は形はどうあれ女将を間接的に殺したのは事実だ。
「私達は自首します」
「俺も一緒にいきます」
「二人の気持ちは分かった。この件は部長である俺にも責任はある」
「「川上先輩...」」
二人は川上に抱き着いた。川上は二人を受け止めると背中を摩る。二人の告白で森から出られるかと思ったが出られず根本的な問題の解決にはならなかった。
「な、なんで!女将さんを殺したことは話したのにどうして!」
「俺たちどうしてここから出られないんだ!」
「落ち着いて...ねえ?女将さんが死んだ時、何か変様子はなかった?」
と本庄が聞くと思いだした佐久間が答える。
「そう言えば小さな声で何か言ってなんです。ってやるって」
「それって...呪ってやるじゃない?」
と本庄が言うと浅墓が言った。
「そうだ。女将さんは井戸に落ちる前に私と佐久間を見ていったんだ。呪われろって...」
「じゃあ俺たちが下りられないのって女将さんの呪いかよ!」
「そんなわけないだろ!呪いなんであるはずがな...」
取り乱した海藤に狂見は反論していた時にふと顔を上げると崖の所に誰かが立っていた。
「あ、あれ...」
狂見が指を指しと全員が振り向きその場所を見た。ちょうどその時近くに雷が落ち、崖にいた人物の顔が見えた。崖に立っていたのは死んだはずの女将だった。
「「「「「!!」」」」」
「「きゃああああああ!」
「「「うわああああああああ!」」」
狂見たちは発狂し走り出した。皆が混乱しながら走り続ける。辺りは霧に包まれ全員が走った。森から出られて宿に付き一息ついたが佐久間と浅墓がある異変に気付いた。
「「先輩、大変です!狂見先輩がいません!」」
「「「!!」」」
慌てて振り返り周囲を観察するが狂見の姿はなかった。
走り続けた狂見は宿がある場所まで向かうと息を整えてふと顔を上げる。
「やっと宿に着いた...はあはあ...え?宿じゃない」
狂見の目の前にあった建物は宿ではなく漆黒に包まれた立派な屋敷だった。不審に思い振り向くが霧のせいで視界が狭まり周囲が見えなかった。狂見は屋敷に建てられた札には”黒川邸”と刻まれていた。
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